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大人も読める絵本『ぼくはここにいるよ』





ある街に一人の男の子が誕生しました。
父は新庄あらた、母は新庄なつみ。
そして、そんな二人のもとに生まれた子供は「春」と
名付けられ、名前の通りの温かく、明るい子へと
成長しました。
そんな春君には大好きなものがあります。
それが恐竜です。
どれほど好きかというと、博物館に毎日のように
通うほどです。
そしてほら、今日もあそこに

「ママ、こっち、こっち」
「はいはい、ちょっと待って」
「うわ~、やっぱかっこいいなプテラノドンは!!
こいつはね、翼があるけどはばたくわけじゃないんだよ!風に乗ることでう~んと遠くまで飛ぶことが
出来るんだ!すごいよね!!」
「それにね、知ってた?プテラノドンはね恐竜じゃないんだよ。それでね、「歯のない翼」というのが
プテラノドンの日本語での意味で」
「はいはい、ママ 一辺に覚えられないから少し待って!」

春君がプテラノドンの話をすると、それはもう長くなります。
「え~、まだ話したいのに~。じゃあ次のに行こう!」
少しふて腐れながら春君は一直線に次のエリアに走っていきます。
ママ~、早く!!こっちだよ」
春君が次に向かったエリアは、春君が2番目に好きな
ケツァルコアトルスの大きな模型があるエリアです。
「いつ見ても、大きいわね!!」
「ただ大きいだけじゃないんだよママ、すべての空を飛ぶ生き物の中でいっ~ちばん大きいんだよ!」

「あとね、長いくちばしでね、魚とか死んだ生き物の
お肉を食べていたらしいんだ!それでね、白亜紀後期の恐竜が絶滅する時まで生き延びていたと考えられているから、“翼竜の一番最後の姿だ!”とかも言われているんだ」
なんとなく皆さんは気づいているかもしれませんが、
春君は翼竜が大大大好きなのです。
しかし、そんな春君に対してお母さんには困りごとがあるようで、
「はぁ、春ったら翼竜の知識だけはすごいんだから、勉強ももう少し頑張ってほしいわ」

「うるさいな~、やってるもん。そんなことより、
次行こ!次」
どうやら勉強が嫌いなのは、春君も同じのようです。
まあちなみに私もですけど。
おっと、そんなことはどうでもよくて...
春君には博物館において大好きな翼竜が3体いるのですが、どうやらその最後の翼竜に会いに行くようです。
「いた~~!!会いたかったよ、クリオドラゴン!」

「ママは初めて見るよね、これはね2019年に発表
された新しい翼竜で、ケツァルコアトルスと一緒ぐらい大きいって言われていて、食べ物はねー、トカゲとか
恐竜の赤ちゃんを食べていたんじゃないかって考えられているんだ!」
「へ~!いつの間にそんなにくわしくなったの!」
「えっへん!すごいでしょ!」
春君はほこらしげに胸をはります。

「ねぇ、またもう一周しよ」
と春君が言いましたが、お母さんはどうやら腕時計を
確認しています。
「春、そろそろ帰ろうか」
「えー、まだいたいよ」
「また来ればいいでしょ。それにそろそろ帰ってご飯
作らないと、お父さん「おなか減って倒れる~」ていうから。ね!」
「じゃあ、来週も絶対行こうね!」
「うん、約束ね!」

ある日のこと、いつものように男の子は母親に言います。
「今週はまだ一回も行ってないよ。今日行こうよ!
絶対行こ」
「ごめんね、今日はママ仕事で忙しいの。だからまた
今度にしよ」
「いやだ!絶対行く」
「春ったら言うことを聞いて!今日はどうしてもダメなの」
「もうママのことなんか知らないよ。僕だけで行ってくるから」
「待ちなさい。春!ハル!?



「春君、ばあばがきたよ。ばあばね、今日はね、春君の好きだった恐竜チョコ持って来たんよ。
いっぱいたべね~」
「あらた、なつみさんの様子はどうね?」
「受け入れることが出来なくて、今はまだ・・・」
「ちゃんと、そばについていてやるんよ!いいかあらた」
「わかってるよ。父さん」

「ママ。見てこれ!」
「わあ、上手だね!これは何の恐竜?」
「これはね、プテラノドン!!ママ、プレゼント!」
「本当!!ありがとね、春」

「・・・春・・・・・」
「なつみ、春のために二人が来てくれたよ」
「・・・・・・・・・」
「なつみさん、あんたのせいじゃなかよ」
「・・・・・・・・・」
「あらた、なつみさんと少し外に出てきたらどうや」
「そうだな、なつみ少し外に出ようか」
「・・・・・・・・・」

しばらくすると、二人は車に乗り込み走り出していきました。
「春のことは、お前のせいじゃないよ」
とあらたが言いましたが、なつみは何も話しません。
しかし、車が恐竜博物館の前を通りかかった時です、
「声が聞こえる・・・・」
となつみが言いました。
「ねえ、あそこに行って。春の声が聞こえた気がしたの」
「わかった」

