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野球の体力テストとその傾向②

今回は体力テストの項目に必ず入っている、ある「力」についてお話していきたいと思います。

私がメッツ時代、本拠地(当時シェイスタジアム)のトレーニングルームにはみんなが頻繁に使うある物が置いてありました。

握力計です。

トレーニングの一環として使っている選手もいたほどです。

1997年の事で、当時はまだまだMLBとNPBの筋力差は明らかでした。その中でも、私が最も違うと感じた筋力は、野手の握力です。

他球団の事はいざ知らず、メッツのトレーニングルームにあった握力計はカナダ製で単位がポンドではなくキログラムだったので余計に違いが分かりやすかったのです。

詳しく統計を取った訳ではないのであくまで主観的に私が目の前でメッツの選手たちを見た中では、野手で60kg以下の選手は見当たりませんでした。中には楽に80kg以上の数値を出す選手も何人かいたのです。これは日本の野手とは大違いです。

そもそも筋肉量では当時から全ての部位でMLBの選手たちの方が上回っていましたが、私が強く感じたのは、野手の握力を司る前腕の太さです。

日本の選手たちが(一般の方も恐らくそうだと思いますが)が、筋肉自慢をする時、腕を曲げて上腕二頭筋に力を入れ力こぶを作り、その大きさを自慢しますが、アメリカの選手たちは(アメリカの一般の方もそうかはわかりませんが)筋肉自慢をする時は、同じように腕を曲げるのですが、その時、手を握り手首を曲げたり伸ばしたりして前腕の太さを自慢しているシーンをよく見かけました。それを「コブラ」と言っていたのをよく覚えています。

実際、MLBの野手たちは前腕のトレーニングをよく行っています。アメリカではホーム・アウェイ関係なく、スタジアムのウエイトルームを自由に使える環境なので私はメッツの選手だけでなく、相手選手のトレーニングも目の当たりにしています。時には相手選手の補助もしていました。

彼らは総じてウエイトトレーニングを日本の選手よりかなりするなという印象ですが、中でも野手は前述の前腕トレーニングを多くしていると感じていました。では、なぜするのか?というと、彼らには、打球速度を高めるために握力を強くするという明確な目的意識があったからなのです。

バットの形状は棒状です。棒状のものに何らかの力が加われば「しなり」が出ます。特に金属より木製の方がより「しなり」ます。そこでの「何らかの力」とは何でしょう。皆さんの学生時代、筆箱の中にプラッチックの定規が入っていませんでしたか?その定規の端を握って固定し、もう片方の先端を後方へ引き、離すと定規の先端は勢いよく引かれた反対方向に行き、反対方向に一瞬反れるくらいになります。

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しかし、この固定する力が弱くなればなる程先端のスピードを遅くなります。

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この固定する力がすなわち「握力」なのです。つまり握力こそが「しなり」を作り、バットのヘッドスピードを上げるという事なのです。彼らはそういうことを知った上で積極的に取り入れているのです。

日本でも、握力は大切だと考える風潮はありますが、恐らく一家に一台あるだろうと考えられるハンドグリップを用いる程度です。

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もちろんこれでも強くなりますが、これではある一定のレベルまで握力計の数値が伸びても、それ以上は伸びず、反復回数が増えて、筋持久力が伸びるだけです。

バットスイングのように一回に出す力を増やすためには、扱う負荷も上げなければなりません。当時のMLBの各球場でよく見かけたのは、ちょっとしたマシンでプレートをはめて行う握力強化マシンでした。当時はそのマシンの事をカンセコバッシャーと呼んでいました。今もあるかはわかりませんが、2回目の千葉ロッテ復帰した時、アメリカからこのマシンを取り寄せて頂きました。

実際に、ある社会人野球の名門チームの握力とスイングスピードと打球速度の相関を見てみると、そのチームのスイングスピード最高値は149,0kg m/h、打球速度は最高値157,7km/hです。そしてこの2つの最高値を叩き出した選手は同じ選手です。この選手は名門チームのクリーンアップを打っています。そしてこの選手の握力を見ていくと74.7kg、73.9kgでこの項目もチームトップです。

このようにMLBの選手たちが行っていたように、握力は、スイングスピードを上げる、打球速度を上げるための、ひとつの重要なファクターとなっています。そう、これだけではない、とはいえ、握力は非常に大切なのです。

握力を強くしたい人は、前述したようなマシンはなかなか手に入らないので、下記する2つのトレーニングを取り入れてください。

1・実際に握力計を全力で握る5〜6回

2・スタンディングリストカール 12RM/kg・15/RM↑(12回くらいで限界になるダンベルで毎回限界まで行い、その回数が楽に15回を超えるようになれば重りを重くする)。

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この2つを3セット3日に一回行うとよいでしょう。

次回も体力テストのお話をいたします。

 


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