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鈴木心の超 写真がうまくなっちゃうワークショップに参加した話

2023年1月から、写真家の鈴木心さんが主宰する「鈴木心の超 写真がうまくなっちゃうワークショップ」、通称「超写うま」(ちょう しゃうま)に参加しました。


超写うまって?

その説明の前に、写うまとは何か?をおさらい。

約3か月を通して、ご自身で決めた写真家ひとり、写真集1冊を徹底的に読み解き、その人になりきって(憑依させて)自分の作品を撮る。最終課題として制作した写真集は、憑依させた作家ともちがう何かがはみ出た唯一の作品となる。そのはみ出た部分があなたらしさ。

作家の視点や技術を真似ることで、借り物では済まなかった自分らしさを見つめ、最終的に「伝わる写真」を目指す。

というのがベーシックな「写うま」です。期間中、ほぼ毎日Instagramで心さんから講評をもらえます。僕はアメリカの写真家、アレック・ソスをお手本としました。

詳しくは「写うま3期」に参加したときのレポートをお読みください。

「超写うま」は、この「写うま」を修了した人だけが参加できる、いわば「写うま」の上位版です。

「超写うま」とは何ぞや?を、公式サイトから引用します。

超写うまでは、写うまで取り組んだ作品づくりを発展させ、ご自身でコンセプトの構築を含んで制作にあたっていただきます。さまざまな写真家の表現力や思考力を借りながら、創造力を鍛え、自分の写真の可能性を広げていく。 写真と生きていくために。写真で生きていくために。

https://szkshn.stores.jp/items/63aa91eec1f8c51380895b3d より

全参加者10名(最終9名)のうち3期生は僕と塚田さんの2名で、1期、2期の方々もいました。全員が写うま経験者なので、最初から話しやすい。

ベーシックな写うまとの違い

「超」と「写うま」で大きく異なるのは以下の3点です。

  1. ワークショップの期間が1月〜5月下旬と長期(写うまは3ヶ月間)。

  2. 作品化に向けてテーマが与えられる。前半は「世界」、後半は「愛」。

  3. 憑依させる作家を決めなくてよい。

1に関しては、写うまで行った基礎練習はなく、開始から考察と制作にどっぷり浸かる5か月間です。

ただ、2に書いてあるとおりテーマが「世界」と「愛」でふたつあり、さらにその途中でもメンバー主導で「コンビニ写真対決」「超ブクブク」など撮影の催しが突発的に開かれるので(参加は自由)、なんだかんだやることはとめどなくあります。そもそも自己の掘り下げ、テーマの研究などに時間は溶けていきますし、長いようでアッという間。

長期間であることの良さは、写真に季節の変化が影響・反映されることにあります。たとえば雪から桜、初夏まで写せるし、光も変化する。人々の服装が替わってくるさまも作品に活かせます。

3の「憑依させなくていいよ」については、後半の「愛」からそうなりました。前半テーマ「世界」では、各々が畠山直哉さんや市橋織江さん、斎藤陽道さんら作家になりきって取り組んでいましたが(僕は中平卓馬で)、それは「写うま」の延長線上にある準備運動みたいに感じます。

後半テーマ「愛」からがむしろ超写うまの本領。これまでさまざまな写真家の思考や画づくりや人生観に触れてきたからこそ、いったん自由になって自分なりの「愛とは」を言語化しつつ、撮影・編集していきます。

この言語化が肝で、ちゃんと自分が何を目指したいのか掴んでいようね、だとか、掴めなくても掴もうという欲を持って取り組もうね、ということ。ふだん生活していて「愛とは・・・・」なんて考えないですから、苦しくも楽しいです。

超写うまで自分は何をつくったか?

さて、大ざっぱに概要を説明したところで、自分の制作記録をオープンにしてみます。

まず最初にやったのは、1月17日から5月24日までの長丁場を乗り切るために、Googleスプレッドシートでスケジュールを作りました。

ZOOMのURLもコピペしておくのがコツ。

働きながら取り組むので、課題に充てられる時間はどこにあるのか?を先に把握しておかないと潰れます。


「基礎的な鍛錬はなく、開始から考察と制作にどっぷり浸かる」と書きましたが、テーマ1の「世界」までは毎週水曜と日曜に行われる心さんの講評を目指して課題を提出していきます。

【課題】
Instagramにて、写真(1〜4枚)+ タイトル + ログライン 1投稿を提出。

撮るだけでなく、ログラインを考える

耳慣れない言葉が飛び込んできました。

その映画がどんな話か、映画の見どころや要点を1~3行程度で表したものがログラインです。映画?そう、元はハリウッド映画で用いられる手法で、良いログラインは莫大な制作費を呼び寄せたり、その映画を見た観客が友達に勧めるときに端的に魅力を伝える骨子となります。つまり、それを聞いた人が「見たい!」と思わせる3行がログラインってこと。

・・・・写真のログラインはハリウッド映画で言うそれとはすこし趣が異なってきますが、端的に書くことで、鑑賞者に「へえ、もうすこし話を聞こうか」と立ち止まってくれる引きがあなたの写真にありますか?そういうこと考えて撮ったりレタッチしたり構成できてまっか?と振り返る指標ともなるわけです。フィーリングで曖昧にしないってことですね。

