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【大人の読書感想文】紛争地のポートレートを読んで〜紛争地の看護師が出会った人々〜

みなさんこんにちは
人道支援家のTaichiroSatoです

国境なき医師団の大先輩である白川優子さんの2冊目の本を読み終えてから、いつものように【大人の読書感想文】に取り掛かろうと思っていたのだけれど、今回はいつもより長くなりそうだ。理由は、僕の内側から湧き出てくる言葉が多すぎること。それをみなさんにわかるように整理するのに、いつもより時間がかかった。それだけに僕の中での歴史があり、強い想いがある。

仕事や仕事外でも親交のある優子さんと、彼女の通ってきた道筋への想い、本書を通じて日頃の彼女への感謝も込めて文字におこす。

本書の感想に入る前に、僕と国境なき医師団(MSFと略す)、そして、著者である白川優子さん(この投稿では「彼女」と表現することとする)との歴史を少し紹介しておく。

MSFで僕がスタートを切るまで
僕がMSFに入るために積極的にアクションを起こし始めたのは、2017年2月。オーストラリアで適当な英語を身につけ、ネパールやタイ医療ボランディアをした後、ここからMSFのキャリアをスタートさせるのだ、と意気込んで帰国する。この帰国から、初めてのMSFイラク派遣までに、3年半。人道支援家になる為、日本を飛び出してから、実に6年以上の歳月をかけることになるわけなのだが、彼女(優子さん)が僕のMSFのスタートに大きく関わっている。

-2017年僕が帰国した後、MSFの看護師募集が無期限で停止になり、MSFで活動するための活路を見出そうとあれやこれやとチャレンジを続けるが、一向にMSFに入る道筋は見えなかった。
 約2年後、待ちに待った看護師募集が再開になったが、「英仏二か国語での就業が可能な看護師」という語学の壁が僕の前に立ちふさがる。本書でも少し触れているが、この時期彼女はMSFリクルーターとして活動をしていて、僕はここで初めて彼女とメールでやり取りをすることとなる。
 看護師募集の一次書類選考を通過し、採用面接までなんとかこぎ着けた僕だったが、採用面接本番で始めたてのフランス語で会話ができるほどのレベルではなく、その時点ではMSF採用にはならなかった。

-2019年。世界で活躍できるために必要なスキルを身につける、そんな想いのもとシップナースへとキャリアを進めた僕。船はシアトルに着岸し携帯に電波が入り、いつものようにメールをチェックする。(船での航海中は電波が悪いため、着岸した際に陸の電波塔を使って一週間分の、メールのやりとりをするのが習わしとなっていた)
MSFリクルーターとしての彼女からメールが一通入っていることに気がづく。

お元気ですか?その後フランス語はどうですか?

まさかMSFリクルーターからメールが来ると思っていなかった僕は驚いたし、素直に嬉しかった。そのことを今でも鮮明に覚えている。こんなことがあるのか、と。
 彼女からのメールは、当時船の仕事に必死で、今後のMSFの活動へのイメージが薄れかけていた僕に強烈なインパクトをくれた。船のメンバーたちからは、なぜ仏語を勉強しているのかとからかわれたこともあったが、メールおかげで仏語の勉強も継続できたし、なにより、大海原のど真ん中で(地理的にもキャリア的にも)自分の進んでいる方向がこれでいいのか、と不安に思える自身にとって、MSFで活動するのだ、という僕の中の 北極星 を確認することができた。
あとから聞いた話だと彼女は、MSFへの熱意を持ち何度もトライしている人へ宛てたフォローのメールをそっと入れるそうだ。こういった彼女の繊細なサポートには本当に頭が下がる。
※余談だが、小泉元首相が「小泉チルドレン」とかつて呼んだように、MSFにも「優子チルドレン」たる彼女のリクルートしたメンバーが存在し、彼らは皆、海外でバリバリ活動している今現在でも、経験豊富できめ細やかな彼女のサポートによって支えられている。

-2020年。
地道に継続していた仏語と
ダイアモンドプリンセス号の経験
当時世界中で広がりを見せたコロナパンデミックで集中治療看護師への世界的な需要が高まるという情勢の変化も相まって、僕に再びMSFへのチャンスが訪れる。
オンラインで受けた仏語テスト結果と優子さんを含めたリクルーターとの採用面接を経て、僕はついに、MSFの一員としてスタートを切ることになったのだった。
 ついにMSFに入れた。という感情が僕の中で溢れ出てくるのかと思っていたが、自分でもびっくりするくらい普通だった。やっとスタートラインに立った。さて、行くか。本当にそんな感覚で、ダイヤモンド号での大役が終わり、僕自身が何でも来いの状態になっていたのか、まだ疲れていたのか、いろんな要因があったのかもしれない。
このことを後に友人に伝えると、自分が築きあげてきたキャリアに対する自信や海外で活動する準備ができたことで、 大きな夢を掴む喜び ではなく、確実に手繰り寄せた現実として近未来をイメージできる状態であったのかもしれないね、と言われ、スッと腑に落ちたのを覚えている。


