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日本企業の中国特許訴訟の状況

11月28日、日本知的財産協会のライブ配信で、中国におけるエンフォースメントとFTOプロセスの実務についてお話させて頂きます。
「理論と実務」というタイトルですが、理論、つまり、法規定や判例等についてお話する場合、私は、あくまで、実務に役立つ理論をピックアップするように心がけています。

そして、実務上、押さえておくべき論点として、何を取り上げるかの参考にしているのが、日本企業の中国における特許訴訟の状況です。
トータル件数や勝敗件数などの統計的なデータであれば、既に提供されているかもしれないのですが、単に数だけでなく、1件1件中身を見て、特に敗訴した場合に、何が敗訴の原因なのかを分析してお話しているのは、多分私だけではないかと思っています。基本的に判例オタクなので、この分析作業自体も楽しんでできるところが私の強みかなと(笑)。

ちなみに、下図は、昨年の同セミナーでお話した時のデータです。

2021年のデータについては、タイムラグあり、今年調べ直したら、21件になっていました。

昨年は、敗訴原因の分析から、エンフォースメントパートでは、主に無効化対策と機能的クレーム、その他、日本法の考え方と異なる論点として、予見可能性原則やその前提としての均等論などについてお話しました。

今年はまず、判例分析から、エンフォースメントパートで取り上げる論点を変更し、損害論における基本的な考え方を説明した後、直近3年間の実際の日本企業の訴訟事例を2つ取り上げ、賠償額の算定について、明暗が分かれたポイントをお話したいと思いました。

また、これまで実際に相談を受ける中で、当初から特許権侵害に対する手段が決まっているというケースは少なく、あるいは、当初は訴訟なり行政法執行なりを希望されていたものの、状況によって、他の手段を選択すべきと思われるケースもしばしばありましたので、そもそもどのような手段が理論的に採りうるのか、それぞれの実効性やリスク等について、改めて丁寧にご説明したいと思いました。

一方のFTOパートでは、昨年は、調査の流れなどからお話したのですが、今年はその点は割愛し(スクリーニング母数以外はそれほど日本などと違いはないので)、均等と禁反言について、特にお話したいと思っています。具体的には、基本となる司法解釈の規定を説明した上で、良くあるパターンとして、
・審査段階で構成要件を追加する補正を行った場合
・従属項のみ有効と判断された場合
・数値限定クレーム

などを取り上げ、実際の最高人民法院の判例に基づき、説明します。

中国では、判例を学んでも意味がない、というようなことを言われることもありましたが、昔の話です。今は訴訟の書面なども含めて、判例を引用して主張を展開することは、ごく普通に行われています。
その背景としてはやはり、特許権侵害訴訟の第二審(中国は二審制)が、最高人民法院の知財法廷で統一的に審理されるようになったことが大きいのかな、と私は思います。

それから、FTOパートでもう1つ、無効鑑定の際の留意点として、進歩性の判断基準の日本との相違点を再度お話したいと思います。
企業の知財部の方は、基本的にプロセキューション周りに詳しい方が多いです。このため、進歩性の判断基準も良くご存じなのかと思っておりましたが、無効鑑定の段階で意外に質問されることが多いので、今年、取り上げてみました。もちろん審査段階と基準は同じですが、感覚的に、審査段階よりもよりきっちりと判断されるように思っておりますので、注意が必要だと思います。

その他、公衆意見など、昨年取り上げなかった制度の説明(無効審判まで待つべきか?等)も取り上げます。

約70名の方がご参加予定と事務局の方からお聞きしました。話す私が、資料作りの段階から一番楽しみにしていますが、私がお伝えできる情報が、必要とする方に広く届いたらうれしいです。


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