あらたは車を駐車場に止めました。
「春・・・・・」
「ここに春がいるのか?」
二人は博物館を少し眺めた後、入り口に向かって歩き 始めました。

ガチャ
なつみはドアを開け、中を見渡します。
そこには、春と来ていたいつもの景色が広がっていました。
「春?いるの?どこなの?」
「なつみ、春のルートを通ろうか」
春にはおなじみのルートがあり、二人はそこを通ることにしました。
歩いている内に二人は目の前に春がいる時を想像し、
胸が苦しくなりました。

しばらく歩いていると、春の大好きな翼竜である
プテラノドンが見えてきました。
「やっぱり、かっこいいなこいつは」
お父さんがプテラノドンの模型に見とれていると急に
ヒュウー-----------
扉が勢いよく開き、すさまじい風が博物館の中に入ってきました。
「なんだ、急に!!手を離すなよ、なつみ」

すさまじい風で博物館中が包まれている中、館内に突然甲高い声が響き渡ります。
「なんだ、この声は?」
そういって、あらたが振り向くと
なんと、プテラノドンの模型が動き出したのです。
プテラノドンは首をゆっくりと横に振ると、上の方を
見上げました。
すると、風も一気に上の方に移動していき上昇気流が
出来上がります。
「急に風が上の方向に?」

その風に乗ってプテラノドンは飛び上がり、館内に再び甲高い声が響き渡ります。
「すごいな、これは。今までこんなのはここに無かったぞ!これは春にも、見せてやりたかった」
プテラノドンは天井すれすれのところを風に乗りながら、旋回を続けています。
ただ楽しんでいるのもつかの間、今度は二人に向かってプテラノドンが向かってくるではありませんか。
あぶない、なつみ!逃げるぞ」
二人は急いで別のエリアに逃げていきます。

二人がたどり着いたのは、春が2番目に好きな
ケツァルコアトルスの模型があるエリアでした。
「まさか、こいつも動いたりしないよな」
「あなた、少し休ませて」
「ああ、そうだな。それにしてもさっきのは
何だった・・・・」
ドシン
「まさか・・・・・」

あらたは恐る恐る後ろを振り返りました。
すると、今度はケツァルコアトルスの模型がゆっくりと台座から移動をし始めたではありませんか。
「こいつもか!いつの間にこんなすごい場所になったんだここは」
ただ少し様子が変です。
「どうした、なんか探しているのか?」
あらたの言う通り、何やらキョロキョロしています。

スンスンスンスン
「匂いを嗅いでいるのか?」
スンスン!!
ケツァルコアトルスが急に二人のいる方向に顔を向けてきました。
そして、次の瞬間
こちらの方に移動してきます!
なんでこっちに来るんだ!!
二人はエリアの出口に急いで向かいます。

「なつみこっちだ!!」
ガチャン
あらたがエリアの扉を閉めたことで、二人は何とか逃げ切ることが出来たようです。
そして、いつの間にか二人はエントランスまで戻ってきていました。

「大丈夫か?なつみ」
「ええ、大丈夫よ」
「?」
「どうした?えっ!!」
二人の足元に巨大な鳥のような影が現れました。
しかも、その影の大きさがだんだんと小さくなっていきます。
「今度は何が来るんだ」
ドーン
館内にものすごい音が響き渡ります。

そして二人の前に姿を現したのは、クリオドラゴン
でした。
「またか、もう3度目だぞ。やめてくれ」
クリオドラゴンは口を大きく開け、二人の方に向かってきます。
「あなた、危ない!」
「こっちに来るな!なつみは俺が守る」
「アハハハハ、大丈夫だよ。食べたりしないから」
驚くべきことにクリオドラゴンが喋り始めました。
「あ~楽しかった!!空を飛ぶの!」

「・・・・・・・・・」
二人はあまりの驚きに言葉が出ません。
「このかっこのままじゃ、怖いよね。今から出るよ」
すると、クリオドラゴンから人の形をした光が出てきました。
そして、
「驚かしてごめんね。パパ、ママ」
「パパ、ママ?もしかして、春?なのか」
「うん、そうだよ」

光は徐々に薄くなっていき、春くんが姿を現します。
「春・・春!!
「本当に春なんだな・・・なんであんなことに・・・」
二人は春くんに駆け寄ります。

「ごめんね、ママの言うこと聞かないでこんなことに
なっちゃって」
「ううん、私が春についていってれば・・・・
ごめんね」
「ママ、僕は大丈夫」
春くんの体が再び光始めます。
「あ!そろそろ時間だ」
「春、どこに行くの?」
「僕ね、今から恐竜の世界に行くんだ!!」

「だから、僕のことはもう心配いらないよ!
パパ、ママ、今までありがとう。僕ねパパとママの子供に生まれてきてすっごく楽しかったよ」
そして、春くんはたくさんの小さな光の粒となって空へと飛んでいきました。
「今のは・・・・夢でも見てたの・・・・」
「春は、最後に会いに来てくれたんだと思うよ。少し
早い旅に出る前にね」

「なつみ、俺のネクタイどこか知らない?」
「そこの椅子にかけてあるでしょ、まったく」
「今日から私も仕事に復帰するんだから、ちゃんと
してよね」
「ごめん、じゃあ先に行くから。行ってきます」
「行ってらっしゃい!」
「よし、私も準備完了!じゃあ行ってきます!!」

おしまい

背景担当:糸こんにゃく https://www.instagram.com/bisque047/?hl=ja
人物担当:もち巾着   https://www.instagram.com/fjm_900/?hl=ja


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