仁科太一

1995年生まれの大学院生。演劇教育学と乳幼児演劇について研究。 noteは、Face…

仁科太一

1995年生まれの大学院生。演劇教育学と乳幼児演劇について研究。 noteは、Facebookに投稿した文章のアーカイブとして利用しています。

マガジン

  • 演劇みた感想

    見た演劇の感想などをまとめています。子ども向けの演劇が多いです。

  • ワークショップとか実践

    ワークショップに参加した感想、ワークショップなどの実践について考えたことを載せています。

  • 教育とかコミュニティとか社会問題とか

    授業や講演のメモ。その他、自分の考えなど。

最近の記事

『あたらしい朝』ー3つの旅の「重なり」による混乱

10月29日 アトリエ春風舎 うさぎストライプ 『あたらしい朝』 作・演出/大池容子 久しぶりに劇場に来たら、演劇性を感じられる作品を見ることができた。舞台セットはかなりシンプルで基本的にはパイプ椅子しか用いられない。それを補うのは俳優の演技である。基本的には男女三人の登場人物によって物語が進む。物語のほとんどは旅行として移動しているシーンであり、パイプ椅子は冒頭では車、ほかには飛行機の座席、ツアーバスの席になる。パイプ椅子の配置、登場人物の身振りによって、シーンは車のな

    • 劇場に行って観劇するということ

      久しぶりに小劇場に行って観劇した。オンラインに慣れたからすっかり忘れていたのだが、演劇を見るためには劇場に行くという手間暇がかかる。場所にもよるが、電車を乗り継いで、駅を降りてからしばらく歩くことになる。 ●劇場までの道程 アトリエ春風舎は前に行ったことはある。けれど、それは2年ほど昔のことなので、うまく場所を見つけられるか不安だった。そこで、余裕をもって家を出ることにした。小竹向原駅を降りると、「ああ、こんな風景だったな」と思い出した。観劇経験には、その前後に劇場までの

      • 『いないかもしれない』—ノリを凌駕する爽やかな「キモさ」

        5月30日 観劇三昧 うさぎストライプ 『いないかもしれない』 作・演出:大池容子 見終わった後、とても興奮している。いろいろ語りたいことはあるが、細かいことは説明が長くなるのであまりしない。 最近、千葉雅也の『勉強の哲学』を読んだこともあって、『いないかもしれない』は、登場人物たちが何とかノリをつくろうとするが、そのノリを破壊されてしまうというドラマとして見えた。千葉雅也の言葉でいえば、ひたすら「キモい」ドラマだった。「キモい」とは、ノリが悪く、環境から浮いてしまう語り

        • Toihaus-詩的素材のドラマトゥルギー

          12月8日 Toihaus Der Mod tropft 月が滴る ザルツブルクにあるToihausは、乳幼児演劇に力を入れている劇場の一つで、留学中、絶対に行こうと思っていた。乳幼児演劇の国際ネットワークとして「スモール・サイズ」があるが、ここには各国を代表して一つの劇場およびカンパニーがパートナーとして参加している。HELIOS-Theaterがドイツのパートナー劇場だったように、Toihausはオーストリアのパートナー劇場である。 ここに来たいと思っていた理

        『あたらしい朝』ー3つの旅の「重なり」による混乱

        マガジン

        • 演劇みた感想
          29本
        • ワークショップとか実践
          13本
        • 教育とかコミュニティとか社会問題とか
          6本

        記事

          バロックの演技論

          バロックの演技術の話がおもしろかった。読んだテクストは、Franciscus Lang (1654ー1725)の「演技芸術論」(1727)で、ドイツ最古の演技論とされている。この本はラテン語で書かれたが、授業で読んだのはドイツ語の翻訳である。 この授業はある意味、演劇歴史記述(Theaterhistoriographie)の態度の実践でもあり、そのため最初に先生が要点を確認した。説明すると長くなるので、キーワードだけ挙げると、何か演劇の歴史について記述するときには、①歴史を

          バロックの演技論

          図像解釈学—イメージから何を分析することができるか

          図像解釈学の授業がおもしろかった。参加者が気になるポートレートを持ち寄り、みんなでそれを見ながら議論するという内容。持ち寄られた写真は、著名な学者の白黒写真から、俳優(ラース・アイディンガー)のふざけた写真とさまざまだ。 分析のテーマは「個人−社会」であり、写っている人物の視点や身振りなどの身体性に着目する人もいれば、衣装や背景などのモノに注目する人もいる。また写真のフレームや色彩のコントラスト、効果といった写真というメディア性に関する議論もあった。そうした記述によって、そ

          図像解釈学—イメージから何を分析することができるか

          【モノの演劇祭】「Versuche zu Chaos, Fliegen und Maschinen」昆虫とマシーン、そして混沌

          10月27日 Schaubude ¡ VER-RÜCKT ! Versuche zu Chaos, Fliegen und Maschinen 演出:Franziska Burnay Pereira 舞台上には3つの蛹のようなものがぶら下がっている。蛹はやや厚めの紙でできている。上手側の蛹が内側からゆっくりと動き、中から一人の演者が出てくる。フェスティバルのテーマは「KAPUTT 壊れる」だが、蛹が割れて羽化するというのは、象徴的なテーマの一つである。彼女はバトンから吊るさ

          【モノの演劇祭】「Versuche zu Chaos, Fliegen und Maschinen」昆虫とマシーン、そして混沌

          【モノの演劇祭】「Hairy Hairy Mouth」リトアニアの繊維工場

          10月26日 Schaubude Berlin Psilicone Theatre(リトアニア)、Chui(クロアチア) Hairy Hairy Mouth パフォーマンス:Auksė Petrulienė、Darius Petrulis 音楽:Vojkan Jocić、Janko Novoselić、Toni Starešinić 昨日見た「Noir AV Ritual」とジャンルとしては似ているかもしれない。下手のパフォーマーが作業台の上にあるものをいろいろといじること

