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米国経済復興・観光需要復興の現状考察に基づく日本の経済・観光需要復興の仕掛け方(2021年7月)

【注】このノート長文注意です。すみませんです。コピーやシェア等は当方へ連絡不要でご自由にどうぞ。

米国に連続で21年、日本国外は合計29年超在住している、米国東南部の州立大学で研究系テニュアを持つ社会科学系の米国博士(Ph.D)研究者・准教授です。 医師(M.D.)ではありません。統計学、ファイナンス、経済効果計算等の授業を大学院で教えていますので、数値は人並みには読めると思います。 

2021年春から米国経済は個人消費の急復興により外食や観光関連産業セクターで人材不足が顕在化するほどに好調なのですが、それ自体の日本語報道も少ないだけでなく、何故米国経済がそうなったのかについての情報が日本で欠如していると感じます。米国が如何に劇的な経済復興を計画し実行したのかが解れば、日本でもその処方箋をベースに根拠ある楽観論を持ち、実行する事が出来ます。あんなに喜んで招致したオリンピックが世界中が認める困難な時期に実施されるだけでも素晴らしい偉業なのに、悲観論と他人(政府・役所・企業・個人)批判が蔓延する日本。一番苦しんでおられる外食、宿泊産業や観光関連産業の方々に、「明るい未来は自分達で創れる事を具体的に提示する」のがこのNoteの重要な目的ですが、同時に経済復興が想定通りに実行出来た場合、短期間で経営上の構造的問題が顕在化する(=うれしい悲鳴状態になる)点を事前にお伝えする事で、準備を促す意図もあります。

前回(「世界から見た日本と日本人が見た日本がなぜ乖離するのか:今後の経済復興・観光需要復興への示唆」に続き、今回も自分の主観を抑えて客観的な事を述べたいので、出来る限りデータを引用します故、ぜひその評価や解釈はご自分で判断・分析して頂くと幸いです。


1.米国の現状俯瞰

1-1.米国のワクチン接種と感染者・死亡者推移

前回も具体的な数値でお伝えしたように、2021年7月22日現在の数値(情報源:https://www.worldometers.info/coronavirus/ )では、世界各国の中で最高の感染者数(35百万人)と死亡者数(65万人)を計上しているのが米国です。2021年の1月が感染者数・死者数ともにピークだったというのは数値だけでなく、米国居住者の感覚でもそうです。米国議会に暴徒が乱入した事件があった時ですが、当時の大統領はCOVID19の抑制よりも2カ月前の2020年11月の大統領選挙で自分が再選されなかった事を覆す工作に興味があったように見えた時期で、多くの国民が「もう政府を当てに出来ない。自分の身は自分で守らなければ」という意識を新たにした時期でもあります。

新大統領の公約の一つが「就任100日で米国民に1億本のワクチン接種を行う」でしたが、これは前倒しで58日目に実現しました。その後ワクチン接種スピードが落ちて、7月21日現在では、米国内の56%がワクチン一回接種済、2回接種完了は49%となっています。年齢別の接種状況は以下の通りです。感染すると重症化や死亡確率が高い高齢者に優先的に接種したため、50歳超の接種完了率が高くなっています。

表1:年代別ワクチン接種率一覧表

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何故、高齢者を優先的に接種するのかについては、日本では「感染者数を減らすためには、若年層から接種したらどうか」という意見があるのは把握していますが、「死亡者数抑制が最優先政策目標」である点がブレない米国には実数に基づいた以下のデータがあるからです。「18~29歳年齢層と比較した各年齢層別重症化率(Hospitalization)と死亡率(Death)の一覧表」を見ると一目瞭然です。元データは頻繁に更新されますので、リンクも貼っておきます。

表2:COVID-19年代別の感染率、入院率、死亡率リスク表

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感染者数と死亡者数の過去1年半の推移についてもデータがあります。2021年1月にピークがあり、その後感染者数減少して、直近の7月に少しまた感染者が増えています(一日4万人)が、1月の最高一日30万人のような状況にはなっていません。

表3:米国の一日感染者数と7日間平均の一日感染者数補正値表

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一方で、最優先政策目標である「総死亡者数抑制」についてですが、これも過去1年半のグラフを見てみましょう。今年1月に一日の死者4千人を超えた日が何日かありましたが、こちらは最新の7/21で平均250名に抑制されており、こちらを政策判断に使う限りは経済復興政策を継続出来るという政策選択肢の幅が確保されています。この「総死亡者数抑制」には、高齢者ワクチン接種優先政策が貢献している訳です。感染したら若年層と比較して死亡確率が95倍高い65歳以上層は既に7割が2回接種完了し、1回接種者だと8割を超えていますので、死亡者は減少する訳です。現在、日本が行っているワクチン接種もほぼこの米国の高齢者ワクチン接種優先政策を継承していると思いますが、それは正しい訳です。元データはこちらで確認出来ます。(https://www.worldometers.info/coronavirus/country/us/#graph-deaths-daily)

