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野球の体力テストの結果と傾向

例年この時期になると、野球チームの体力テストの準備をしています。私が初めて体力テストに関わるようになったのは、プロ入り前、修行をしていた大阪ミナミにあるダイナミックスポーツ医学研究所というところに在籍している時からになります。

この施設は、スポーツドクターによる診察と、リハビリ、トレーニング、そしてスポーツ医科学を研究する機関で、研究の一環として、少年野球、高校野球、大学野球のチーム単位の体力テストに関わるようになったのがきっかけです。

また、プロに入ってからも、ほとんど毎年シーズン終了後にこの体力テストを行なってきました。社会人野球チームに在籍している時は、筑波大学野球研究班のメンバーに手伝ってもらい、貴重なデータを毎年抽出して頂いていました。筑波大大学院生時、自分の研究や修士論文制作のためにも主に大学野球選手の様々な体力テストを活用していました。

この体力テストは、研究以外で何のために行うのかというと、シーズンを振り返り、テスト結果とケガやボール速度やスイングスピードなど、様々な事と照らし合わせて、来シーズンに向けて、チームと個人の目標やトレーニングプログラムに反映させるためなのです。

まる1日、時には2日かけて、グランドで行う30m走のタイムや、立ち幅跳び、メディシンボール投げなどを行い、室内では、コンピュータ制御の筋力測定や、スクワット、デッドリフト、ベンチプレス、ラットプルダウンの1RM(最大挙上量)または足指力などを測定します。

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そして、形態測定で身体のサイズや身体組成を調べて筋肉量を測定します。

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時には筋電図や動作解析なども行います。

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ここでは紹介しきれない程様々なことを測定するのですが、長年体力テストを繰り返していると、野球選手としての特性がよく見えてきます。

良い機会なので今回は、代表的な傾向をご紹介しましょう。

まず30m走のタイムと、投手のボール速度、野手のバットスイング速度が、高い負の相関性があります。負の相関性とは、あるデータの数値が低くなれば、もう片方のデータの数値が高くなることを言います。つまり、30m走の数値は低いほどいいので、30m走のタイムが良くなると、ボール速度、スイング速度の数値は高くなる傾向であるということです。

また同じくスクワットの1RMとボール速度、スイング速度との高い正の相関性があります。正の相関性とは、片方のデータの数値が高くなると、もう片方の数値も高くなることを言います。つまり、スクワットの最大挙上量の数値が高い程、ボール速度、スイング速度の数値も高くなる傾向であるということです。

また30m走のタイムとスクワットの1RMの数値も高い負の相関性があります。つまりこの2つの数値を良くし、技術練習を繰り返し効率よく身体を使えるようになれば、もちろん他の要素もありますが、ボール速度やスイング速度を相当速く出来るということです。

そして、ひと昔前までは、全身持久力の評価として、私は12分間走を用いていました。しかし、ここ最近では20mシャトルランを行っています。12分間走の時に気がつかなかったのですが、20mシャトルランに変えてから、いつも最後の方まで残っている選手たちは、ボール速度やスイング、または足が遅い選手が多い傾向にあるということに気がつきました。

これには、先天的な要素もあります。筋肉は、速筋繊維(強く速く収縮出来るが持久力があまりない)、遅筋繊維(出力は弱くスピードもあまりないが、長時間力を発揮出来る)、中間繊維(速筋、遅筋の中間的な出力)とあります。

生まれつき速筋繊維と遅筋繊維の割合は決まっています。遅筋繊維が先天的に多い人は、マラソン型の競技に強く、速筋繊維が先天的に多い人はパワー系の種目で活躍する傾向にあります。野球では投手は野手に比べて多少の持久性を要求されますが、基本は典型的なパワー系のスポーツ、速筋繊維が物を言う種目です。20mシャトルランの成績が良いほど、遅筋繊維が多く、逆に速筋繊維が少ないことを示唆されます。もちろん、遅筋繊維が多いと考えられる選手でも、速筋繊維をしっかり鍛えることと、より効率の良い身体の使い方で十分野球選手として良い成績をあげることができます。

この速筋繊維と遅筋繊維の割合は、後天的にトレーニングによって変わることはないと、1976年コミ博士の発表以来そう言われ続けました。しかし、カルフォルニア州立大ガルピン研究グループが、一卵性双生児たちを約30年間調べ続けた結果、繊維の割合は後天的に生活様式によって変わるということを発見したのです。
  
私は、常にストップウォッチを持って、ダッシュ等のタイムを測ってきました。若い頃いつも疑問に思っていたことがあります。それは短距離走のタイムがプロ入り一年目が最も良く、その後は悪くなっていく選手が少なくないことです。

今では随分改善されてきたはずですが、1990年代は、典型的な「質より量」の練習でした。つまり、練習量のせいで後天的な生活様式が持久力的になり、中間繊維が遅筋繊維に変化してきたのであろうと考えられるのです。

野球は究極のキレ、スピード、パワーの種目です。その観点から考えると、絶対的に「量より質」の練習が求められるのです。一生懸命頑張ってトレーニングをしても、そのトレーニングが持久的なものであれば、遅筋繊維を増やしてしまい野球選手としてのパフォーマンスを低下させる可能性が高いのです。

このように体力テストの結果は、我々に多くのことを教えてくれます。冬場になればお決まりの持久走をメインにするチームが多いと思いますが、持久的な練習は、速筋繊維に刺激がいかず、中間繊維が遅筋繊維になっていきます。したがって、年間を通して、そして冬場でも30mダッシュをメインにするほうが効果的です。そして、ウエイトトレーニング、中でもスクワットをしっかり行うことが大切なのです。

次回も野球の体力テストのお話をさせて頂きます。
  


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