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【映画レビュー】『キャスト・アウェイ』

ロバート・ゼメキス監督による作品で、主演はトム・ハンクス。日本での公開は2001年なので約20年前の映画。

貨物機の墜落事故により、遭難してしまった主人公。彼は奇跡的にも助かり、無人島に流れ着く。獣もいない無人島で愛する人と再び会うため、主人公は究極のサバイバル生活を始める。たった1人で4年も無人島で生き延びた、奇跡の生還を描いた作品。

MIHOシネマ-映画『キャスト・アウェイ』の概要より抜粋
(https://mihocinema.com/cast-away-10259
)

ここから下はガッツリネタバレを含みます。







いまでも東京の街中やそれこそ空港に行けば必ず目にする世界最大手のFedExに勤めている主人公のチャック(トム・ハンクス)が乗った貨物便が太平洋上で墜落する。チャックにはケリーという恋人がいる。

墜落した機内から運良くチャックだけ脱出することができて、目が覚めると無人島に漂着している。さあここからいよいよサバイバル生活がスタートする。

着の身着のままで靴も履いていない状態からのサバイバルなので、知識は現代人でありながらほぼほぼ原始時代からスタートするようなもの。そういった意味では異世界転生ものと着想は親しいものがあるかもしれない。

とにかく島で生き抜いていく為に試行錯誤するチャックを淡々と描いていくので、見る人によっては起伏がなく退屈に感じるかもしれないけれど、変な脚色をしていないぶんリアルな無人島生活が描けているんじゃないかなという評価です。

共感できるシーンが水分を求めて試行錯誤しながら椰子の実を割るところ。まずあの外側についたもしゃもしゃしたやつを中の実から引っ剥がすのに人外のパワーを要するのだ。
チャック(トム・ハンクス)は尖った石を使ってなんとか実を取り出すことに成功したものの、その実を勢いよく石で叩き割ってしまって中の水分ごと漏出させてしまう。お手本のような椰子の実初心者のムーヴをここで見せてくれて僕はほっこりしてしまう。

火起こしに悪戦苦闘するシーンもとても見ごたえがあったし、僕もいざという時の為に火起こしのやり方をGoogleで検索してみたら検索結果のTOPに”バーベキューコンロの上に着火剤を置く”という文言が目に入って嘆息してしまった。違うそうじゃない!!

とはいえ、お守りにファイヤースターターをバックパックに忍ばせておくぐらいはしても良い気がしたのでAmazonで1000円ぐらいのファイヤースターターを探しているところ。

他にも関心したのが、チャックが寝床にしている洞窟の隙間から差し込む陽の光を使って洞窟内の岩に日時計を作っていたシーン。

その太陽の光が差す洞窟内の岩のポイントが、365日を通して八の字のラインを描いていて、どうして八の字を描くのか気になって調べた。

アナレンマ(Analemma)とは、均時差によって1年のうちに太陽の位置が8の字型を描いて運動すること。

Wikipediaより"アナレンマ"の頁より抜粋
(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%9E
)

いやいや、まだまだ知らないことがこの世にはたくさんあって実に面白い。また一つ勉強になったし、これで僕も遭難したら日時計作れるね!

チャックは墜落した貨物機からの漂着物をいくつか手に入れることができて、そのなかにバレーボールがあったんだけど、そのバレーボールに自分の血で顔を書いて友達の様に接し始める。

長いこと誰とも会話せずに日々を淡々と生きるのってそんなに苦痛なのかなあと僕は思うのだけれど、今こうしてnoteに気持ちをアウトプットする行為と大差ないのかもしれない。

それと、肌見放さずずっと持っていた懐中時計の中のケリーの写真に話しかけることはしないで、そのバレーボールで形造ったイマジナリーフレンドのウィルソンと仲睦まじくしているのも何か象徴めいている。

いざというときの心の支えになるのは愛している異性じゃなくって、気のおけないなんでも話せる理解のある同性の友達なのかもしれない・・・。

チャックはある日自分の虫歯が進行して痛くて痛くてどうしようもなくなり、漂着物から手に入れたスケートシューズの刃を奥歯に当てながら手に持った握り拳大の石で勢いよく刃を叩いて虫歯を抜いた(叩き割る?)拍子にあまりの痛さに気絶するというシーンがあった。

僕はこのシーンを見て、現場作業中に誤って小指の先っぽを潰してしまい、手持ちの裁縫セットの針と糸を使って自分で縫い合わせた(もちろん麻酔なしで)豪胆な友人のことを思い出した。

と同時に麻酔の無い時代の医療ってどんなんだったのか想像しただけで身体中がぞわぞわしてしまうし、「麻酔の注射嫌い!」とか言ってらんないなーとも思った。

なんやかんやあって、手作りの筏で無人島を脱出したチャックはたまたま側を通りかかった貨物船に発見されて5年目にして故郷の大地にもどってくることができるのですがここで更なる悲劇がチャックを襲うのです。

彼女のケリーが別の男性と結婚し子供までいるという、見ているこっちの方が辛くなってくる。なんで戻ってきてしまったんだろうという表情のチャックが所在なさげにしているのが余計に悲しみを誘う。
そして、落胆しているチャックが食べ残されたパーティー皿の料理を眺めたり、チャッカマンの火を付けたり消したり、ホテルの室内で照明を付けたり消したりしているシーンが火起こしの悪戦苦闘と対比していてとても印象的だった。

ここではこんなに簡単に火や灯を付けることができるし、寝床もある、食べ物にも不自由しない、なのにいちばん大切なものがここには無い。そんなチャックの心の声が聴こえてきそうなシーンでした。

むかしばなし『浦島太郎』の物語では竜宮城から戻ってきたら自分を知っている人が誰も居ないぐらい時が経っていたけれど、この『キャスト・アウェイ』では墜落から5年ぐらいしか時が経過しておらず、なまじっか自分を知っている人間がみんな生きているというのが逆に残酷な現実をチャックに突きつけてしまったのかもしれない。

元恋人のケリーと再会したんだけれど、ケリーの今の生活と幸せを願い潔く身を引くチャックは偉いよな。性に奔放な日本人の感性だったらここからドロドロの不倫劇に発展しそうな流れなんだけどさ、さすがロバート・ゼメキス。

映画のラストのシーンでは遥か先まで伸びる真っ直ぐな道を眺めながら佇んでいるチャックには、ちゃんと前を向いて自分のこれからの人生を歩んでいこうという決意と希望がみえた。

たぶんあのあと、羽根のマークのお姉ちゃんの車を追いかけていって連絡先ぐらい交換したんじゃないかなと。ケリーより全然若そうだしさ、過去にとらわれず前を向いて進んだほうが道が拓けるってことよチャック!過去は過去、今を生きよう。


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