短編小説 夏の香りに少女は狂う その7
このシリーズは、こちらのマガジンにまとめてあります。
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「明美は?よう寝てたか?」
自室にリンを迎えてから、義之は尋ねた。
「うん。多分、熟睡してると思う」
大丈夫だ。あの様子なら、起きることはないだろう…
リンは確信していた。
義之の部屋は、6畳ほどの和室である。
裏庭に面している部屋で、中央にローテーブル、壁側にベッドが置かれていた。
リンは部屋を見回してから、ベッドに腰を下ろした。
「この部屋に入るん、久しぶりやろ」
常夜灯だけのほの暗い部屋の中で、義之は屈託のない笑顔を見せる。
そういえば子供の頃、この部屋で遊んだ覚えがある。
「高校卒業してから、すぐに和歌山市内に行ったんやけどな。この部屋はそのままにしといて、て言うてあったねん。万が一の時、いつでも帰ってこれるように」
義之は、開けてあったカーテンを閉めた。
そして、リンの隣に腰を下ろす。
「万が一?」
「うん。仕事辞めるとか離婚するとかあったら、いつでも地元に戻ってこれるように、な」
いたずらっぽく笑って、義之は肩をすくめた。
他愛ない話で、緊張をほぐそうとしていたのだろう。
しかし…
「リンちゃん、ほんまにええんか?もう後戻りできへんで」
再び義之が、確認する。
「うん。ヨシくんがいい」
リンは、力強くうなずいた。
「リンちゃん、初めて、やんな?」
「うん。まだ、誰とも…」
「ええんかいな、最初が俺で。俺、リンちゃんからしたらオッサンやで。もうちょっとほかに、同世代の男の子とか…」
「イヤや。ヨシくんが、いい。ヨシくんちゃうかったら、イヤや」
義之に最後まで言わせず、リンはたくましい体に抱きついた。
「そっか。ほな、俺も腹くくろか」
義之は、覚悟を決めたようだった。
これが「不倫」に当たること、そしてその相手は妹の友達。
自分にとっても、妹同様にかわいがってきた少女なのだ。
夜、海岸で思わずキスをしたことで、このような展開になるとは。
義之にとっては、想定外だったに違いない。
「もし途中で、イヤになったら言うんやで。多分、止められると思うから」
義之はいったん立ち上がり、部屋に置いてあったショルダーバッグを物色した。
「多分まだ残ってたはず…あ、あった」
そして正方形の小袋を手に、再びベッドへと戻る。
いよいよだ…
期待と、嬉しさと、ほんの少しの怖れに、リンは体を震わせる。
『ピリッ』
大きな手が、コンドームの小袋を開封する。
そして中身を取り出すと、それを枕の下に忍ばせた。
リンはその行動に、「大人のオトコ」を見たような気がした。
経験値が少ない同世代の男子なら、こうはいかないだろう…
どこか冷静な頭で、そう思っていた。
だから、
「服、脱いだ方がいい?」
思わず間抜けな質問をしてしまった。
これから行為をするということは、やはり「裸」になるわけで。
自分で脱いだ方がいいのかな?と思ったのだ。
「リンちゃん…大人っぽくなって、めっちゃキレイになったと思ったら、中身はまだまだやな」
義之はくすっと笑うと、リンのきゃしゃな体を抱きしめる。
その体温に、リンの心臓が高鳴った。
「でも、ほんまに可愛くなった。俺、マジでヤバイかもしれへん…」
「ヨシくん…」
「リンちゃんは、何も心配せんでええ。俺がちゃんと、するから」
安心させようと、義之は微笑む。
リンは、たくましい背中に腕を回した。
義之の鼓動が早くなっているのが、伝わってくる。
「ヨシくんもドキドキしてるやん…」
「当たり前やん。これ以上ドキドキすることなんて、あれへんわ」
そしてリンを抱きしめたまま、ベッドへと倒れこんだ。
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