大分トリニータ対横浜F_マリノス_1

大分対横浜FM レポート ~人につくが、人につかない。横浜を破った大分の「ハイブリッド型」守備戦術~ [2019J1リーグ第4節]

代表ウィーク前最後のJ1リーグ。今回は、昇格組ながら開幕節、アウェーで鹿島に勝利し、3節では磐田を破る、というサプライズを演じている好調の大分トリニータと、開幕3戦負けなし(2勝1分け)で、とても魅力的なサッカーを見せているこちらも好調の横浜F・マリノスとの一戦を取り上げます。先に結果から言いますと、大分が2-0で勝利。高い完成度の攻撃を見せるマリノスを、見事に完封しました。そのマリノスを封じた大分の人につくが人につかない、「ハイブリッド型」守備戦術を中心に試合を見ていきましょう。

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ここまでの3節も1試合ずつレポートを書いています↓

ゴール 大分トリニータ 2 : 0  横浜F・マリノス

大分 55'藤本 59'藤本

スターティングメンバー

まずはスタメンから

このように大分は5-3-2でマリノスは4-3-3。大分は前節の3-4-2-1からシステムが変わりましたが、メンバーは変わっていません。マリノスは、前節の川崎戦はレンタルの契約上出場できなかった三好がスタメン復帰。それ以外は同じメンバーです。

大分・攻撃 マリノス・守備 ~「GK上げ」による4バック化~

大分の守備について長く書くので、この章は短めに行きましょう。マッチアップは5-3-2対4-3-3で変わりませんので、いきなり大分のビルドアップのシーンに行きましょう。

はい、このように、大分の3バック(福森、鈴木、磐田)に対して、マリノスは3トップ(仲川、M・ジュニオール、E・ジュニオ)をそのまま当てるので、3対3の数的同数となっています。大分のビルドアップの最大の特徴は、「後方では何が何でも繋ぐ」ことです。GKの高木も加わって、どれだけマリノスにプレッシングをかけられても、ショートパスを繋いで、プレッシングを交わすことを目指します。なので、エリア内でも繋ぎますし、ゴールを横切るようなパスも見られます。そんなチームはJリーグだけでなく世界を見渡しても中々見られませんが、もっと大胆なこともしています。こちらをご覧ください。

一瞬どういうことや?と思ってしまうような図ですが、何が起こっているかというと、ゴール前にGKがいません。上がっています。はい。左右のCB(福森、磐田)がサイドに広がり、中CB(鈴木)の左脇にGK高木が上がって入り4バック化することで、マリノスの3トップに対して4対3の数的優位を獲得し、プレッシングを交わそうとしていました。これに関しては、世界でも数えるほどのごく少数しかいないでしょう。僕が知っているのは、今もやっているかは分かりませんが、ドイツ2部のハンブルガーしかありません。とてもとても、とても大胆な試みです。

しかし、この試合の大分は、繋いで繋いで繋ぎ倒して美しく崩すのが目的ではありませんでした。繋ぐことでマリノスのプレッシングを交わしてボール保持者が余裕を持てれば、ロングボールを前線に蹴っていました。プレスを交わすことでボール保持者が余裕を持ち、ロングボールを蹴って、高い位置でセカンドボールを拾い、藤本、後藤の2トップを中心に速攻を仕掛ける、というのが、大分の攻撃の狙いでした。(プレッシングを交わさずに蹴ると、プレッシャーを受けた状態なので、精度が落ちます。)スカウティングで、マリノスがずっと止めることなくハイプレスをかけてくるのは分かっていたはずなので、次々と襲い掛かってくるプレスを相手に最後まで繋いでゴールを狙うことよりも、交わしかけたらすぐにロングボールを蹴る事の方が、プレスを交わすことには効果的だ、と片野坂監督は考えたのだと思います。

大分・攻撃 マリノス・守備 ~大分のハイブリッド型守備戦術~

では大分の「ハイブリッド型」守備戦術の分析に移りましょう。

これが、マッチアップですが、横浜の攻撃時のシステムは、全く違います。

まずはマリノスのシステムについて。上図のように、WG(M・ジュニオール、仲川)が大外レーンに張り、IH(天野、三好)がライン間のインサイドレーンに入ります。そして、IHが上がることで空く中盤のスペース(アンカーの喜田脇)をSB(ティーラトン、広瀬)が内側に絞り、「偽SB」となることで埋めて、リスク管理をします。なので、2-3-5というシステムで攻撃します。

では、大分の守備戦術に行きましょう。最初に、

はい、このように、自陣に5-3-2ブロックを組んだところから、プレッシングをかけていく形でした。

では本題の「ハイブリッド型」守備戦術について。まず大分は、人につく守備をします。

このように、アンカー(前田)が相手アンカー(喜田)をマーク、IH(小塚、ティティパン)は内側に絞っている相手SB(ティーラトン、広瀬)をマーク、WB(松本、高山)は相手WG(M・ジュニオール、仲川)、左右のCB(福森、磐田)がインサイドレーンにいる相手IH(天野、三好)をマークします。このようにして、フルマンツーマンを行い、自分のマークが動けば追跡します。しかし、タイトルにもしているように、大分は、人につきますが、人につきません。マンツーマンだがマンツーマンでない、ゾーンだ、ということです。ではその「ハイブリッド型」の説明に行く前に、完全なマンツーマンの場合をご覧ください。

