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「ステファン・カリーが偉大である理由」

 ニューヨークで生活を始めてもうすぐ3ヶ月が経とうとしているが、こちらに来て驚くことが、とにかく一般人レベルでもスポーツトピックに関して活発にディベートをする文化。テレビやSNSにおけるコメンテーターや元アスリート、記者とのディベート番組やチャンネルが数多存在するのにも驚かされるが、これが一般の「にわか」スポーツ好きにも浸透しているからアメリカは面白い。つい先日も、会社の会議室で同僚同士がNBAファイナル第1戦の残り36秒の疑惑の判定(ケビンデュラントのプレーに対するレブロンのブロッキングファウル)を巡って熱い議論を交わしているのを目にして、さすが一般の生活レベルにまでスポーツが根付いているアメリカだと感嘆した。


 さて、ただここでわたしが議論したいのは「アメリカのスポーツ文化」でも「ディベート文化」でもない。(筆者はそんな高尚な話をするほど博識高くない。)最近のアメリカ国内スポーツメディアやNBAファンの間で再燃している「マイケル・ジョーダンvs.レブロン・ジェームズ」のディベートトピックを基に、私見を交えて考察してみたい。

NBA史上最高プレーヤーはMJかLBJか・・・

 昨年末にESPNのFIRST TALKというディベート番組で、スコッティ・ピッペンが「レブロンはジョーダンを超えた」と発言したところからこの議論は再び熱を帯び始め(上記写真がその時の様子)、NBAファイナルは呆気なく敗北したものの、今回のプレーオフを通してのレブロンの圧倒的な存在感とスタッツによって、「レブロンは史上最も偉大なプレーヤーか?(ジョーダンを超えるか?)」という議論がアメリカ国内で更に加熱しているように思われる。(ピッペンは後日「スタッツではレブロンはジョーダンを超えたと発言した」「チームが求める役割を考えるとジョーダンとレブロンの比較はすべきでない」と自身の発言を擁護している)。

 確かにレブロンは過去に比較できるような選手がいないくらい、全てを兼ね備えているまさに「怪物」であり、優勝リングやMVPの数はジョーダンに及ばないものの、自身のスタッツは歴代のあらゆる偉大な選手の記録を次々に塗り替え、今後も塗り替え続けるであろう。レブロンの実績、存在感、プレースタイル(好き好きはあるが)は現役最強であり、また偉大であることは疑いもないだろう。ただ個人的な感情もさることながら、レブロンが常にマイケル・ジョーダンと比較され、「NBA史上最高の選手か?」という議論が毎回沸き起こることに、わたしは何故か納得が行かない。確かにレブロンは現役NBA選手の中で実力的には「最強(Best)」ということは認めるものの、果たしてそれが「偉大(Greatest)」か、というと微妙なニュアンスの違いだが、ついわたしは首を傾げてしまう。
 
 人それぞれに色々な見方があると思うが、そんな時、つい先日現地の友人とこのトピックについて話をしていた時に、「偉大さの尺度はどれだけNBA・バスケットボール競技そのものに影響を及ぼした選手か」であるべきだという意見を述べていた。なるほど、その観点は考察の余地があるかもしれない。そう考えた時に私の中では現役選手でレブロンを超えて偉大な選手は1人しかいないと結論づけた。賛否両論あるかと思うが、それは間違いなく「ステファン・カリー」なのである。

真のゲームチェンジャーは誰か?

 この観点から考察すると、確かにこれまでNBAで「偉大」と讃えられてきた選手は、その選手が及ぼす影響によって競技ルールやNBAのプレースタイルそのものを変えてしまった文字通りの「ゲームチェンジャー」であると言うことができる。 

UCLA時代も数々の逸話を残すジャバーは、バスケ史上最大のゲームチェンジャーの一人(写真:https://www.giantbomb.com/kareem-abdul-jabbar/3005-6531/images/

 NBAのリーグ創業初期から1970年代くらいまではビッグマンがリーグを席巻していた。古くは遡って1950年代に活躍したNBA史上初の本格ビッグマンであるジョージ・マイカン、1960年代から80年代にかけては、1試合100得点の偉業を成し遂げたウォルト・チェンバレンや歴代得点1位のカリーム・アブドゥル・ジャバーなど、これらのビッグマンはNBAにショットクロック、ゴールテンディング、3秒区域拡大やダンク禁止*(*これはNCAAの話ではなるが、いとも簡単にダンクを決めてしまうジャバーへの措置)などのルールを導入させ、またセンター自体のプレーにおける役割を大きく変え、長きに渡るセンター中心のバスケットボールを確立させた選手たちである。 

