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価値の創造:マーチャンダイジング

リテラシーの注目から除外された感のある、懐かしいマーケティング課題だ。しかし今、巨大ストリーマーからインフルエンサーまで誰も彼もが、新たなチャンスを迎えている。気付いた者だけのチャネルを、解いてみる。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 マーチャンダイジングとは 』

マーケティングに精通している一流アーティストの皆さんには、基礎情報は要らないだろう。そこで話題の前提として概要だけ、擦っておくとする。丁寧なお勉強は、“アメリカマーケティング協会”が提唱する「5つの定義」などをググって頂きたい。ただし、さして参考にはならない。

ここ“アーティスト業界情報局”では、「再現性のある実践」と「具体情報のみ」を共有している。再現性がない自己啓発には、無関心だ。

さて、
マーチャンダイジングとは、戦略的な販促計画と、そのための開発。つまり、“売れる”から逆算する、方法と商品の発見だ。「良いものを創れば売れる」という盲信の、逆ベクトルだと言える。アーティストに置き換えれば、「良い作品を創れば観客に受ける」を信じず、「受ける作品製作」さらに「全想起を促すための広報」を戦略的に実行する、となる。

クリエイターの多くは胸躍り、
わたしたちアーティストが辟易するトピックだ。

そこで、日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際ニュース:NETFLIX、映画作品オリジナルグッズのオンラインショップ開設/第一弾は代表作アニメーション「YASUKE:弥助」より

Netflixは、木曜日に初のブランド商品ショップを立ち上げ、eコマースに参入する。ストリートウェア、ホームデコレーション、ジュエリーなどのオリジナル商品を扱うこのショップは、同社の人気作品を利用した新たな収益源として、広告を掲載しない Netflix のサービスに寄与することになる。

開始時点では、著名デザイナーのNathalie Nguyen、Kristopher Kites、Jordan Bentleyがデザインした、アニメシリーズ「YASUKE:弥助」にインスパイアされたコレクションアイテムを購入することができる。価格は、30ドルから135ドル。

このストアは、現時点では米国内でしか利用できないが、Netflixの消費者製品担当VPであるジョシュ サイモン氏は、このショップの発表にあたり、「今後数カ月のうちに他の国にも展開する」と述べている。

「Netflix.shopは、厳選された商品と豊かなストーリーを組み合わせた、Netflixならではのショッピング体験を提供するエキサイティングな新スポットです。私たちは、アパレルや玩具、VR.イベントやゲームなど、ファンのために物語の世界を広げる方法を常に検討しています。厳選された高品質のアパレル製品やライフスタイル商品を、番組やブランドに関連づけて定期的に限定販売します。NETFLIXと映画ファンの皆さんに、“お気に入りのストーリーとつながる新しい方法”を提供します。映画のストーリーと、次世代のアーティストやデザイナーとの合作を紹介できることに、興奮しています」

以降、ストリートウェアやアクションフィギュア、ルーヴル美術館とのコラボレーションによる限定アパレルやデコレーションアイテムなどが登場するという。「この先もまだまだあります。人気作品の限定商品や、日本のファッションハウス“ビームス”によるNetflixロゴ入りウェアも登場しますので、お楽しみに。」 - JUN 10, 2021 THE Hollywood REPORTER -

『 ニュースのよみかた: 』

NETFLIXがオリジナル作品独占型のマーチャンダイジングに進出、米国から始動。新たな収入源が登場した、という記事。

「映画界を塗り替えたストリーマーキングが、いまさら“オリジナル物販”?」という空気もわかる。なお、ストリーマーのマーチャンといえば、圧倒的な王者はご存じ、“Disney+”だ。路面店、パーク内、オンライン全チャネルでの販売そして、全世界とのコラボレーションを経て、全世界を網羅している。

Disney帝国の実績それはまた、
“旧来型マーチャンダイジング”の弱みでもある。

検証する。

『 キャラクター マーチャンダイジング 』

ともすれば、芸術性の反意語にすら感じられるマーケティング用語の「マーチャンダイジング」だが、アーティスト本人も大好きなマーチャンが、存在する。「キャラクター マーチャンダイジング(CMD.)」だ。

CMDは、アーティストが生み出したキャラクターの“世界観”や“特徴”を商品として最適化し、既存の販路を介して提供していくアクションのこと。その一連は“本編作品のプロモーション”のていで展開されることが多いことから、創作者本人も、気分が良い。実のところが独立した“商売”であることは変わらない。