表4:米国の一日死亡者数と7日間平均補正値の一日死亡者数表

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米国が「死亡者数抑制」を「感染者数推移」よりも最優先政策とする事で、経済復興等の別の重要な政策の選択肢も同時に選べる訳ですが、なぜ経済が急速に復興したのか、どの産業セクターがどう影響を受けたのかについてもう少し調査することが必要です。次に経済復興側の重要な事象について述べます。

1-2.経済復興の現状:フロリダ州オーランドの例

当方が勤務する大学があるフロリダ州オーランド(行政区域はオレンジ郡)は2019年には年間75百万人と全米で一番訪問客が訪れた観光地です。第二位のニューヨーク市が同年で65百万人、ラスベガス市が43百万人ですので、観光産業依存度の高さが理解出来るかと思います。

そのオーランドのDMO(Destination Marketing Organization: 観光地奨励組織)によると、2021年7月のホテル平均稼働率は3週間連続で70%超、また平均客室単価(ADR:Average Daily Rate) は$127.51と2019年の水準を超えています。オーランド国際空港の利用者数は2019年の同月比で92%の水準まで戻り、国際会議・展示会は2021年末までに68件が予定されており、これも2019年後半とほぼ同じ水準まで戻っています。

当方が勤務するホスピタリテイ経営学部には3500名の学部生、300名の修士課程と博士課程学生が居ますが、学部生は卒業の要件として有給インターンシップを3学期行うことが必修です。2020年の夏にはインターンシップ受入先が軒並み募集を中止しましたが、2021年5月にはホテル会社複数から当学部の学生に対して好景気の時の人手不足時に発生するサイニングボーナス(契約時に現金給付)まで提供されるほどに好況になっています。その後2カ月経ち、7月には経済復興による人手不足感が観光産業を超えて、また観光立地オーランド以外でも発生しているという報道があります。(Wall Street Journal紙2021年7月2日)。この記事に出ている通り、外食産業・ホテル産業で始まったサイニングボーナスは過去数か月で大きく広がりを見せています。なお、時給はCOVID-19前には$10程度($1=Yen110と計算して時給1,100円程度)だったのが、現在は人出不足感を反映して時給$15(1,650円)程度になっています。

表5記事:サイニングボーナス記事 WSJ紙2021年7月2日

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1-3. 経済復興・観光需要復興の背景

米国経済復興は観光需要復興に先導されたのですが、それは何故かを考えましょう。まず米国経済構造を俯瞰します。国内総生産(GDP)は以下のような数式で計算出来ます。

Y (GDP) = C + I + G + (EX - IM) 

この右辺はConsumption, Investment, Government Expenditure, (Export minus Import)、すなわち個人消費+企業投資+政府支出+(輸出-輸入)です。最後の部分は輸出から輸入を引いたものです。右辺を全て足すと100%となります。

日本の場合はCが54%、Iが25%、Gが20%で貿易が1%ですが、米国の場合はCが70%、Iが18%、Gが17%で貿易が-5%です。日米両国ともに個人消費が右辺で一番大きい点がポイントです。これは「個人消費が国の総生産に一番大きな影響力を及ぼす」という事です。ここで興味深いのは、個人の消費動向、意識・心持ちが個人消費に影響を及ぼす点です。将来に不安を感じる時に大きな買い物や旅行はしないですよね。実はその「個人の消費動向、意識・心持ち」が米国経済と観光需要急減・急復活の大きな要因だったのです。

1-4. COVID-19下の米国個人消費急降下

COVID-19が米国経済に暗い影を落とし始めたのは2020年3月頃からです。まずは米国個人消費が過去1年半にどういう変動をしたかについて見ましょう。(WSJ紙2021年7月19日より)

表6:米国個人消費額推移 WSJ紙

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COVID-19の感染が拡がり始めると、皆様も当然に将来が不安になったと思います。「いったい何人が感染し、死亡するのか」だけでなく、「いつ頃終焉するのか」、「自分は勤務先を解雇されるかもしれない」、「収入が無くなって何時まで生活できるのか」「学校閉鎖になり、保育園も閉鎖になったら誰が自分の勤務中に子供の世話をするのか」等、不安は尽きないはずで、そうなると不要不急の支出を抑制して、将来の不安に怯えて自宅に籠る事になります。このWSJのグラフを見ると、個人消費は一気に15~20%程度落ち込んでいるのが見えますね。個人の消費抑制の直撃を受けたのが、外食レストラン産業、芸術エンターテインメント産業、宿泊産業、及び観光関連産業と言う、ゲストと直接に接して経験を売る、いわゆるホスピタリテイ産業群です。

個人消費急降下は米国では過去形で語れる話になっていますが、一方で日本ではホスピタリテイ産業群はまだ直撃を受けて、じっくり耐えている方々が多いかと思います。ここまでは日本も同じような経験をされていると思いますが、ここからはいよいよ、如何に米国はCOVID-19による個人消費急減から経済復活させたかの明るい話になります。

1-5. COVID-19下の個人給付金とその資金使途データ

COVID-19による経済的な苦境に対して、米国連邦政府から個人給付金が給付されました。その内容は以下の通りです。全部で3回給付され、金額は左から2列目に明記してあります。