          【モノの演劇祭】「Hairy Hairy Mouth」リトアニアの繊維工場

          【モノの演劇祭】「Der Kandidat」1968年のパリをボードゲームで体感する

          10月26日 Schaubude Berlin Der Kandidat Marc Villanueva Mir & Gerard Valverde 激動の時代の真っ只中の1968年。その翌年の1969年に、パリのL/Impensé Radicalという出版社が「candidat 候補者」というボードゲームをつくった。ゲーム名とそれがつくられた時代から分かるように、政治上での戦いをボードゲーム化したものだ。ゲーム性としてはチェスと将棋を混ぜたような戦略ゲームとも言えるが、ち

          【モノの演劇祭】「Der Kandidat」1968年のパリをボードゲームで体感する

          【モノの演劇祭】『Noir AV Ritual』-素材としての無声映画

          10月25日 Schaubude Berlin Telekinetic Assault Group Live-Film-Remake Noir AV Ritual ヴィジュアル僧侶:Cristina Maldonodo サウンド吸血鬼:Tarnovski 出演者の役名からしてふざけているが、上演の雰囲気にはたしかに合っている(仮装しているわけではなく、ふつうの服装)。舞台上にはスクリーンがあり、下手のヴィジュアル僧侶(パフォーマー)が小道具を駆使して映像を操作し、その映像の

          【モノの演劇祭】『Noir AV Ritual』-素材としての無声映画

          【モノの演劇祭】『Nettles』-部屋と記憶をめぐる旅

          10月25日 WABE Tricksterp Nettles コンセプト:Cristina Galbiati、Ilija Luginbühl ほかの作品と違って静かで詩的な作品だった。観劇できるのは一人ずつで、ヘッドフォンをつけながら、いくつもの小部屋を移動する。ヘッドフォンから聴こえてくるのは、一人の女性の語り。その内容は小さい頃の思い出で、家族と過ごした日々や、日常のささいな出来事をきっかけにしたぼんやりとした思考など。一つの部屋あたり、5、6分ほどだろうか。小部屋はい

          【モノの演劇祭】『Nettles』-部屋と記憶をめぐる旅

          【モノの演劇祭】「破壊のワークショップ」-身体的・パフォーマンス的に探究するということ

          10月25日 FELD Theater 「KAPUTT: Der Werktatt der Zerstörung 破壊のワークショップ」 タイトルがおそろしいが、小学校低学年向けのワークショップである。担当するのはハンブルクにあるFundus Theaterで、演劇教育で有名な劇場である。ゼミでも扱われたが、それはこの劇場が、演劇的な手法によって特定のテーマを探究するという方法論がきわめてすぐれているからだ。日本でも演劇的手法という言葉は用いられるが、それはロールプレイなど

          【モノの演劇祭】「破壊のワークショップ」-身体的・パフォーマンス的に探究するということ

          【モノの演劇祭】『脳はハト小屋』-一人の男の頭のなかの思考を描く

          10月24日 Schaubude Berlin monsun.theater & Cora Sachs 「Das Hin ist ein Taubenschlag 脳はハト小屋」 作:Dita Zipfel、Finn-Ole Heinrich 演出:Cora Sachs 「Theater der Dinge モノの演劇」というフェスティバルを見に、ベルリンを訪ねている。ドイツ語で人形劇には、PuppentheaterとFigurentheaterがある。前者が人形を用いた劇

          【モノの演劇祭】『脳はハト小屋』-一人の男の頭のなかの思考を描く

          コミュニティと脱車社会についての講演を聴いて

          2018年9月23日(日)胡桃堂喫茶店 まちは変えられる~なぜ世界の都市は公共空間再編に取り組んでいるのか~ 国分寺駅から少し歩いたところにある胡桃堂喫茶店。コーヒーの値段は少々高いけれど、落ち着いた雰囲気の店内は読書するのに最適だ。今回のイベントはクルミド出版の企画で、カフェ研究家の飯田美樹さんのお話を伺うというものだった。このクルミド出版社というのが、クルミドコーヒーというカフェからはじまった出版社であり、ここ国分寺にある胡桃堂喫茶店は、西国分寺にあるクルミドコーヒーの

          コミュニティと脱車社会についての講演を聴いて

          エアランゲンの「学問の夜長」&7月に見た演劇プロジェクト

          2019年10月19日 Die lange Nacht der Wissenschaften 1カ月くらい前から、「Die lange Nacht der Wissenschaften学問の夜長」のポスターを町のあちこちで見かけた。大学で外部に開かれた催しが開かれるのだろうとしか思っていなかったが、それにしては広報に力が入っているなとも思った。大学が一般公開されるという点は間違っていないが、一般に開放されるのは大学だけではなく、専門学校や博物館、ギムナジウムに至るあらゆる教

          エアランゲンの「学問の夜長」&7月に見た演劇プロジェクト

          観劇と演劇教育『より良い森へ』

          10月13日 Theater Pfütze Die Besseren Wälder 作者:Martin Baltscheit 演出:Jürgen Decke 作曲:Dominik Vogl Theater Pfützeはニュルンベルクを散歩していたときにたまたま見つけた劇場で、Pfützeを辞書で調べると、どうやら「水たまり」という意味らしい。外観は黄色い建物で、水玉模様の意匠が特徴的。その見た目にはじめはチーズをモチーフにしているのかと思った。その立地は気持ちのいい場所で

          観劇と演劇教育『より良い森へ』