Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #4

恐るべき子供たち - ギフテッドの特徴

 ジュディ・ダットンによる『理系の子 - 高校生科学オリンピックの青春』は、一心不乱に科学に打ち込む青年たちの物語だ。変わり者の天才少年少女は、彼らの歩んできた人生から研究テーマを見出し、それに青春をささげる。理解者である家族や先生は、世間からの「そこまでやらなくても」という視線や、オタクやギーク、引きこもりといったレッテルから彼らを守る壁となる。

 著者は、高校生による科学のオリンピックであるインテル国際学生科学フェアで、その目を見張る研究発表を、次のように記している。

 ― まず、いきなりガツンと食らわせられたのは、核融合炉であった。太陽がエネルギーを生み出すのと同じ原理を使って原子を融合させる装置だ。さらにいくつかのブースを見ていくと、ある生徒は遺伝子の組み換えによって「賢い青虫」を作り上げ、通常の青虫にはできないことをやらせることに成功していた。その隣の生徒は、ナノテクノロジーの研究で五つの特許を取得し、千二百万ドルの売り上げが見込まれている会社を経営していた。

 核融合炉を作る子供なんて、どれだけの割合で生まれるのだろう?1000人に1人もいるとは思えないが、それでは、ギフテッドと言われるだけの高度な知能の持ち主はどのくらいの頻度で期待できるのだろう。

 50人のクラスにギフテッドが一人いるとしよう。IQが正規分布に従うと仮定してざっくりと計算してみる。IQ 130以上のギフテッドはその子供の1人のみ。IQが115以上130未満でギフテッドの性質を少しは有しているかもしれない子供たちは6人、逆にIQが70以上85未満で、クラスの勉強に追いつくために追加の努力が必要な子供たちも6人、IQが70未満の子供も1人いるかもしれない。そして、大多数の30人が、IQ 85以上115未満の「普通」に位置付けされる。

 つまり、ギフテッドであるその子供のIQが130であれば、それは44人に1人。仮に高度にギフテッドであって、IQが145以上であれば1000人に1人いるかいないかの、希少な存在であるということだ。例えば、カナダのギフテッド・スクールにおいて要求されるIQは132以上であるが、これは人口の上2%に位置する値だ。

 ギフテッドは、乳児期の頃から人の顔を注意深く見つめたり、おもちゃや本に対する一風変わったこだわりを示す。幼児期にはほかの子供よりも早く、言葉や読み書きを身につける。そして、その性質が最も周囲に認識されやすいのは学童期以降だろう。ギフテッドは常に知的な刺激を渇望し、興味を抱いた分野に対して、自分の好みの方法で極めて深く掘り下げて探求する。

 教育心理学者のリンダ・シルバーマンは数多くのギフテッドとのカウンセリングを通して、その知的、人格的な特徴について次のようにまとめている。

知的な特徴: 優れた推論能力、知的好奇心、学習の素早さ、抽象概念の巧みな扱い、複雑な思考回路、鮮明な想像力、早い時期からの道徳心の目覚め、学ぶことへの情熱
人格的な特徴: 洞察力、物事を理解することへの欲求、頭の中で物事をシミュレーションすることへのこだわり、完璧主義、論理性や正確性へのこだわり、優れたユーモアのセンス、繊細な感受性や他者への共感力、熱しやすさ

 ギフテッドは一般に、同世代の子供と比較して、早く、広く、深く学ぶ。言葉や読み書きを早い段階で取得し、他の子供よりも豊富な語彙を身につけ、言外のニュアンスに対しても敏感である。基礎的なスキルをより早く、より上手に、わずかな反復練習で習得する。物事を抽象的なレベルで捉え、抽象概念の扱いに長けている。また、非言語コミュニケーションにも敏感であり、他の子供が言葉にできない気持ちを汲み取ったりする。早い段階で道徳心に目覚め、リーダーシップを発揮することも多い。

 ただし、ギフテッドといっても全ての分野で等しく秀でていることは稀である。例えば、数学が非常に得意であったりする一方で国語音痴であったり、早熟な文章の才能を見せる一方で計算が苦手だったりする。3歳を過ぎても言葉を話さず、両親を心配させたアルバート・アインシュタインなどは分かりやすい例かもしれない。また、ギフテッドは同世代の子供と発達段階が合わないために、年上と一緒にいることを好むことが多い。知能が高いために複雑さや抽象性を求めたり、高い自己基準を満たすための完璧主義の傾向を示す。

 重要なことは、こうしたギフテッドの振る舞いは、遺伝により生まれ持った資質と環境との相互作用によるものだということだ。教育熱心な親の元に生まれ、素直に一生懸命な学習で優れた成績を収めるような「優秀な子供」とは一線を画す。何より、「やりたいからやる」という自分でも抑えられない知的好奇心に突き動かされている結果、学業でも優秀さを示すのだ。多くの人が勘違いしているかもしれない。ギフテッドとは生まれながらの素質であり、残念ながら「こうすればギフテッドになる」という方法論はない。

 そして、幸運にも自己の才能を受け入れ、周囲のサポートを得ることができた一握りが、ジュディ・ダットンが出会った天才少年少女なのだろう。

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