表7:米国個人給付金金額一覧表

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3回合計で$8,500億ドル(93兆5千億円)と米国GDPの約4%に相当する現金を直接に国民個人にStimulus、経済刺激金という名目で給付しました。日本のGDP500兆円の規模の国家経済にとっては20兆円というイメージです。

それでは国民は受け取った給付金をどう使ったでしょうか?まずは第一回目の給付金をどう使ったかを年収別に示した表があります。

表8:第一回個人給付金年収水準別消費目的表

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政府の意図が「COVID-19による苦境に喘ぐ国民を助けよう」という事ならばこの表の濃い青の部分が各種費用に使われた比率なので、年収が10万ドル(1,100万円)以下の世帯、上から5番目の列までは受領した給付金の50%以上を当面の支出、例えば食料品購入や借家の家賃支払、光熱費支払等に使っているので連邦政府側の意図通りだった訳です。薄い青、空色の部分は既存借金返済、赤い部分は貯蓄です。このデータを見ると一部の人は「消費に全額回らない分、特に借金返済や貯蓄に回る分は無駄だ」と思われるかもしれません。GDPが約500兆円の日本は、政府予算が100兆円な一方、税収は60兆円なので、自分で稼いでいる収入以上は使うべきでないというプライマリーバランスを重視する人達はそういう発想になる可能性はあります。

この給付金の中で、貯蓄と借金返済に回った、一見無駄な部分が観光需要復興と経済復興に素晴らしい活躍をしてくれることになるとは、たぶん第一回の給付金交付時点では気づいていた人は多くなかったのではと推察します。その後第二回、第三回も合わせての資金使途を見ましょう。(表9)

表9:3回の米国個人給付金の使途の変遷

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第一回目のCares Actによる給付金は即座に消費に回った部分が3/4で貯蓄と借金返済に回った分は1/4に過ぎなかった訳です。ところが、第二回目のCconsolidated Appropriations Actによる給付金では消費に使われたのは22%,で78%は貯蓄と借金返済に回ったのです。更に第三回目のAmerican Rescue Plan というバイデン大統領就任後に実行された給付金では、即座に消費に使われたのは19%, 残り81%は貯蓄と借金返済に回ったのです。短期的なプライマリーバランス派からすると、「空腹を満たす最低限の食事を与えればよいのに、豪華な高栄養分の食事を与えて無駄だ」とお叱りを受けそうな資金使途です。

「米国貯蓄率の歴史的な上昇」

別の統計からも興味深い事象が見えます。皆様のイメージからすると「貯蓄せずに気前よくすぐ使ってしまう米国人」、それは歴史上正しかったのですが(笑)、COVID-19の直撃と政府給付金によりその消費者行動が突如変貌したのです。(記事表10:WSJ.comより)。収入の10%も貯蓄をしなかった米国人の貯蓄率が突如30%超まで跳ね上がり、その後も15~20%程度の貯蓄率となっているのです。

表10:個人貯蓄率の推移表

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COVID-19下で、米国人は貯蓄率の急上昇に加えて、個人の借金返済が進んでいるのです。では、いよいよそれが何故起こったかを理解する事により、COVID-19の直撃を受けた外食レストラン、芸術エンターテインメント、宿泊業等のホスピタリテイ産業が急成長に戻ったのかが理解出来ます。

1-6. 将来の不安に対する準備としての貯蓄と借金返済

米国の第一回目の給付金はその半分以上が即座の消費に使われましたが、第二回目と、特に金額の大きかった第三回目はその半分以上が貯蓄と借金返済に回りました。

何故でしょう? これは皆様がまさに日本の現状(2021年7月)で感じている感覚に近いと推察します。つまり、「将来の不安に対する準備金として備蓄しておこう」という消費者行動です。

貯蓄はシンプルに将来への備蓄と理解しやすいですが、では借金返済が将来の不安に対する準備金に見なされるというのはどういう意味でしょうか? 米国の場合はクレジットカードの利用が盛んですが、クレジットカードにはその名前通り、信用(クレジット:短期貸出)を金融機関が与える、与信という機能があります。日本でよくある一括払いだとそういう感覚にならないですが、米国の場合はアメリカンエクスプレスのような一括払いが基本のカード以外の多くのクレジットカードでの買い物は分割払いとなるのが基本です。つまり100万円なり500万円なりの上限(与信限度枠:個人の信用力により変わります)までは、自分の手元に現金が無くても消費が出来てしまうのです。すると、現在の借入残高の一部でも返済しておくと、「何か有った時の借入余力・準備が増えた」という感覚であるが故に、将来の不安に対する準備金が増えたという感覚になるのです。この辺りは20年超住んでいるので、現地感覚がわかります。

つまり、米国人達は、COVID-19に起因する将来の不確実性・不安感に対応する為に、受け取った個人給付金の半分以上を貯蓄と借金返済で貯めこんだ訳です。特に最後の金額の大きい個人給付金(American Rescue Plan: 大人も子供も一律一人$1,400)が各自の銀行口座に振り込まれたのは2021年3月から4月であり、高齢者ワクチン接種のペースが上がってきた時期と一致します。

