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コロナ明けのベトナムビジネスで多い相談や注目されている業界ごとのトピック(2022年10月作成→2023年5月追記)

最近ベトナムでの新規相談や既存クライアントの追加投資の相談が急増しています。まだコロナの影響はあるものの、コロナ前の勢いに近づいていることをひしひし感じています。
最近の進出(予定)企業からの新規相談の傾向や業界ごとのトピックを簡単にまとめたいと思います(あくまでも私の所感です)。

【2023年5月更新】
記事作成から6ヶ月経過しました。大きな流れは変わりませんので、本noteを更新する形で最近の情報を追記します。

1)サービス業関連

ベトナムをマーケットとした様々なサービス業の進出相談が増えています。コロナ前から増えてきていたものの、2022年に入って停滞していた案件も急激に動き出しました。元々は小売・オンラインサービス等が多かったですが、最近は医療・介護・美容などの専門領域も増えてきています。
日本企業側が進出したい意向に加え、日本のブランド・ノウハウを得たいというベトナム側のニーズも顕在化してきている印象です。
オンラインサービスについても、ECマーケットは更に伸びていくと予測されており、EC関連の相談はコロナに関わらず増えています。

参考外部リンク:

サービス業の進出では投資額が大きくない業態も多いので、円安の影響もそこまで気にせずに投資を決めているケースは多いです。サービス業については、今後も進出企業は多様化していくでしょう。
もっとも、まだまだベトナムマーケットが発展途上であること、日系の成功例がまだ少ないこともあり、まず小規模やFC・事業提携から始めるケースも多く見られます。
サービス業はホーチミン市に関する相談件数が多いですが、ハノイ展開も増えています。

法務的には、マイノリティ出資から始めるケース、事業提携から始めるケースなどでスキーム構築や契約書作成・レビューの相談が増えています。うまくいくケースはトラブルになりづらいので良いのですが、サービス終了・撤退などの際を見据えた契約をすることも重要です。
IT関連については、3で後述します。

【2023年5月追記】
2023年に入っても上述の状況は変わっておらず、むしろ相談数は増えたという印象です。大手・中小にかかわらず、小売業の相談も複数いただいています。
東南アジア全体として欧米の景気減速の影響を受けている面があるものの、ベトナムのサービス業への投資意欲は大きく減退していない印象を受けます(外国直接投資は昨年対比で17%ほど減っています。もっとも、一時的な大きなプロジェクトの影響を受けるものなので、参考程度です。)。
直近よりも5−10年先のマーケットを見据えての展開が多いです。

2)製造業

コロナで日本を含め製造ラインに大きな影響を受けた企業が多いことや、円安がここまで進んでしまった状況もあり、コロナ禍から引き続き大規模な投資はまだ控えている企業が多い印象です。
また、南部よりも北部の工業団地のほうが、地理的・金額的にコスパが良い場所が空いているということで、北部進出が増えています。

【2023年5月追記】
コロナ禍での中国(大陸)の対応などもあり、中国から他国に軸足を移す動きも更に進んでいる印象です。既存の中国の生産拠点からの物流の便利さなどからも北部が選ばれやすくなっています。

法務的な観点では、進出時に問題になるケースはあまり多くないものの、環境法令・運用の厳格化、労働者の権利意識の強化などで、法令遵守体制の見直し、労務対応などの相談が増えています。

良い場所の工業団地も減っていることや時間の短縮を理由に、進出方法として、M&Aも増えています。環境などの各種規制が厳格化していることもあり、事前の調査(DD)の重要性はより増してきています。工業団地内の土地使用権は外資企業でも例外的に売買可能な場合はあるのですが、手続が非常に煩雑・不透明なため、M&Aが第一選択肢となっています。

【2023年5月追記】
工業団地内の土地使用権売買のニーズは、特に南部で高く、相談も多いです。ただし、積極的に進めるには不明確な点や手続的に検討すべき点が多くあり、そのリスクあがるために売買交渉も難航しやすいです。
実際には検討したうえで行わないケースのほうが多い状況です。併せて、将来的に売却する可能性のある土地をどのような形態で保有するのが望ましいか、という論点にも重要です。空いたまま開発されていない土地への投資などには売買も重要になると思うので、政府側の対応を期待したいところです。

3)IT関連

1で記載のとおり、オンラインサービスなどについては引き続き相談が多いです。日本で一定の成功をしているベンチャーがベトナムに出てくるという事例もこの3−4年で更に増加しています。

以前は日本のためのオフショア開発で出てこられている会社が主流でしたが、エンジニアコストの増加(他のホワイトワーカーの倍くらいの水準とも。)に伴い、「安い開発拠点のベトナム」という進出ではなく、コストにかかわらず「開発研究拠点・マーケットとしてのベトナム」という目線での検討が増えてきています。
相変わらず圧倒的に有利なITの税制優遇(優遇税率 10% 15 年&黒字から 4年間免税・ 9年間 50%減税)での企業誘致と、ITエンジニア教育への投資が実り、IT立国として成功の入り口を立っている印象です。今後自国プロダクトの成長に期待です。

