注意書き

 喉の奥が腫れている。鼻水も止まらない。発熱はしていないが、これはきっと風邪。
 風邪薬が欲しくなって、私は薬箱の中をあさった。めったに風邪などひかないために、いつ買ったのか思い出せない薬の瓶を箱の奥から発掘する。ええっと、いったい何錠飲めばいいのかな。
 さっそく注意書きを読むことにする。なになに。
『よく注意書きを読んでご使用ください』
 おなじみの文章だなと思いつつ読み進める。
『以下の条件に当てはまる方は服用をご遠慮ください。
 乳幼児・幼児・少年少女・青年・中年・ご老人、怒りっぽい方、涙もろい方、そのほかもろもろ感情の起伏が激しい方、悲観的な方、楽天的な方、落ち着いている方、なんらかの持病を持っている方、今は持っていないけれど持ちうる可能性を否定できない方。
 そのような方が服用された場合、当社では責任を負いかねます。上記の注意書きに同意した方のみ、薬を服用してください』
 これは裁判対策なのだろうなあと思う一方で、ならばこの薬を飲むにふさわしい条件の人がいるだろうかと私は考えた。熱が出るほど考えた。
「死人だな」
 これなら裁判沙汰も起こりようがない。完璧な注意書きだと感心しつつ、風邪薬をゴミ箱に放り込み、一眠りすることにする。