1-7. 高齢者ワクチン接種優先接種進行による重症者・死亡者減による不安感減少

2021年4月初めには一日の全米接種数が3百万本を超えるペースとなり、最多の日には一日4百万本が高齢者優先で接種され、それが国民に広く報道されました (表11)。

表11:記事:ワクチン接種数平均が一日3百万本超

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また、高齢者への接種が行き渡った後で、国民、外国籍居住者にも広くワクチン接種が開放され、居住者証明無に、つまり旅行者でも無料でワクチン接種が出来るようになり(表12)、同時に薬屋チェーンの簡易医療所でも予約無での来訪者にワクチン接種が出来るという宣伝も始まりました     (表13)。

表12:オレンジ郡でのワクチン接種の居住者証明撤廃の連絡

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表13:CVS(薬屋チェーン)での無料アポなしワクチン接種の宣伝

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また、ワクチン接種完了した高齢者中心にSNSに「ワクチン接種完了した!」「1年半会っていなかった孫と会えた」という写真がアップロードされるようになり、見ている人達のCOVID-19に対する不安感が少しずつ減少し、街の雰囲気が徐々に明るくなります(表14)。 日本の皆様もワクチン接種したらその旨SNSにどんどん投稿してください。それが街の雰囲気向上・消費者心理改善による消費復活で経済復興に役立ったのが米国例です。

表14:写真 高齢者ワクチン接種の写真(SNSより拝借)

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こうなると、かつてのワクチン懐疑派だった人達の比率も減少してきます。国勢調査局(U.S. Census Bureau Household Pulse Survey)の調査によると、2021年1月にワクチン接種に懐疑的だった米国民は全国民の22%、これが3月には17%に減少しています。

個人給付金の大半が将来の不安に対する準備金として各個人に備蓄された状況で、各個人の周囲の景色が明るくなってくる、つまりCOVID-19への不安感が減ると、国民はどういう行動に出るでしょうか? いよいよ米国観光産業急復興・経済復興がなぜ起こったのかの核心部分に繋がります。

1-8. 消費行動の変化と消費支出先・借入需要増加の理由

国民・消費者は、高齢者ワクチン接種優先が進み、重症者数と死者数が目に見えて減少し、街の雰囲気が明るくなると、「将来の不安に対して備蓄していた現金と借入余力の必要性が減った」と感じて、それが一気に「今まで我慢していた分、憂さ晴らしだ」という行動に出ます。

ではどのような物品サービスに消費が増えるかと言うと、家賃や米・パン、食料品、光熱費のような生活に必要な物品サービスではなく、COVID-19で消費出来なかった物品サービスに「リベンジ消費」として殺到します。将来の不安がある時には大きな買い物は控えますが、それが逆に、COVID-19下で増加した借入余力を利用してでも大きな消費や各種消費に爆発する訳です。2021年4月の消費者の短期金融需要が前年比39%増になった件に関してWSJ紙の2021年7月9日経済面に上手い要約があります。(表15記事参照)

「多くの人は解雇されることを心配しているときにお金を使いたくありませんでしたし、他の人達は家に籠っている時には、買うものが何もありませんでした。 しかし、米国では予防接種がすぐに利用可能になり、経済が再開することで、多くのアメリカ人は昨年の落ち込みの後、新たに経済に自信を持ち始めています。 彼らは車、休暇、外食に費やしています。 特に自動車やトラックの小売価格上昇も、借入需要を刺激しました。 消費者信用の需要が大幅に増加し、18か月間も延期を余儀なくされた休暇旅行等にクレジット(短期借入)を利用する意欲が高まっています。」

表15:記事 消費者の借入ペース歴史的上昇率を計上

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住宅価格は上昇し、自動車需要も旺盛である一方、外食レストランと観光関連産業という、COVID-19で最も悪影響を受けたホスピタリティ産業セクターに、消費者が急速に戻っているのです。そこが理解出来ると、フロリダ州オーランドのようなレジャー客需要依存度の高い観光地がその他の地域よりも先に好況を享受しているのが理解出来ます。

1-9. 消費需要の復興が観光・ホスピタリテイ産業セクター側へ与えた影響

2021年4月の米国、産業セクター別雇用増加状況を示したデータがありますが、これが日本でもCOVID-19後の経済状況を予想するうえで参考になると思います。4月に雇用が増加した産業セクターのトップ3は

(1)レストラン・バー(外食)産業 187,000人増、(2)芸術エンターテインメント・リクリエーション産業 90,000人増、(3)宿泊産業 54,000人増、です。(WSJ紙:2021年5月8日)

これらは皆COVID-19で売上高が激減した産業ですが、家に籠って耐えてきた、且つ現金と借入余力を持つ消費者はCOVID-19の不安が減少とともに、外食、コンサート・美術館・イベント、娯楽、そして観光旅行への消費が急速に戻ったのが米国の訳です。一方で当方が明記しておきたいのは、消費者の需要急復興が観光ホスピタリテイ産業セクターにどういう影響・副作用をもたらしたのかという点です。

