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因果関係 vol.1 #45

今回は「因果関係」について考えます。特にビジネスの場面における「因果関係」の把握がテーマです。

今回も長くなりそうですので、2回に分けて書いていきたいと思います。

1.因果関係の思考技術

「因果関係の把握」は特に「問題解決」の場面において、重要な思考技術となります。

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なお、問題解決の思考技術については、以下を参照ください。

問題解決の場面では、問題の個所が特定されたら、「なぜ、こういう現象が起っているのか。その原因は何か。」という問いかけを行うことになります。

因果関係を意識するのは、この「Why」のフェーズとなります。

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2.因果関係があるとは?

「因果関係があるといえる条件」についてですが、因果関係を見つけるためには、以下の3点のチェックが必要となります。

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どれも言われてみれば当たり前のことですが、意識しておかないと意外とスルーしてしまいます。

3.ビジネスにおける因果関係

ビジネスの世界で因果関係を見極めるには、推量・類推が必要となります。

科学の世界(特に自然科学)では、2つの事象の間に因果関係があることを確認する場合、2つの事象をそれぞれX(原因)とY(結果)として、次の3点がクリアできるかをチェックします。

① Yが起きたすべてのケースにおいて、Xが存在する
② Xが存在しないときに、Yが存在しない
③ 他の条件は同じ

しかしながら、ビジネスの場面で、こうしたやり方で因果関係の有無を特定するのは困難です。

なぜなら、科学とは違って検証のための実験を行いにくいという制約があり、過去のデータを検証しようにも、データは不備であることがほとんどだからです。

たとえデータを持っていたとしても、分析を繰り返すことの時間的なコストは大きく、また、昨日まで正しかった因果関係が、明日以降も正しいという保証もありません。

したがって、ビジネスの場面では、推量・類推が重要となります。

数値データやヒアリング、一般常識に加え、それまでに蓄えた知識や経験を総動員して、8割方正しいと思えるまで推量・類推を行います。

つまり、より多くの人が「確かにそうだろう」と思えるところまで説明できれば十分ということです。

4.推量・類推するとは

次の結果を引き起こした原因として、どのようなことが考えられるでしょうか。

結果:今日は部下のA君が意気消沈している
原因:
① A君は一昨日、重要な営業案件を競合相手にとられてしまった。
② A君は昨日、パソコンにデータとして保存していた重要なファイルを誤って消してしまった。
③ A君は1か月前に長期の出張をしていた。
④ 明日、A君の上司はA君に転勤を伝えようと思っている。

因果関係の条件に従って、まず、時間的経過から考えます。

④の「明日、A君の上司はA君に転勤を伝えようと思っている」は未来のことです。未来の原因によって、過去の結果(今日の意気消沈)が起こるはずはないから、まず④が除かれます。

次に、相関関係を考えてみます。③の「1か月前に長期の出張をしていた」は、少なくとも明らかな相関関係はなさそうです。時間的に離れすぎているし、長い期間出張することが、意気消沈に結びつくとは考えにくいからです。

ただし、複雑な因果関係でつながっている可能性がないとは言えません。たとえば、「1か月前に長期の出張をしていた→疲れが十分回復していなかった→一昨日、昨日と心労につながるようなことが起こった→今日になって疲れが爆発し、気力が衰退している」といった具合です。

ですが、これが「最も妥当な」原因と言える可能性は小さいと思います。

より強い相関関係がありそうなものを探すと、①と②が残ります。ここでは、両方とも可能性として考えられますが、もし昨日あまり消沈しておらず、今日になってそれが目立つようなら、②「重要なファイルを誤って消してしまった」の可能性が高くなると思います。

これが、より多くの人が「確かにそうだろう」と思える類推・推量の一つの例になります。

もう一つの事例を見てみます。

次の結果を引き起こした原因として、どのようなことが考えられるでしょうか。

結果:多くの若者が原宿にやって来るようになった
原因:
① 原宿にブランド・ショップの出店が相次いだ。
② 渋谷を訪れる若者が減少した。
③ 年配の女性にも原宿は人気がある。
④ これからは池袋が人気のスポットとなる。

まず、時間的順序を考えると④が除かれます。次に相関関係を見ると、①が最も相関が強いと言えそうです。

②は渋谷の人気低迷に応じて、原宿の人気上昇という逆の相関が見られるということになります。

「渋谷」の代わりになぜ「原宿」であるのかを説明するにはもう少し情報が必要ですが、ここでは選択肢①の事項が、②の遠因になっていることも考えられます。

すなわち、「ブランド・ショップが原宿に出店したので(原因)、渋谷に来ていた客が原宿に流れ、結果として渋谷にやって来る人が減り(結果)、原宿に来る若者が増えた(結果)」という仮説が成り立ちます。

③については、「年配の女性に人気のある」場所だからといって、「若者」がその場所を選ぶことは考えにくいです。

なお、①の因果関係は、後述の「にわとり-たまごの関係」にも当たりそうです。

ここでは「ブランド・ショップの出店」を原因ととらえましたが、若者の間で原宿の人気が上昇するにつれ、彼らの購買力を見込んで「ブランド・ショップの出店」がさらに増えることも考えられます。

つまり、「若者の間の原宿人気」が「ブランド・ショップの出店」の原因となり、「ブランド・ショップの出店」がさらなる「原宿人気」の原因となるという流れです。

5.因果関係のパターン

因果関係には大きく3つのパターンがあります。

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単純な因果関係は、非常にシンプルです。直線的な関係になります。

一方、にわとり-たまごの因果関係は、原因と結果が無限ループし、非常に分かりにくい関係になってます。

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複雑な因果関係は、この2つのパターンが複雑に絡み合ったものになります。それぞれの関係を丁寧に紐解いていかないと、因果を取り違える可能性があります。

