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阿佐ヶ谷姉妹みたいな患者

ナースステーションから離れたところに女性用の大部屋がある。1部屋をカーテンで4等分に仕切られており、最大で4人の患者が入院できる部屋だ。そしてナースステーションから離れている部屋ということは、それだけ手のかからない、目を放していられる自立した人たちが多く入院している部屋ということだ。大抵は検査目的の入院患者で埋まっている。

ある時、その部屋は阿佐ヶ谷姉妹にそっくりな4人の患者で満床となっていた。

私はその部屋が大好きだった。

どの患者が阿佐ヶ谷姉妹の姉に似ていて、誰が妹に似ているかなんてことは考えたことはないが、どことなく全員阿佐ヶ谷姉妹に似ているのだ。
病衣がブルーなのが悔しい。せめてピンクだったらと毎日考えていた。


4人は仲が良かった。

お昼時になると
「あらま、今日はカレーよ。人様に作ってもらう家庭的なカレーなんていつぶりかしら??」
「このバナナ、カチカチだわ、時間をおいて熟れてから食べたほうがいいわよ。」
「〇〇さん、もみじまんじゅういる?」
「〇〇さん午後検査だから昼ごはんないのね、匂いだけかいで生き地獄だわね!ふふふ!」

なんていう中身のないおばさんらしい平和な会話が聞こえてくる。

午後になると4人とも昼寝をし、夕方になると起きて婦人公論をまわし読みしている。雑誌のまわし読みをしてキャッキャしているなんて、やっていることだけみると女子校生のようである。
まわし読みの時間になると途端に全員メガネをかけだし、まさに阿佐ヶ谷姉妹が2セットいるような空間になる。

ある時、阿佐ヶ谷姉妹4人のうちの1人の退院が決まった。元々検査目的で入院している人がほとんどだったため、皆変わりないタイミングで早々に退院となることはわかっていたが、なんだか寂しい。その1人を皮切りに次々に阿佐ヶ谷姉妹達の退院が決まり、残りあと一人の阿佐ヶ谷姉妹となってしまった。1人になってしまうともうただの典型的な近所のおばさんである。阿佐ヶ谷姉妹感が薄れてしまう。

患者からの贈り物は受け取らないことが原則だが、最後の1人の阿佐ヶ谷姉妹は退院日にリンツのチョコレートを病棟の看護師向けに大量に準備してくれていた。阿佐ヶ谷姉妹の割には洒落ている。

無事最後の阿佐ヶ谷姉妹の退院を見送り、昼休みにリンツのチョコを食べながら、楽しそうに過ごしていた阿佐ヶ谷姉妹達の大部屋での様子をしみじみと思い出していた。


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