これら産業はCOVID-19の直撃を受けて、売上が急減少していた訳で、その間、組織の生存のために政府の補助では足りずに従業員解雇や無給雇用等で生き延びてきました。すなわち、売上減少でもぎりぎりで生き延びるように従業員を大幅にカットしていた訳です。その状態で売上がいきなり復興すると、労働集約型のホスピタリテイ産業ではいきなり労働力不足になります。

1-10. 労働力不足がもたらした副作用:賃金上昇

従業員を大幅にカットして生き延びてきた産業セクターの人材不足は、市場での時給上昇だけでなく、その他の特典をも提供して人材を確保するという、半年前には見られないような労働市場の変化をもたらしました。

全米最高数の観光客が訪れるフロリダ州オーランドでは、時給は最低15ドル(1,650円程度)でも求人者が応募してこないため、サイニングボーナスという雇用契約書にサインする際に現金を貰えるオファーが2021年5月頃からホテル・レストランそして外食機能を持つ大手ガソリンスタンドでも出ています (表16写真)。学生には「学費分支給するから働いてくれ」というオファーも出ています。

表16:外食施設付きガソリンスタンドチェーンでのサイニングボーナス付求人看板

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7月には、上記の観光立地フロリダ州の外食や観光産業だけの労働力不足を超えて、他の産業セクターと他州でもサイニングボーナス制度が出てきています(表17 WSJ紙7/2/2021参照)。

表17:時給の雇用機会でもサイニングボーナス WSJ紙2021年7月2日

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2021年1月頃からの高齢者から始まったワクチン接種進行による消費者の不安感減少が、個人給付金による現金と借入余力増により過去1年半出来なかった「外食、娯楽、観光」消費を押し上げた、これが米国観光需要急復興と経済復興の理由であり、その副作用として急速な労働力不足に起因する市場での時給水準急上昇が発生しているのが米国過去6カ月の状況です。

2.日本の外食・芸術エンターテインメント・観光関連産業不況脱却への戦略試案

長くなりましたので、ここからは文書量を絞りますが、米国で発生した現実を分析すれば、日本のCOVID-19苦境脱却戦略試案を構築できます。過去に類似例が無い、何が正解なのかわからない状況では、経済構造や政治体制(民主主義の先進国)が類似している米国の例をベースにCOVID-19苦境脱却戦略案を描いてみる事は有益でしょう。

2-1. ワクチン接種進行と個人給付金実行

米国経済は第二四半期(2021年4~6月)に年率換算で6.5%上昇し、第一四半期の同6.3%を上回りました。このような急速な個人消費回復を実現したのは高齢者から始まったワクチン接種進行と個人給付金交付ですので、それを日本でも実現したら良い訳です。7/29現在、日本の一回接種者は人口の38%、二回接種者は29%ですので、ワクチン接種開始が米国よりは遅く始まった割には順調に進展しています。特に高齢者優先政策を取った成果として、重症者と死亡者数は他国比で卓越した数値に抑えられています。

デルタ等変異種ウイルス感染者数が現在世界で上昇していますが、重症率・死亡率は抑えられています。つまり前回述べた、最優先政策目標を死亡者数抑制にフォーカスする(=感染者数の増減で一喜一憂するのを止める)という米国を含む世界主流の基準と合わせれば、経済政策選択肢の幅が広がる外的環境にあります。米国が7/29日時点で一回接種者57%、二回接種者49%、英国が70%、57%ですので、まずは一回接種者が人口の50%前後になるまではとにかく接種率を上げる事が短期的に最重要です。

同時に、重症率と死亡率の推移をより広く広報し、きちんと具体的な数値指標を目標として経済政策舵取りをする事が可能です。例えば「死亡者数が週平均数値で一日100名を超えない限りは、経済再開に向けて舵を切る。同数値が一日100名を超えた場合はその後1週間で経済再開継続の是非を個別に再検討する」というような数値目標です。因みに米国は一日の死亡者数ピーク時が3,400名超、現在で318名で、日本は一日の死亡者数ピーク時が115名、現在で10名と日米人口数の差を勘案しても超優秀が故に、週平均数値で一日100名という指標は甘くも厳しくも無いです。

またこの数値を客観的に俯瞰すると、2019年と2020年の日本の年間総死亡者数はそれぞれ1,393,917名、1,384,544名で、COVID-19の7/29現在の総死亡者数15,173名は実は2020年の総死亡者数の1.1%ですので、数値をベースにした冷静な政策議論が日本のマスコミやTV報道に必要な事が見えます。

個人給付金はそれが米国のように2割程度しか即座の消費に回らなくても、残った貯蓄と借金返済分が実は経済復興の起爆剤になることが米国例で理解出来ましたので、導火線にあたる「ワクチン接種率第一回済者50%を第一目標、第二目標は同70%」に向かって短期的に突き進む必要があります。米国では既に「感染者はほぼワクチン未接種者のみ」という状況になっていますので、そのような実際の米国データをマスコミが報道するようになれば、ワクチン接種率は加速すると思います。ここ数日話題のデルタ変異株はワクチン接種済者にも感染するようですが、同時に感染力は高いが死亡率は低く、ワクチン接種済者はほぼ重症化や死亡には至らないという報道がされています。