だがここまでは、“旧来型マーチャンダイジング”のはなし。
NETFLIXのアクションは、Disney帝国の全世界制覇マーチャンの、遥か先、新たなベクトルを成している。

『 売りかたの進化形 “売れかた” 』

映画や原作、芸術やイベントなどの「本編作品」の集客力に便乗して、「商品化製品」を販促するのが、旧来の王道であった。つまりこれまでのマーチャンダイジングとは、「売り方」というシナジーの解像度を上げ、洗練する作業であったわけだ。

しかしNETFLIXが目しているのは売り方ではなく、「売れ方」だ。

店舗型およびコングロマリットによる企業の巨大化はDisney帝国の強みであったが、世界一時停止とともに“企業先導型社会”が瓦解した現在それは、時速60㎏でいろは坂を下る巨大トラックのごとし。時代に即するなら車ですらなく、1000台の電動キックボードが最適だ。

NETFLIXは、オリジナル作品に便乗して“グッズ”を売るのではなく、
オリジナル作品と「別業界アーティスト」とのコラボレーションを実現し、「新たなマーケット」に進出しながら“ラインナップの抱え込みと価値化”つまり「ブランド化」を成しさらに、

オリジナル作品への「プロダクト プレイスメンツ」を取り込もうという目的を隠していないのだ。

『 プロダクト プレイスメンツ 』

「プロダクト プレイスメンツ」とは広告手法の一つで、
映画や番組、コンテンツや作品の中に、企業やサービスや商品や商標や人物や名所などを登場させることで“宣伝”の目的を達成し、その対価として“協賛費”という収益を得るビジネスだ。

珍しくはない。
HOLLYWOOD超大作なら1作品におよそ“80-110タイトル”のプロダクト プレイスメンツ、つまり協賛を投入している。

余談だが、
HOLLYWOOD超大作に“赤字”は存在しない。極端なはなしパンデミック禍のように“観客ゼロ”でも、黒字化されている。プロダクト プレイスメンツ収益で、だ。映画の劇場公開前にプロダクト プレイスメンツで黒字化できていない映画はそもそもに劇場“優位型”の公開契約を締結できず、公開館を確保できないのだ。また、撮影前にプロダクト プレイスメンツによる黒字化を見込めない場合は、俳優や著名監督たちへのロイヤリティー(成功時追加報酬)を確約できないことから、観客とニュースを呼べるビッグネームを起用することができない。

NETFLIXオリジナル作品も、同様なのだ。
NETFLIXが映画館公開による興行収益が実質的にゼロでありながらハリウッド最大の収益を上げ、6大スタジオの核に座したのは“サブスクリプション契約者数”だと想われているが実のところは、広義でのプロダクト プレイスメンツによる下支えあってこそだ。

『 NETFLIX型マーチャンダイジング 』

また同社は高収益マーケットの各国現地にローカル拠点を構築し、現地生産作品で現地視聴者を確保しつつ驚くべくは、“各国現地スタッフの抱え込み”を開始している。スタジオの確保やスタッフの雇用のみならず、育成にも着手して、各国現地との連携を深めている。各国現地との連携つまり、人、企業、業界、産業、国との連携とはすなわち、“協賛連携”。

NETFLIX型マーチャンダイジングとは、
作品に便乗して商品を売る“売り上げ向上手法”ではなく、
主要各国各社各人からプロダクト プレイスメンツを確保しながら現地スタッフを使って現地用作品を創るハイパフォーマンス型戦略。

善いか悪いか、の話ではない。

NETFLIXが参入したこの方式こそ、
現代のアーティストが個人レベルで参入可能な、“売れる方式”である。
効果とスピードを向上させるためには、“電動キックボード”を増やせば良いつまり、自分独りでマーケティングを頑張るのではなく、“コミュニティ”を形成し、シナジーを共有しながらプロダクト プレイスメンツを採用することだ。

ここまで手の内を明かす理由を、察するように。同志を待つ。

『 編集後記:』

同業他社と手放しで交流できるほど余裕のないわたしは、異業他社との付き合いが広い。ともに走っている仲間たちも気がつけば、異業種のエリートばかりだ。これが、実に快適である。互いに手放しで、全力応援ができる。なにしろ業界が違い求めるゴールが異なることから互いに、1mmも妬みがない。心の底から本心で支援し、支え合えるこのコミュニティの輝きはどこまでも澄んで、美しい。この中の誰かが“映画監督”を目指そうとしないことを祈るわたしはやはり、余裕がない。

美しい時間を求めながら着替える時間すら得られない、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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