窮屈な効率優先社会だからこそ、「無器用を武器にしよう」

僕はとことん無器用な人間だ。
バランスよく何かをできないし、
才能もない。
でも、それが僕の強みだと思っている。
大学を7年かかって卒業し、
作家を志したが、
同世代の大江健三郎氏や、
石原慎太郎氏の作品に、
打ちのめされて挫折した。

就職試験にはことごとく落ち、
ようやく岩波映画に入ることができ、
カメラ助手となった。
ところが僕は機械にめっぽう弱い。
バッテリーとカメラをつなぐコードを忘れ
カメラにフィルムを入れ忘れ、
挙句の果てに、
いざ本番でカメラが動かなかったり……。
とんでもない助手で、
半年でクビになった。

僕は大した才能もないが、
怠け者ではない。
努力はしたのだが、
うまくいかなかったのだ。
「一念岩をも通す」と言うけど、
通さないものもやはりある。
結局、会社は4つ変わった。

しかし振り返ると、
それがよかったと思う。
挫折続きだから、
「こっちじゃないな、こっちらしい」と、
落ち込みながらも、
自分の得意を探した。
「好き探し」ができたのだ。

もっと言えば、
失敗を経験して、
自分の限界を知ると、
他人の良さや能力もわかってくる。
ある分野では、
「あいつの方が自分より優れている」と、
認めることができる。

大江氏や石原氏の作品を読んだ時がそうだった。
打ちのめされたが、
心から「すごい。こういうやつが作家なんだ」と思った。
悔しさはある、
あるけれど、その中で、
他人を認めていく。
それが人間の器であり、
そこから、「では自分には何ができるか」と考えるのだ。

こんな僕の人生体験や、
思いを記した、
『無器用を武器にしよう』(青春出版社)が、
発売された。
実はこの本、1994年に初版が出ている。
つまり30年後の今年、
復刊されたのだ。

改めて読んでみたのだが、
大事にしていることや思いが、
まったく変わっていないことに驚いた。
そして世の中は、
「多様性」「個人の尊重」などと言われるが、
30年前よりも、
一方で窮屈さが増しているように感じる。
ある発言がもとでSNSは炎上し、
失敗した芸能人は徹底的に叩かれる。

効率のよさが重視され、
無駄なものは切られていく。
けれど、あまりに合理的に進むと、
人間は何か大事なものが
ポーンと抜け落ちる。
僕はそこが危険だと思う。
こんな時代だからこそ、
『無器用を武器にしよう』を
復刊させる意義が、
あるのかもしれないと思った。

器用になんて生きられなくていい。
無器用だったり、
弱かったり、
コンプレックスを持った人間が
いていいじゃないか。
不完全な人間だから、
迷い、悩み、苦しむ。
だからこそ見えるものが、
世の中には大切なのだと思う。

今、生きることが苦しかったり、
何かどうしようもない思いを抱えている、
そんな方に、
ぜひ手に取っていただきたい。
僕も挫折続きの若い頃、
自殺を考えるくらい落ち込んだ。
この本が、
少しでも心が楽になる助けになって、
何かを始めるきっかけになれば、
僕はとてもうれしい。