2-2. ワクチン接種率目標達成前後での消費者向け行動制限緩和実施

デルタ変異種の感染力は水疱瘡並だという報道により、米国でもマスク着用令が再公布となっていますので、念のためマスク着用奨励は継続するにしても、その他の消費者行動制限については順次緩める政策を取るべきです。そして速度計メーターにあたる指標は「死亡者数週平均数値で一日100名以内か」です。

現時点で日本の報道機関に一番使われている、変動の大きい「一日の感染者数」でなく、「週平均数値による一日あたり感染者数」で一日xx名以内に抑える」という副次的な指標も参照にするのは構わないです。具体的には「週平均数値による一日あたり感染者数」で13,000名なり15,000名という数値を設定し、市場の動きを見るための指標にするという感じでしょうか。よほど危険数値でない限りはあまり見なくて良い、つまり経済緩和への段階的方策を少しずつ推進して良い、と言う意味では、水温系メーターのような指標です。ちなみに日本の人口の1/6程度の人口のフロリダ州は7月30日には感染者数は21,683人ですが、マスク強制令に反対の州知事はまだ非常事態等の指定はしていませんし、経済も開放したままです。

ワクチン接種率が上記目標に近づくにつれて、死亡者数が抑制され、経済制限緩和政策がどんどん取れるようになります。そこで恩恵を受けるのは消費者が過去1年半出来なかった消費、つまり外食レストラン、芸術エンターテインメント、旅行・観光である事は米国事例から合理的に推察できます。こういうトンネルを出た時にどういう景色になるかを現在苦境にあるこれら産業セクターのオーナー・経営者に提示する事はとても心理的に大切です。

2-3. 急速な人手不足状態の出現は悪い副作用か、好機か?

1年半我慢した消費者はCOVID-19の直撃を受けた産業セクターに戻り、その消費は急速な売上復活に繋がります。但し、日本でもそれら産業セクターは明日まで生き延びるために変動費を最低限までに切り詰めているはずです。するとレストラン・ホテル産業の最大の費用項目は「人件費」ですので、これを相当切って組織生存を図っていた場合が多いはずです。但し皆様が推測可能な通り、その切られた人件費は大部分が非正規雇用者だったはずです。

それで労働力最低限まで切り詰めていた経営者は、消費者の需要が戻ると嬉しい悲鳴とともに、いきなり訪れる労働力不足問題に対処しなくてはなりません。ところがその時点で以前の時給では首を切られた記憶が新しい非正規雇用者は戻りませんので、市場全体の人材需要が供給より多い場合は労働の価格、つまり時給が急騰したのが米国でした。これは日本も同じ問題が発生するはずです。経営者からしたら「人手不足」は大変に頭の痛い問題です。

2-4. 長期的・構造的な問題を解決する好機という発想

しかし、もっと大きな視野で俯瞰すると、COVID-19後の短期的な問題は、実は「低賃金で長時間労働」という評判を過去数十年受けていたこれら産業セクターであるレストラン業・宿泊業・観光業にとっては20-30年に一度しか訪れない業界イメージ・評判改善の好機と考える事が出来ます。

これら産業の経営者はCOVID-19の直前まで「人手不足」問題を悩まれていました。「人が居ない」「採用してもすぐ辞める」という経営者の視点は、実は「産業セクターの魅力不足」だった可能性があります。

市場での労働力不足による時給の高騰は、過去20~30年の構造的問題であった低賃金のイメージを払拭する機会です。現在の最低賃金は都道府県別で秋田793円から東京都1,013円で平均は902円ですが、これを今年930円にすると聞きました。デフレの中で上げるという方向性は素晴らしいですが、経済原則からオーナー・経営者負担増を理由に反対する人が居るのは理解出来ます。但し、現在の902円の最低賃金で一日8時間、週5日、有給2週間の日本人が税引前でどの程度の年収になるかと言うと、年収180万円、月収15万円です。これで十分な生活水準の質が現在の日本で確保出来るのでしょうか?

日本国内の状況を海外から俯瞰して大いに懸念する状況を指摘します。それは非正規雇用者の状況です。(情報源:「2019年平均給与は436万4000円…給与や賞与の実情をさぐる(2020年公開版)」(表18)https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20201002-00201144)

表18:日本の給与所得者一人当たり平均年収

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まず、正規雇用者と非正規雇用者の年収差が大きく、また性別による年収差も存在する結果、女性非正規雇用者の平均年収が152万(月12万6,700円程度)と最低賃金以下の人達が存在する事です。またこの非正規雇用者数は何と日本の総雇用者数5660万人中の38%に当たる2165万人と無視できない大きなシェアです。非正規雇用者の女性が世帯主であるような、シングルマザーである場合、その年収で扶養家族が居る訳で、かなり苦しい生活になる事が十分想像出来ます。