課題1 「世界」篇

僕は「世界」で憑依させる写真家「中平卓馬」の写真集「Documentary」のログラインを書くことから始めました。

こうして見ると、ログラインとは書店のPOPのようなものですね。数行を読ませることで手に取ってもらえるかどうか。

続いて、自分でも中平卓馬を研究しながら毎日撮影していきます。

「中平卓馬が今も生きていたらiPhoneで撮ったんじゃないかな」という心さんの言葉を受けて、ぜんぶiPhoneで撮影。

スマホにスキャンされて出てくる世界は色鮮やかで空っぽの塗り絵だ。だけど、見ることを、塗りつぶすことをやめることができない。やめ時がわからないのがこの世界だ。やがてすべてを取り込みたくなる衝動に駆られる。

何だこれ?ログライン?ていうか詩?こんなことを考えながら編み、難産なりに形にはできました。

さあ、次は「愛」です。

課題2 「愛」篇

愛?アイ?AI?

母性愛、家族愛、恋愛、自己愛、慈愛、人類愛、博愛、寵愛、偏愛、溺愛、愛憎、愛妻、愛娘・・・・

ばーっとノートに書き出してみたり、愛にまつわる本を図書館で片っ端から借りて読んでみたり、愛を描いた写真集や映画、NHKスペシャル「脳と子心」を見てみたり、自分の過去を振り返ってみたり。

いきなり撮るのではなく、どの角度から取り組むかを鮮明にするためにインプットから始めます。

同時に、憑依させたい写真家を決めなくていいとはいえ、自分が撮りたい世界観と共鳴する作家は当然参考になるので、そういう方々の写真集や書籍を買い集めて教科書にしていきました。

僕は鈴木理策さん、川内倫子さん、畠山直哉さんの作品への取り組み方、撮り方、被写体への関わり方を調べて参考にしました。

さらに写真集化するにあたって、

「愛とは、それを注ぐべき対象に出会った瞬間から逃れられない感情。それはむくむくと膨らみ、やがて対象を失う未来を恐れずにはいられなくなる。人は愛ゆえに不安との戦い、あるいは同居を余儀なくされる。」

といったことを根底に進めることにしました。

なぜなら、4歳の娘への愛情と、彼女を取り巻く世界のニュースから沸き起こる負の感情とがない交ぜになる日々だから。この不安を抱えながらも生きていくことが自分にとっての愛だ、と思いました。

そんなことを考えながら保育園の送迎用のママチャリを走らせていると、世田谷一家殺害事件の現場だった住宅に向かっていました。


2000年、20世紀最後の大晦日に起きた一家四人の惨殺。当時二十歳だった自分も忘れられない事件でしたが、自宅からそう遠くないのに、この目で見るのは初めてでした。

違和感を隠そうともしない仮囲いが、怖くてたまらず慌てて現実に蓋をしたようにも見えます。周囲の家々はとっくに取り壊され、この立派な空き家だけがひっそりと佇んでいる。隣の公園では幼子と両親がすべり台をしている。なんだこの表裏一体は。

そこから本格的に撮影が始まりました。畠山さんスタイルで入念に調べ、鈴木理策さんスタイルで絞り開放の中判カメラで撮り。


この写真集に公益性という伝播力がどこまであるのか不明ですが、愛を注ぐべき対象と、なんらかによって愛が、命が絶たれてしまった現場とを交互に織り込んで一冊の本としました。


さらに、調べたことや撮影中に起こった数奇な(としか言いようのない)出来事を書かずにはおれなくなり、ページの最後にキャプションをしたためました。

講評日の前日に祖母が亡くなって、急きょ葬儀への参列に子どもと帰省し、そのときの写真も追加・再編集して6月に完成を見たのでした。

ホワイトバランス揃ってなくてスミマセン。

まとめ 「写真と生きていく」

もっとこうすればよかった、とか、再編集したいとか、未だ欲がとどまらないくらい、のめり込みました。

「愛」に関してはほとんどInstagramにアップすることなく制作しちゃいましたが、自分以外のメンバーへの講評も含め、鈴木心さんのガイドやヒントが役立ったことは言うまでもありません。ありがとうございました。

「写うま」以上に「超写うま」で貴重だったのが、参加者同士の学びのあるやり取りでした。多種多様な人々からのフィードバックや「この本面白かったです」などの情報シェア、「私の写真どう思いますか?」という問いかけ。それらが自分ひとりで孤独に作品制作するのとはまた違った刺激を運んでくれました。

なかでも田島さん(ワークショップ期間中に男児出産、四児の母に!)の課題作品は僕の人生レベルで影響を受けたのですが、それはまた、別の話。

これからも、もっと撮って、考えて、束ねていきたい。それが「写真と生きていく」ということか。

鈴木心さん、運営の山田さん、メンバーの田島さん、牧野さん、藤原さん、三浦さん、塚田さん、小林さん、古川さん、馬場さん、なおこさん(順不同)、ありがとうございました!

伊藤 拓郎

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