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グレート・ギャツビーを読んで

「彼女にあまり多くを要求しない方がいいんじゃないかな」と僕は思い切って言ってみた。「過去を再現することなんてできないんだから」
「過去を再現できないって!」、いったい何を言うんだという風に彼は叫んだ。「できないわけがないじゃないか!」

時間は一方向にしか流れないという物理的な現実。
そのつまらなさ。

「すべてを昔のままに戻してみせるさ」と彼は言い決意を込めて頷いた。

彼は本気だ。
その言葉に一点の曇りもない。
それが全面に溢れている。隙間なくきっちりと。
自分はそれだけのために存在しているんだと一点の疑いもなく。

「ギャツビーという男、いったい何者なんだ?」

過去も未来もないその時点だけで存在しているような人物。
まるで光の反射だけによって映し出されている幻影のような。
そこにあるのは美しさではなくて破滅の予感。脆さ。
ハッピーエンドはあり得ない。

ギャツビーのそんな話に耳を傾けているあいだ、そのあまりの感傷性に辟易しながらも、僕はずっと何かを思い出しかけていた。

懐かしい音楽を聴いた時みたいに。
最初の数音を聴いただけで一気に蘇るもの。
しっかりと掴もうとすればすり抜けていく。
それでも懲りることなく僕らは手を伸ばし続ける。

あの有名な最後の一文。この名文にたどり着く為だけでも一読の価値がある。
胸の辺りがスーッとする爽快感。読み終えた後に変わる光の見え方。
あの夏という季節そのもののように。
それを感じるならギャツビーという人物は今も何処かで存在し続けている。

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