この非正規雇用者の勤務先として実はレストラン業・宿泊業・観光業が多い、それは、良く言えば受け皿になって雇用を供給している、別の言い方をすれば、低賃金の非正規雇用者の労働力の存在を前提にした経営状況を過去継続して来た訳です。当方は、それを無駄に批判・非難する意図はなく、むしろ未来志向で考えると、米国の少数派(黒人・ヒスパニック:表19参照)よりも低い年収で労働力を供給する事を日本国内でその他日本人が容認・黙認してきた構造的問題を、その労働力を享受してきたレストラン業・宿泊業・観光業が自らのリーダーシップで日本国内の構造的問題を解決の方法に動かせる好機がCOVID-19の危機の後に訪れる可能性がある訳です。

表19:人種別米国世帯収入2019年: Source: US Census Bureau "Income and Poverty in the United States: 2019"(こちらは世帯収入、日本語の資料は給与所得者一人当たりなので単純比較時は注意要)

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まずは最低賃金法の2021年改訂数値の930円を超える1,000円を即座に第一目標とし、今後5年程度内にそれを業界が自主的に1,500円程度まで上げるというのはCOVID19の危機が無ければデフレ環境の日本では夢物語でしたでしょう。一方で、COVID-19後を好機と考えて、市場の人材需給状況が需要過多で崩れる際に、「短期的にはいち早く優秀な人材を確保するために、中長期的には産業界の魅力不足問題を変革するために、自ら自組織の時給を上げる」ような将来ビジョンを持った骨太経営者にとっては、楽しみな数年間になると思います。

米国状況を見ていると、レストラン業・宿泊業・観光業の経営者は今の所、人件費高騰部分は小売価格上昇に転嫁していることに成功しているようです。もっと俯瞰すると、自動車(新車・中古車)小売価格、住宅不動産価格も上昇しており、消費者はそれらにめげずに(=気にせず)、価格上昇分は借入余力が増えて余裕のクレジットカード利用で1年半分の憂さ晴らし消費を行っている点が報道されています。

表20:消費者の借入意欲は歴史的水準に (表15と同じ、故に省略)

3. 全体像俯瞰

米国が如何に経済復興をデザインしたかがわかると、日本でも同様に経済復興が出来るシナリオを自ら書けると思います。それが実現する際には、人手不足による人件費高騰が起きる可能性を指摘しましたが、それを恐れずに、むしろ産業界の構造改革によるイメージ・評判向上の機会と捉えて、日本の見えざる貧困層である非正規労働者、特に女性の生活水準の質の向上をレストラン業・宿泊業・観光業が先導できる可能性が有ります。

可能性が有る時にはそれ(実現後)を理想像と設定して、現状からそこに至る経路を書いて、後は到達期間(例えば3年、5年)を設定すれば、見事な日本国経済復興のデザインを描くことが出来ます。

当方が単純な経済効果計算をしたら、日本の富裕層294万人が100万円ずつ余計に消費するのと、日本の非正規雇用者2165万人が20万円ずつ余計に消費する経済効果を比べたら、実は後者の方が倍近くあったのです。日本経済を国内需要で刺激するには、非正規雇用者の年収を上げて、年に20万円余計に稼がせてあげれば、それで自動車のタイヤ新品にしたり、家族にプレゼント買ったりパソコン・テレビや携帯電話買替の消費能力が出てきますので生活水準向上に繋がります。

レストラン、宿泊、観光業に重視している方々ならば、身近な所に非正規雇用者が複数居られると思います。 その人達の生活水準向上を皆様が実現出来る何十年に一度の機会がCOVID-19の危機の後に訪れます。

よりマクロ的な経営視点で見るならば、過去20-30年も、どんな優秀な誰が努力してもデフレ環境から日本は脱出できず、世界と比較して相対的に一人当たりGDPがずるずると落ちてきた悪循環、これを一気に吹っ飛ばず程の勢いのある個人消費復活が最初に向かうのはレストラン業・宿泊業・芸術エンターテインメント産業と観光業です。

過去20年30年、値上げをしたらデフレ下の消費者に血祭に上げられた同業他社の記憶はあるかもしれません。COVID-19の危機の後に訪れる機会では、それを恐れずに消費需要増大を見極めたら、増加した人件費分を小売価格に上乗せし、堂々と従業員の生活水準向上のための運営コスト増を繁栄させた持続性ある小売価格でサービスを供給して頂く事がレストラン・宿泊・観光産業のイメージ向上と日本社会の構造的問題改善に役立ち、ひいては誰も効果的な解決策を実施出来なかった日本全体のデフレ経済緊縮環境を吹き飛ばす事に繋がります。

3-1. 人手・労働力不足のもう一つの前向きな副作用:設備投資と生産性向上

COVID-19の危機の後に訪れる消費需要急増の副作用として人件費高騰を上げましたが、もう一つの副作用があります。これも前向きな副作用です。

それはレストラン・宿泊業・観光関連産業という労働集約型産業での労働力不足の経営環境で業務を遂行するための苦肉の策として、米国で急速にIT活用のための設備投資が増えている件です。これは数年前から米国で大手レストランチェーンやホテルチェーンでも試行していましたが、IT機器を使って人間の労働軽減を図る事で同じ売上を計上するのにより少ない労働力で対応させるという件です。

