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ニューヨークの映画館1年ぶりの再開も、黒字化の目処たたず

肌身離さず共に生きる“道具”には、理想を求めたくなる。だが、簡単ではない。進化は刻々と先を行き、使い勝手は必然、後を追うことになる。理想的な使用環境が整ったときにはもう、理想のタイミングを逸しているものだ。必要なモノが揃うタイミングなど、待つべきではない。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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監督がスタジオから発する生存の記
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『 新機材導入で、問題発生 』

新しいカメラが届いていた。作品用、記録用、フィルム用、Vlog用、スナップ用と、映画監督として常用している5機種のうち、最も出番が多くなる“記録用”のレンジファインダー型写真機だ。更なる高画質化や高性能ばかりではなく一般志向を理解するためにもメーカー問わずに最新機種を導入し続けるわけだが、親愛なる常用仕様5選に採用するかは別問題だ。手や目への馴染みのみならず、映画を創る道具同志として呼応する共鳴を感じられるかどうか。それはともすればオカルトや妄想に近い判断ではあるが、最重要な基準である。いや、待て。そんなことよりもよほど手前の浅い部分で、遥かに重要な問題をみつけてしまった。“アイレット”の形状だ。アイレットとは、カメラをストラップに繋ぐための小さな金具だ。小型写真機の祖師Leicaの真鍮製アイレットから定番となっていた丸形が、大型一眼レフなどの定番“平型アイレット”に変更されていたのを発見したのだ。

アイレット用ストラップ加工①

せっかくの記録用小型カメラに馬具のようなゴツい対重量用ストラップをつけるなど、考えたくもない。しかし、細いモデルは保有していた記憶がない。ちなみに、新品の商品パッケージに同封されている理想的な専用ストラップは、使えないのだ。そこには必ずデカでかと、なんなら数カ所にもわたって社名や機種名が記されている。メジャー各社の開発者たちと会う機会の多い監督としては、都度それらのロゴを他社担当者から隠す気遣いをしたくないのだ。広告業界で活動していた時代には広告主への配慮として、スタジオに他社銘柄の車を持ち込まないためにタクシーを使ったり、全メーカーの携帯電話を保有したり、同社食品のみを常飲常食して己の趣味趣向すら軽々と変えてきたのだが。ならば、買うかストラップを。探せば見つかるはずだ、平型アイレット用の小型レンジファインダーに相応しい逸品が。だが、そうはいかない。一日も早く使い倒し、保証期限内にもかかわらずメーカーにメンテナンス要請を断られるくらいに徹底的な検証作業を経て、最良の結果を映画製作に反映させたいのだ。通販や輸送の都合に、残り僅かな現役時間を消費されてなるものか。ならば、無いのだから創ればいい。


『 プロフェッショナル仕様ストラップを、加工する 』

アイレット用ストラップ加工②

型違いのストラップをブッた切り、焼いて溶かして穴をあけ接着して縫い金具で締めれば、もう完成。

アイレット用ストラップ加工③

オンラインショップで理想の商品を選び出すより早く、検証作業を開始できるようになったわけだ。真鍮製の金具にハリウッド版脚本(SCRIPT)の製版用片平ネジを採用したのは、映画とのリンクを想うのにいい発案であった。

あぁ、ところで。

まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:ニューヨークの映画館、黒字化を望む前に安全への信頼を得る努力をすべき時

絶望の中にあった1年間を経て、限定再開が許可されたニューヨークの映画館。病院レベルの安全対策と大きな投資の成果だと歓迎されたが、観客制限は収容可能人数比でわずかに25%。大劇場においては上限50人、という非常に厳しい制約となった。黒字化には程遠いながら、劇場主には前向きなコメントも。「25%の観客が少なく見えますか? 観客ゼロと比べればかなり、見栄えがいいですよ。」短期的な黒字化を望むよりも今は安全プロトコルを徹底して、劇場への信頼を再構築する努力が重要だ。 - MARCH 04, 2021 VARIETY -

『 編集後記:』

日本でも、映画館からポップコーンの香りが消えて久しい。だが実のところ、映画の製作本数は減っていない。カナダとの製作環境連携を深めているハリウッドなどは既に、ここ数年対比にして最大本数の企画を走らせている。“映画館”というボトルネックを回避して配信を選ぶ環境が、ロックダウンをも回避させたわけだ。現世においてそれが理想の歴史かどうかの判断はつかないが、映画の存命に寄与していることは確実だ。今から126年前の今月、パリで開催された科学振興会の場で、映画は誕生した。長いようでもあり、たったのソレだけかとも想うが、この世界の苦境はもしかしたら進化への過程なのだと想ってみてはどうだろうか。なにしろ理想に程遠い現状なのだから、タイミングを待ちながら手遅れになるより、その好機を創り出すことにこそ突き進みたい。この歳になると判るのだ。どうせその方が早い、と。

空論にしないためにも、映画の元に帰るとしよう。

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