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6.因果関係の好循環と悪循環

通常、経営上望ましい「にわとり-たまご」の因果関係を「好循環(グッド・サイクル、拡大サイクル)」と呼び、企業経営上避けたい「にわとり-たまご」の因果関係を「悪循環(バッド・サイクル、縮小均衡サイクル)と呼ぶびます。

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以下の事例で、この違いを見てみます。

ここはある地方都市の商店街。街路樹が整備され、石畳が敷かれたメイン・ストリートの両側には、古きよき町屋の面影が残る旧家が並んでいる。その軒下では、地元でとれた青果や伝統工芸品などが売られている。通りは地元の住民に加え、風情ある町並みに惹かれた観光客で混雑し、活気にあふれていた。その様子を、商店街を取りまとめる町内会長が眺めていた。
「10年前には、まさかこれほど活気にあふれた町に戻れるとは思わなかったのだが…」
およそ10年前、この商店街の状況は惨憺たるものだった。メイン・ストリートである大手通りは、別名「シャッター通り」と呼ばれ、昼間からシャッターの下りた店が並ぶ状況であった。
地元商店主の高齢化が進み、商売に対する情熱は低下していた。各商店主にとって商店街とのつながりは薄く、一緒になって商店街を盛り立てていこうという意識はまったくなかった。数年前、隣接する県庁所在地にデパートが進出してきたが、商店街として団結し、対抗しようという動きもなかった。商店街の凋落は時代の変化によるものであり、自分たちは被害者であるという意識が強かった。
行政は行政で、当時の「ふるさと創生」、まちおこしブームに乗り、江戸時代の城郭を再建してみたり、伝統工芸品センターを作ったりした。しかし、しょせんは「箱モノ」行政で、住民が参加できる余地はほとんどなく、住民にしてみれば「あ、何かできたな」というレベル。住民も魅力のない商店街で買い物するよりも、近くのデパートへ足を延ばすことが多くなっていた。
そこへ、郊外に一大ショッピング・センターが建設されるという話が持ち上がった。商店街で商いを続ける人々の多くは、ショッピング・センターの出店によって、ただでさえ少ない人の流れがさらに少なくなってしまうと猛反対した。しかし、商店街の会合で、ある女性が発言したことから場の雰囲気が変わった。「ここは私たちの町じゃないの。他人を責めてばかりいないで、私たちの
手でもう一度立て直しましょうよ」
この会合を契機に、住民の意識が変わった。各商店は、地元や近隣、果ては日本全国にどのように商店街全体を訴求すべきか考えるようになった。各地の成功事例を参考に、企画を練りに練った。その企画会議には近隣の住民も参加した。自分たちの住む町をいかに魅力的に、かつ住みやすい街にするかは自分たちの問題であると考えたのだ。行政にも働きかけた。従来の一方的なばらまき型のまちおこしではなく、住民が自発的に行うことを支援してほしいと訴えた。
それから10年、商店街は変貌を遂げた。古くからの町並みを生かした商店街をつくるという企画は当たり、全国各地から観光客を集めるようになっていった。郊外にできたショッピング・センターとも良好な関係を築き、商店街の古い街並みと新しい商業施設とのコントラストが絶妙な、住みやすい町がつくられた。それを陰ながら支えていたのが行政による資金、人的にネットワークのサポートであった。地元住民も地元で買い物するようになった。顧客が増えれば商店主たちも潤う。そして町に活気が戻ってきた。
町内会長は振り返って言う。「ショッピング・センターの建設が契機とはいえ、あのときに自分たちの意識を変えなかったら、いまのこの町はないかもしれないな」

この事例について、かつてはどのような悪循環が回っており、それがどのようにして好循環に変わったのか、また、出来上がった好循環はどのようなものだったのかを考えてみたいと思います。

まず、この街の商店主たちの意識と行動を考えてみます。

10年前、商店主たちは商売に対する意欲を失っていました。顧客が減少したことを近隣のデパートのせいにしており、自分たちで問題を解決しようという意識はなかったと思います。

策を講じないから商店街は魅力を失い、顧客の足はますます遠のいていました。客が寄りつかないから、商店主たちの被害者意識が増長されます。こうして悪循環が回っていきました。

しかし、ショッピング・センターの進出で危機感を強めたある女性の一言により、悪循環を形成していた被害者意識が当事者意識に変わりました。

それをきっかけに、真剣に対策を講じ始め、その効果が出てきて、顧客が増えてきました。

自分たちの行ったことに成果が出たのだから、気分よく新しい策を考えることができます。

そうすると、また顧客が増え、好循環が回り出すことになります。

この人のせいにする「他人ごと」の「被害者意識」から、「自分ごと」の「当事者意識」に変わったところが、悪循環から好循環に変わったターニングポイントだだったと思われます。

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この「好循環の因果関係」を作り出していくことは、ビジネスにおいて、目標とすべき、重要な因果関係となります。

「にわとり-たまご」の因果関係には、「好循環(グッド・サイクル、拡大サイクル)」と「悪循環(バッド・サイクル、縮小均衡サイクル)の因果関係があり、そのどちらのサイクルになるかによって、大きな違いが生じるということを肝に銘じる必要がありそうです。

今回はビジネスにおける「因果関係の思考技術」の基本的な考え方について、述べました。

次回は、この「因果関係」をどのようなステップで捉えていけはよいかを考えていきたいと思います。


参考文献・引用:
「[新版]MBAクリティカル・シンキング」グロービス(ダイヤモンド社)
「[新版]問題解決プロフェッショナル」齋藤嘉則著(ダイヤモンド社)

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