Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #2

1500人の神童たちのその後

 ― 神童と呼ばれて育つ人がいる。2歳でひらがなを覚え、3歳になる頃には字が書け、5歳で創作した話を書いた。両親の持ってきた算数の教科書と問題集を読んでみると、何を言っているのか大体理解できた。小学生のうちに微分積分を終えた。

 あなたにとっても、小学校で席を並べたそんな存在が思い当たるかもしれない。では、幼少期に卓越した能力を示したそんな「神童」たちの、その後はどうなっているだろう?すば抜けた天賦の知性は、将来の成功までも約束しているのだろうか?

 本書の物語は、1500人もの神童たちの生涯と共に始まる。

 「神童」たちに対して誰よりも深い愛情と、情熱を注いだ心理学者のルイス・ターマンがいる。ターマンは、代表的な知能検査であるスタンフォード・ビネー知能検査の作成者としても知られている。しかし、その謙虚な性格のために、検査名には勤務していたスタンフォード大学の名前を付した。

 実に1921年。世界では第一次世界大戦が終わった直後の混乱期、アメリカではジャズが隆盛し、日本では大正10年、平民宰相と言われた原敬が東京駅で暗殺された年だ。人妻の恋などの自由恋愛の事件が話題になった年でもあると聞けば、まさに隔世の感がある。ターマンはカリフォルニア州の全ての学校から、IQが135以上の学童を集めた。その数は1528人 (そのうち、856人が男子、672人が女子)。そして、70年もの期間にわたり、世代を超えて追跡するという前代未聞の調査を行った。高い知能の持ち主は、期待される通りに科学や芸術、行政を前進させるような社会の指導者になったのだろうか?

 ターマンは生涯、まるで代理父のように、彼の若き天才たちに対して惜しみなく世話を焼いた。そして、その一人ひとりに対して分厚い人物調査書を作成し、知能のみならず、健康状態や興味、家系図、読書の習慣、遊び、家ではどう過ごしているか、それに家庭の収入や親の職業などを記録した。神童たちが何冊の本を有しているかを知りたがり、その平均は300冊以上であったと記録している。そして、多くの神童たちが、「ひ弱ながり勉」といったイメージとは程遠く、むしろ健康で幸福な子供たちであることを突き止めた。神童たちは、その他の集団の平均と比較して、高身長でさえあった。

 しかし、神童たちの成人後、ターマンの期待外れは一目瞭然であった。

 確かに、元神童たちの多くは学業において優秀な成績を収め、平均して多くの収入を稼いだ。97人の博士号、57人の医師、92人の法律家を生み出した。その中には、人気作家や、映画監督、有名なバイオリン指導者、原爆の開発に携わった物理学者も一人ずつ含まれていた。グループ全体の収入も、普通のホワイトカラーの二倍であった。しかしながら、ターマンが期待したようなアメリカ合衆国の指導者足りえるような創造性、高度な達成を示した人物はそれほど生まれなかった。元神童たちが中年期になった際の職業は、専門職が45%、管理職が40%、小売業が10%、農業が1.6%であり、肉体労働者も1.2%存在した。その多くは、ターマンが期待はずれと感じるような職業であった。

 ターマンは言う、「知能が高いことと、将来に偉業を成し遂げることが互いに相関しているとは言い難い」。その理由を明らかにするために、神童たちのうちで最も高い社会的な業績を示した150人と、最も成功しなかったと考えられた150人について、更なる研究がなされた。二つのグループは、知能検査の結果こそ同等であったものの、目標に向けた努力、忍耐強さ、自信、劣等感のなさなどについて、明らかな差を示した。最も成功した150人は、最もそうでなかった150人と比べて、大学を卒業した割合や、専門職に就いた割合が高かった。一方、最もそうでなかった150人は、離婚率や精神疾患の罹患率において高い値を示した。

 社会的な成功とIQにはそれほどの相関はない。まして、高いIQが幸せな人生を保証するわけでもない。実のところ、ターマンが同時期に調査をし、それほど頭が良くないと判定された子供の中から、2人もノーベル賞受賞者が出ていたことが後に明らかになった。物理学者のウィリアム・ショックレーと、ルイス・アルバレスと言われている。驚くべきことだ。二人ともそれほど頭が良くなかったと言うことなのだろうか。


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