【2023年5月追記】
グローバルミニマム課税(国際最低税率課税)を15%とする制度が2024年から各国で始まる予定です。通常の企業所得税は20%であり問題ないですが、ITなどを含む15%未満となっているベトナムの優遇税制についてどのように対応するのか、ベトナム国内で検討されています。
グローバルミニマム課税が適用されれば、ベトナムでの優遇税制は実質意味がないということになるため、15%未満の優遇税制は行わないという可能性も十分あります。

1のサービス関連以外でITに注目されるのは2022年10月からサイバーセキュリティ法の政令が施行されたという点でしょう。個人情報を取得する国内オンラインサービスはベトナムサーバー保管が必要、国外サービスは一定要件を満たした場合のみベトナム拠点・ベトナムサーバーが必要となり、ベトナム向け国外サービス全般がすぐに対象ではなくなりました(詳細が気になる方は以下のリンク参照)。
実際はどのような解釈になるか不明なケースもまだ多くあり、今後の運用がどのようになるか注視しています。

【2023年5月追記】
2023年7月1日からは、個人情報保護に関する新政令No.13/2023/ND-CPも施行されます。個人情報の定義や、個人情報主体の権利、個人情報を処理する事業者の義務、個人情報の域外移転についてなどの重要事項が規定されており、注目されています。

4)不動産

2015年7月から非居住者外国人もベトナムの不動産を購入できるようになったことや、ローカル富裕層の旺盛な購入意欲があり、コロナにもかかわらず住宅価格は高騰してきていました。近時、不動産関連の汚職問題や、高騰しすぎた不動産の見直しなどもあり、若干落ち着いてきている印象です。
もっとも、ベトナム不動産への注目度は引き続き高く、多くの日系企業が魅力的なプロジェクトを常に探しています。

ベトナム不動産関連の法令・手続は非常に複雑で日系企業のみで1から開発することは簡単ではないため、ローカルデベロッパーのプロジェクトに共同投資したり、M&Aをするというケースがほとんどです。そのため、良いパートナーを探すところがハードルの一つとなっています。

日系のプロジェクトも実績が積み上がってきていますが、東急などの日系デベロッパーがベトナムで街づくりをして盛り上がってきているところを見ると、本当にワクワクします!

参考外部リンク:

【2023年5月追記】
不動産については、2022年の汚職問題やその後の不動産マーケットへの影響もあり、価格の伸びも落ち着き、物件による差が広がっている印象です。販売不況により、不動産会社の倒産も増えています。
私の周辺のベトナム人などは、逆に今が投資チャンスと思っている方も多いようなので、長期的にはポジティブに捉えている現地の方も多いです。

5)スタートアップ

日本人がベトナムをメインマーケットとして始めるスタートアップも増えてきました。IT人材の豊富さ、1億人の成長マーケットを理由に、戦略的にベトナムを攻める起業家もコロナ前から増えてきており注目です。

日系のVCもベトナム事業への投資を増やしていますが、まだ活発とまでいいづらい状況です。ベトナム人のスタートアップも急増してきているので、各種の支援体制がここ数年で急拡大していくと思います。

【2023年5月】
IT関連の相談は引き続き多く、そのうちスタートアップとしてベトナムで起業したり、日本のスタートアップが早いうちにアジアに進出するという相談を受けることは引き続き増えています。IT人材に強いベトナムにとっては、とても期待できる動きですね。

6)新たな形態?

レアなケースですが、コロナ中くらいから、日本で個人で起業している若手経営者(スタートアップではないけれども数人ー数十人の規模)が、日本のみのマーケット展開に危機感を抱いてベトナム事業を始めたいという相談が数珠繋ぎで増えています。
日本の事業自体、コロナでリモートで対応しやすくなり、日本の事業展開をしながら経営者がベトナムに住んで事業を作っていこうという動きです。
これまではあまり多くなかったご相談ですが、新たな形態として興味深いですし、リスクヘッジとして海外展開するという例も今後は増えてくると思います。

ベトナムで経営するコスト自体は安くはなくなってきているので、法人設立前にまず市場を確認したり、現地のパートナーと組んで小規模に始めるということも重要になっています。

【2023年5月追記】
こちらの例もまだご相談を受けるケースは続いています。ベトナムはまだまだ気軽にビジネスビザがおりるわけではないため、なんらかのベトナム事業をはじめることが必須となるケースが多いため、事業検討中のステータスの方も多いです。
一度進出すると撤退・清算には時間・費用がかかるため、拠点の設立については短期で滞在しつつ、慎重に検討されるのが望ましいです。

7)終わりに

私がベトナムにいるので偏っている面もあるかもしれませんが、ベトナムはやはり東南アジアで最も注目されている国の一つであり、日系企業からの相談件数も圧倒的に多い国です。ベトナムでのビジネス自体が成功するというのが一番重要だと思いますが、日本と違う意外な落とし穴も多くあります。
たとえば、ベトナムに投資・融資する際に、必要な手続をしたうえで法令上決まった口座に振り込まなければ、投資・融資回収の際に日本に送金できないというようなこともよく起こります。

既に多くの方がベトナムにいらっしゃいますので、ぜひ色々な方から情報を得たうえでビジネスを展開していただきたいです!私も力になれることはご協力させていただきます。ぜひベトナムでお会いしましょう。

なお、上記はあくまで私のところに相談があったことからの整理なので、ぜひ違う観点・補足などあればご意見いただければ嬉しいです。

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