この図の通り、完全なマンツーマンであればどこにでも追跡してフリーにさせないようにします。しかし、マンツーマンであり、ゾーンであるので、完全なマンツーマンではありません。それぞれの選手の担当ゾーンがあります。それがこちら。

上図のように、左右のCBがインサイドレーンを守ります。その他の選手も図のあたりのゾーンを守ります。ここからがややこしいところなのですが、マンツーマンでもありゾーンでもある、「ハイブリッド型」とはどういうことか、ということです。とりあえず図をご覧ください。

では「ハイブリッド型」守備戦術の構造を説明します。

まず、どこを守るのか、というのはゾーンを基準にして決めていますので、完全なマンツーマンのように、ずっと追跡してマークすることはありません。なので、自分のゾーンにいる相手を、自分のゾーンにいる時のみマークします。しかし、他の選手のゾーンに相手が移動しない限りは、マンツーマンでマークします。なので、例えば、左CBの福森の担当ゾーンは、DFライン付近のインサイドレーンです。しかし、三好が下がっていっても、人につくので、追跡します。完全なゾーンであれば、そのような人について行くことはしません。ここが、僕が「ハイブリッド型」と言っている理由です。ゾーンでマークする選手を決め、ゾーンではしない人について行く(追跡)守備をする。ですが、ゾーンでマークを決めているので、自分の担当ゾーンをマークしている相手が離れれば、(例えばポジションチェンジ)受け渡します。この追跡する、受け渡す、といった判断を大分の選手たちは正確に下していたので、エラーが生じることはありませんでした。

この「ハイブリッド型」守備戦術をしっかりこなしたことで、マリノスは全ての選手がマークされているかつ、ゾーンでマークを決めていることで完全なマンツーマンを採用している時に起こる特定のエリアに多くの選手が集まってスペースが空く、という状況(その状況を下図に示します)がなく、バランス良くスペースが埋められているので、フリーの選手が生まれず、テンポよくパスが回りませんでした。なので、作れたチャンスは少なく、大分の「ハイブリッド型」守備戦術に見事に抑えられました。(完全なマンツーマンによってスペースが生まれている図↓)


この守備戦術を見事に遂行し、ボールを奪ってからのカウンターアタックと、片野坂監督の素早くボールを渡してスローインをスタートさせたところから左サイドを崩し、その2次攻撃でのグラウンダーのクロスで藤本が素晴らしい2ゴールを挙げ、2-0のクリーンシートで勝利しました。

綿密に片野坂監督はじめスカウティングチームらが、マリノスを分析して、マリノス対策の守備戦術を構築してきたんだな、ということが伝わりますし、選手の戦術理解度も高いな、と感じる試合内容でした。

また、左利きのGK高木は、とても精度の高い、ピンポイントのフィードを蹴ることができ、藤本は、とても積極的に、裏への抜け出しを中心に動き出しを行っている印象でした。

総括

大分 攻撃では、徹底して繋ぐ。時よりGK高木が中CB左脇に上がって入り、4バック化してマリノスの3トップに対して4対3の数的優位を獲得するシーンも。この試合の目的としては、繋ぎ倒して崩すのではなく、繋ぐことでプレッシングを交わして、ロングボールを前線に送りこみ、速攻を繰り出す、というものだった。守備では、5-3-2のブロックを組み、ゾーンを基準にしてマークを決めるし、自分の担当ゾーンを離れれば受け渡すが、自分の担当ゾーンの中でマークの相手が動けばゾーンではやらない追跡守備を行う、というマンツーマンの要素も含まれている、人につくが人につかない、「ハイブリッド型」守備戦術を、見事に選手達が乱れることなく遂行し、マリノスのとても組織的な攻撃を無得点に封じた。

マリノス 守備では、相手の3バックに対して3トップを当てて、敵陣深くまで常に強度を落とさずハイプレスをかけた。攻撃では、大分の「ハイブリッド型」守備戦術に完敗。見事に抑えられ、中々チャンスを作り出すことはできなかった。

マリノスもそうですが、昇格組の大分が、勢いではなく戦術で勝てるところを見せているので、どこまで行けるのか、今シーズンのJ1リーグを盛り上げてくれそうな、楽しみな存在になりそうです。

最後にもう一度書かせていただきます。もしこの記事を気に入っていただけたら、このnoteのフォロー、SNSなどでの拡散をぜひよろしくお願い致します。皆さんで日本サッカー界をもっと盛り上げ、レベルアップさせましょう!

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