例えば、レストランで「メニューを給仕者が持ってきて後にまた貴方のテーブルに戻り、注文をメモし、それを復唱した後でキッチンに注文を伝達し、食事終了後はまた給仕者が勘定を持参して、それに対して貴方のテーブルか会計レジに貴方が歩いて、給仕者が精算をする」という一連の行為があります。これをiPadのような物を導入する事で、メニュー・注文メモ取り・復唱・勘定作業に関する労働力を全廃することが出来ます。また米国の場合はWifiで貴方のテーブルで自分のクレジットカード読込機が付いた端末だと、その場でチップも含めて精算が出来、レシートは貴方のメイルアドレスに即送付されるので、精算・支払の労働力も廃止出来ます。

COVID-19の危機は、労働集約型産業の労働負荷軽減を目指したIT系設備投資の増大を誘引し、金融機関の貸出需要をも促進し、結果としてCOVID-19後の消費急回復時は同じ売上高を上げるのにより少ない労働投入で運営出来る体制となるので、生産性が向上出来る訳です。

この流れで、COVID-19の危機を乗り切るために廃止した業務は、それに対応した経営者が生産性向上・運営合理化で乗り切った為に、COVID-19の危機後でももう戻らないという事例があります (表21記事)。

表21:パンデミック時に廃止された業種はもう永遠に戻らない WSJ 記事2021年7月16日

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勿論、人手不足状況ですので、それが社会的に問題にならず、好意的に受け止められる経営環境にあるのは幸いとなりますが、より深読みすると、労働集約型産業の従業員は、社会人教育・継続教育によって変貌する各職種に必要なスキル・知識を習得しないと、時代の流れに乗って各個人が収入やポジションを自分で上げていく流れに乗れないという事になります。この社会人教育インフラが米国比で日本の高等教育インフラが圧倒的に弱い点は、別の記事が書ける内容なのでここでは控えます。

3-2. インバウンド客復活の処方箋

これは前回のノートに書きました部分がありますし、この話題も始めたらまた別のノート書けるので、長文は控えます。

要点だけ言うならば、ワクチンパスポート制度で日本人アウトバウンドが先行して日本人の欧米往訪実績が順調に積みあがると、流石に日本の世論も、「欧米のワクチン接種済者の方が、ワクチン未接種の日本人よりも安全安心だ」という事が冷静に理解出来る人が増えてくるはずですので、互恵主義で日本もついに欧米ワクチン接種済者への限定的開国を実施することになると思います。そうなると、日本人のCOVID-19危機後の消費行動が沈静化する時期にこの欧米インバウンド客消費が日本国内で発生するので、消費復活の流れが上手く長期に持続出来る可能性があります。

漢字圏のゲストがインバウンド客全体の7割超だったCOVID-19前とは様変わり、より長期滞在で結果として消費総額が高い、漢字が読めない欧米インバウンド客中心に先行して来訪復活する事で、「量より質」(入込客数ではなく消費総額を指標にする)が自然と実現することになると思います。本当に日本に行きたいという欧米人は自分の友人知人にも多いですし、前回のノートで申し上げたように、「清潔で医療水準が高く、自然と歴史資源が豊富で治安も最高水準の日本」という認識を世界に持ってもらっている日本は、オリンピックでブランド認識度が上がっていますので、こちらも凄いチャンスがあります。まずは国内消費需要復興をしっかり享受して、自分の産業セクターの構造改革を自主的に仕掛けて、多忙状態対応への筋肉を慣らした後で、観光立国・地方創生のコア要素であるインバウンド客招聘に繋げます。

3-3. 最後に

COVID-19の危機は世界から眺めると、日本にとって20-30年に一度訪れる構造的改革の機会をもたらすであろう点が見えます。感覚的にはプラザ合意後の円高で日本経済が世界GDPでのシェアを毎年上げた35年前頃以来、その後大きな構造改革が無いレストラン・宿泊・観光産業にとっては久しぶりに自主的な構造改革が実現出来る好機になるでしょう。

経営者・管理職階の方々は、消費需要増大が起こった際に、経営戦略無策故に内部留保貯めたり、増配したり、従業員にボーナス増加してその場を乗り切るという腰の引けたファウルチップ狙いのスイングでは、せっかくの構造改革・自産業の評判・イメージ向上の機会を逃すことになりますし、従業員の多くはその辺りが実はよく見えます。正社員だけでなく、非正規雇用者、特に女性を尊厳のある報酬で優遇する事で離職率を下げないと、少子化高齢化環境の人出不足環境では、離職者数が跳ね上がり、そのような旧態然とした組織は人材確保の草刈り場となります。

日本のCOVID-19の危機からの脱却戦略とその実現方法について述べました。下を向いて社会に文句言っている場合では無いのです。将来起こり得ることを予測して、それに向かって個人ならば自分の、組織ならば組織内の資源を整理して対応案を事前に策定し、急激な社会の動きに心身の準備をしておく時です。

大変長くなりました。よく全部読まれましたですね、敬服します。

夜明けは近いです。それでは御幸運を!(米国フロリダ州より)

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大変恐縮でございます。拙文、宜しくご笑納頂ければ幸甚です。原 忠之(はらただゆき)