Intellectual Giftedness - 才能についての科学 #1

はじめに

 きっとあなたのクラスにも、一人はいたかもしれない。

 あるいは、あなたがその一人だったのかもしれない。

 Intellectual Giftedness – 私たちの中にはいつも、誰よりも早く学び、優雅に問題を解き、時に画期的なアイディアを出す個人がいる。学校で言えば、その人はクラスの人気者で、いつも皆の輪の中心にいるかもしれない。逆に、眼鏡を掛けて、部屋の片隅で大人びた本を読んでいるかもしれない。あるいは、その能力を悟られないように隠し、意識的に周りに合わせ、道化ているかもしれない。もっと言えば、生まれ持った脳神経系の働きが異なるがために、その振る舞いや話し方が周囲に受け入れられず、劣等感に打ちひしがれているかもしれない。自分でもその才能に気づかずに。

 彼らをその他の大多数と分けるもの、それは生まれ持った「知能」だ。

 現代社会に生きる私たちにとって、「知能」に対する話題ほど、注目せざるを得ないものはない。何故なら、dog yearとも言えるテクノロジーの加速的な進歩によって、私たちの社会は日々目まぐるしく進化している。10年前の最先端のコンピュータと同等かそれ以上の計算能力を持ったスマート・フォンが上着のポケットに入り、フェイス・ブックによって世界中の個人がつながり、アマゾンによってほとんどあらゆる商品が自宅に配送される。10年後はどうだろう。恐らく、あなたは自宅のガレージに止めてあるガソリン車を売り払い、コンピュータ制御の電気自動車を購入するか悩んでいるかもしれない。場合によっては、人の手によって車を運転することは危険行為に相当するとされ、コミュニティによって禁止されてしまう可能性すらある。受付やレジ打ち、マクドナルドのハンバーガー作りといった仕事はロボットに替わるだろう。なんと言っても、そのロボットは対話によって仕事を覚えることができるのだ。しかも、あなたと違って疲れたり、間違えたりすることがない。上司にとっても、10年来の最も従順な部下となろう。これを手放す理由がどこにあるのだ。

 これは科学技術によるユートピアの到来のようだ。ただ、感受性が豊かで、注意深いあなたは、なんとなく落ち着かない。不安な気持ちを引き起こしているかもしれない。テクノロジーの日進月歩は、多くの凡庸な人々を振り落とし、加速しながら打ちあがるロケットのようだ。かつては100人に一人の秀才たちで作り上げた科学技術が、今は1000人に一人、10年後には10000人に一人しか、その全容を理解することが難しくなるのだ。

 社会インフラのブラック・ボックス化はますます進行する。高度な知能を栄養として。日常の隅々にまで、広く、深く根を広げていく。だから、現在、そして近未来において、人と人を区別する最も重要な尺度があるとすれば、それが「知能」であることは間違いない。今後、知能の重要性、その価値はますます高まっていくのだ。

 そんな知能について、一切の建前を排して、言おう。人々の能力には生まれ持った差がある。一部の人の神経系は、その他の大部分の神経系よりもより早く、精密に機能するように設計されている。それが科学者たちの多くが納得している結果だ。

 ギフテッドとは、天賦の才とでも言うべき、生まれつきの学習能力や素質を指す。その高い学習能力は生涯に渡って保持され、学業を初めとした社会の多様な場面で著しい活躍を示す可能性がある。「生まれつき頭が良いなんて羨ましい」と思うかもしれない。しかしながら、天から授けられた鋭敏な頭脳が、必ずしも「生きやすさ」や人生の幸福に繋がっているとは言えない。本書で見ていくように、その能力を発揮し、うまく社会に適応して生きていくためには、ギフテッドを受け入れるための社会の素地が欠かせない。周りからの理解を得ることがなければ、そのギフトは「悲劇的なギフト」となってしまうのだ。

 北米やヨーロッパの学校では、通常の学校教育では十分に能力を引き出せない子供を見つけようと試み、先天的に高い学習能力を持つ子供の才能を伸ばすために特別な教育を整備してきた。ギフテッド教育によって千に一人の才能を開花させることが、国家としての競争力につながることを理解しているためだ。その子供たちは、「数学、科学、分泌、政治、舞踏、美術、ビジネス、歴史、心と体の健康、その他の分野においても、将来リーダーシップを取る人材となる」からである。

 一方で、私たちの日本社会においては、ギフテッドの素顔はあまり知られていない。

 一人ひとりの努力に重みを置き、皆のスタート・ラインは平等であるといった建前を大切にする日本の文化は、個人的には嫌いではない。しかし、ここではその「建前」のベールを剥がして、「ギフテッド」についての物語を語ろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?