 その後に出てくる選手は、説明は不要とは思うが、マジック・ジョンソンは1〜5番までプレーすることでポジションごとのプレースタイルやポジション自体の概念を無くしたと言っても過言ではないし、マイケル・ジョーダンの出現は競技のみならずあらゆるバスケットボールシーンを根本から変えたし(説明する必要もないのであえてここでは書かない)、シャキール・オニールはその「アンストッパブルさ」ゆえ、「ハックアシャック」を戦術として全チームが取り入れ、その後この戦術をNBAに根付かせた張本人でもある。上記は偉大な選手の中でも特に「ゲームチェンジャー」な選手の例を上げたが(これ以外にも勿論いると思うが)、現役選手の中でも文字通り「ゲームチェンジャー」として影響を与えた偉大な選手がいる。それがNBAに3P革命をもたらしたステファン・カリーなのである。

カリーの絶大なる影響力

 NBAが3Pを導入した1980年以降、毎シーズンごとに各チームの平均3P試投数は上がっているのだが、分かりやすく2000年以降からカリーのルーキーイヤーまでの10年間の平均試投数を見てみると、その数は1チーム平均約14本(00-01)から18本(09-10)と平均で4本しか増えていないが、カリーの2年目以降から昨シーズンまでの9年間で各チームの平均3P試投数は11本も増えているのである(10-11:18本→17-18:29本)。極端な1on1戦術でインサイド1名を除いて全員3Pを決められる布陣を敷いているヒューストン・ロケッツは、2年連続で1試合あたりの3P平均試投数が40本を超え、全体のFG試投数の50%以上を3Pが占めているのである。
 
 カリー本人自身も、3年連続で1試合の3P平均試投数は10本(今シーズンは9.8本)を数え、1試合の最多3P成功数(13本)、シーズン3P成功最多記録(402本)、3P連続成功試合数(157試合)と3Pに関わる記録には枚挙に暇がない。まさにNBAに3P革命をもたらした「ゲームチェンジャー」であることに異論はないが、更にカリーが及ぼした影響として3Pラインよりも遠い位置から打つシュートを根付かせたことだろう。
 
 今やディミアン・リラードやエリック・ゴードン、ジェームズ・ハーデンなど多くの3ポインターが、3Pライン後方からシュートを放つ光景が日常茶飯事に見られるが(我々の中高時代に教えられたバスケの常識では考えられない!)、これもカリーが大きく影響を与えている。少し前の記事になるが、ESPNがリーグ全体で27フィート(約8.2メートル、通常の3Pラインの約1メートル後方)以降から放つリーグ全体の3P試投数を集計したところ、カリーの2年目(10-11)の試投数から15-16シーズン(カリーが満票でMVPを取得したシーズン)の5年間でほぼ倍増したのである(1,659本→3,067本)。15-16シーズンは、カリーは少なくとも1試合で1本以上を27フィート以降から3Pを決めている(そのシーズンのサンダー戦・延長残り2秒でハーフコート付近から放った決勝3Pは、カリーの生涯ベストプレーの一つであり、多くのNBAファンにも記憶されている。)。その影響もあってか、何もNBA選手だけではなく、こちらではジムでピックアップゲームをすれば皆こぞって3Pライン後方からシュートを打ちたがるし、子どもたちもそのシュートを取得するのに熱中している。しかも試合で3Pシュートばかりを打つので、アメリカでは小学校のバスケットボールの試合では3ポイントラインをなくす議論まであるらしいからカリーの影響力は計り知れない。
 
 カリーの試合前のルーティンウォームアップも含め、ここまでNBAリーグ・選手のみならず、バスケットボールをプレーする一般人や子どもたちにも大きな影響を与えている「ゲームチェンジャー」な現役選手は間違いなくカリーしかいない。それは華奢で身体能力も高くないカリーが、レブロンやKDなどどこか異次元の身体をもつ選手とは違い、子供たちにとっては自身を投影できる、カリーと同じことをすれば自分もNBA選手になれるのではないか、という夢を与えてくれる選手なのである。それは、誰しもがマイケル・ジョーダンに憧れて彼のシューズを履き、舌を出し、フェイダウェイの練習をした、それと似たものをステファン・カリーは持っているのだと思う。そんな彼こそ、ジョーダンと比較されるべき「偉大な」選手であるとわたしは言いたい。

参照:
https://towardsdatascience.com/the-evolution-of-the-nba-3-point-line-da6700714ad2

http://www.espn.com/nba/story/_/id/15001418/how-stephen-curry-revolutionizing-basketball

https://www.basketball-reference.com/leagues/NBA_stats.html

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