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「体罰」は「犯罪」

私たちが暮らす日本は法治国家であり、それはすなわち法律があるということです。当たり前ですが、法律を破れば、犯罪です。私たちには法律があるから、自らを律することができ、安心して日々の生活を送ることができるのです。

2年前にバスケットボールの試合中、ある高校のキャプテンがひどい暴力を受け、その後自殺するという最悪の事件がありました。試合中ということは、相手チームも含めてその場に多くの関係者らがいたことでしょう。もし同じような出来事が街中で起こっていれば、絶対に誰かが警察に通報したはずです。

ではこのケース、場所が体育館だったから、だれも通報しなかったのでしょうか?それともスポーツの最中だったからでしょうか?

どうやら日本人の中には、スポーツの世界であれば暴力があってもしょうがないという空気が流れているようです。しかし冷静に考えれば、「しょうがない」などあり得ないのです。なぜならその行為は紛れもなく法律違反であり、犯罪なのですから。

本来、子供達に法律を守ることの大切さを教えなければならない指導者という立場の人間が、自分の思い通りにいかないからと言って無抵抗な相手に暴力をふるう。そんなことは絶対に許してはいけません。

野球の世界においても、残念ながらまだ完全な暴力排除には至っていません。これも最近、ある少年野球チームで、小学生に酷い暴力をふるう映像がテレビやインターネットで流れました。

このチームのことは私もよく知っていました。その指導者が暴力をふるうことも有名でした。私は長く野球界に携わっているので、このチームで育った子供たちのその後についての情報なども多く入ってきます。耳にする情報の中にはこのチーム出身の何人かが、高校や大学で後輩イジメ、暴力で停学、退部したなどという話がありました。

ここで育ったすべての子がそうだとは言いませんが、指導者から暴力を受けて育った子供は、自分が上の立場になると、同じことを繰り返す傾向があるのです。暴力の連鎖は続いてしまうという実に悲しい現実です。

野球界では引退後、「将来指導者になりたいのでしばらくはネット裏から勉強します。」という言葉を口にする人がよくいます。このネット裏から勉強すること自体は大切なことだと思います。しかし、ネット裏からの勉強は、あくまで野球の技術や戦法のことなどに限定されます。

野球の情報を多く得ることは必要なことではありますが、肝心なのはその伝え方やタイミングです。野球界の指導者を目指す人の多くは、野球のことだけ熱心に勉強して、全スポーツに共通する「コーチング学」を学ぶ人があまりいない。そしてこの「コーチング学」をしっかり学んでさえいれば、暴力や恐怖で選手を支配する方法を選択することはあり得ないのです。

長く野球界に携わっていると現役の頃でも、コーチになってからでも指導者が怒鳴り散らしているシーンにしばしば遭遇します。彼らはきまって、自分が指示した練習をサボる、もしくは真剣に取り組んでいないのを見た時に怒り出します。「何故言った通りにしないんだ!」と。

例えばチームとして新しいトレーニングを取り入れたとします。そしておもむろにこう切り出します。「最近プロ野球の世界では股関節のトレーニングを重要視している。俺はちゃんと勉強したから今日からやるぞ!」といきなりトレーニングの方法を教えるのです。

しっかりやり方を学んできたのですから、たしかに方法論にはそれなりの知識はあるのでしょう。しかしここでは、最優先にしなければいけない事が抜けています。それは、「何故?股関節のトレーニングをするのか」ということです。

いきなり方法論を与えられただけでは選手たちには何故股関節を鍛えるの?という疑問が残り、なかなか前向きには取り組めないでしょう。そしてそれを見て「俺はちゃんと勉強して教えているのにサボりやがって!」となるのです。

そんなことで怒るより前に、この指導者は股関節を鍛えることでどんなメリットがあるのか?どういう風に変わるのか?を学んで、伝えなければならないのです。

それがしっかり伝わりさえすれば、選手たちは
「なるほど!股関節がそういう風に使えれば、こういう動きが可能になる。」「股関節を鍛えたら野球選手として得がある!」
「股関節を鍛えたい!」
「どんなことしたらいいんだ?」
となるのです。このプロセスこそが最も大切なことなのです。

こうして一度、自発的にそういう気持ちにさせてから方法論を教えれば、必然的にサボる選手も少なくなります。

この「何故した方が良いのか?」の部分は「方法論」よりも重要です。「何故」の部分と「方法論」二つも学べないというなら、私は方法論こそ省いてもいい、と考えています。股関節を鍛えたいと動機付けさえ出来れば、今の時代、その方法はネット等でいくらでも情報は得られるのですから。

極端な話、「お前たち自分で調べて股関節のメニュー作って持って来て!」でもいいと思うのです。そうすれば、指導者も選手たちの情報収集合戦に負けないように調べて、選手が自分で作ったメニューを改良していくようにサポートしようとします。健全な関係が生まれるのです。

選手が練習の意味をしっかり理解して、指導者がそれをサポートしていければ、サボるということも減り、腹が立つこともなくなっていきます。体罰へ繋がるようなこともなくなるのです。

あえて、もう一度言いますが、「体罰」は「犯罪」なのです。野球界の指導者の方々は、野球以外の事柄も必死に学ばなければなりません。私自身も含めて指導に携わる人間は常にこういうことを念頭に置いて選手と接していくべきなのです。


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