前置きが長くなりすぎたが、感想文に入ろう


紛争地のポートレート
活動の地で彼女がであったたくさんの人たち。どこかの国の知らない人ではなく、彼女の中に今も生きている人々がポートレートとして色鮮やかに本書では描かれている。

紛争で傷ついた市民や兵士。
そこで活動する医療者。
活動する上で紛争の不条理に触れるも、葛藤の先に医療者として現場に立つことを選んだ彼女の意志と、それを支えたチームメンバーの言葉がどれも印象的である。

いくつも紹介される活動地でのリアル。
・ロジスティシャン達の仕事の重要性と彼らのプライド
・食事や掃除を担当してくれる現地スタッフの優しさ
・現地で繰り広げられる猫会議
・海外へ持参する神アイテム 〈かゆみ止め〉
→僕の場合は、〈ウナコーワクール〉一筋である。

そのどれもに彼女から彼らへの感謝の気持が溢れている。
そして、これらのストーリーの多くと、僕が海外で経験したストーリーとが重なり、この本を読み終えたとき、どこかで「懐かしい」と思える読み手の僕がいた。どんな状況の中でもそこに生きる人たちのポートレート。僕は彼女によって描かれた肖像画とストーリーを巡り、彼女が見た世界の中を歩いた気がした。

【紛争地のポートレート】を通して
彼女が伝えたいこととはなにか。

僕自身もこのnoteという媒体を通して幾度となく描きおこしてきた世界で出会った人々。
そして、僕が伝えたいこと。

そう、やはり人なんだと思う。

世界のどこへいこうと
どんな立場であろうと
僕たちは人と出会う

人を通して、そして、自分自身を通して

世界を見る

それがたとえ
目をつぶりたくなるような状況であっても
どうにもならない混沌であっても。


それぞれ出会う人の中に
すっごく人間くさくて
温ったかくて優しい
そんな 平和 を見つける

人と人とが出会い、誰かのために行動する
そうやって僕たちは、どこかへと向かって歩んでいく

彼女が見つけ信じる平和
人道支援の世界に生きる彼女なりの
世界と人との向き合い方
そんな彼女の在り方を
僕は想像してみるのだった


回想と未来
今思えば、優子さんと僕は、ほとんどの仕事の話をすることがない。僕はまだMSFの一歩踏み出したばかりだが、大先輩の彼女にきっと僕が聞くべきことがたくさんあるはずである。

ふと、前に彼女とこんな話をしたのを思い出す。
僕がダイヤモンドプリンセス号を下船し、しばらくしたあとの話だったと思う。

私だったら-、ダイヤモンド(号)に乗れたかどうか-。
おそらく答えは-No。

百戦錬磨の彼女の回答として意外だ と思われる方もいるかもしれないが、僕は納得していたのを覚えている。
「自分の専門性が発揮できる状況」であれば、世界中のどこでも行く。たとえそれが、紛争地であっても。
彼女の専門性とダイヤモンド号で必要とされる人がマッチしていない、そうゆうことだろう。
そして、僕も全く同じ想いだった。僕の場合、手術室の経験が必要になるプロジェクトでは、マッチしないだろう。でも、救急や集中治療領域で(もちろんそれ以外でも)必要とされるのであれば、どこへでも行く。
 おそらくこれが、僕たちが直接仕事の話をした内容だったと記憶している。

彼女はこれからどこへ向かうのだろうか。
その問いへの答えが少し書かれていた。
本書中で彼女の友人が彼女へ送る言葉がある。
「夢を叶えた人間は、これから夢を叶えようとする人たちのサポートに回る、それが人生のサイクルというものだ」
昨今でも時々現地に行くことはあるようだが、MSFのリクルーターとして活動をしている彼女。
MSFに入ることは決して簡単じゃないかもしれない。
それでも努力し、「優子チルドレン」の仲間入りをした後輩たちを現地へ送り出す。そして、彼らが活動の地から帰ってきたとき おかえり と声をかけ、彼らの充実した顔を見るのが嬉しいと語っていた彼女は生き生きとしていた。
 考えて考えて、彼女の今の形がある。これからも「優子チルドレン」は彼女からのサポートを受けて現地で活躍を続けていくのだろう。

僕の未来とコミュニケーション
本書を読み進めながら、僕の訪れた地と人々に思いを馳せる。

僕のMSFの活動地。イラク、パレスチナ、イエメン。
僕は、優子さんの歩いた道のりを時空を超えてたどる。
そして、僕は僕の足跡をその地に残していく。

僕が彼女の足跡を見つけるように、
いつか誰かが僕の足跡を見つけるのだろうか。

迷った時、壁にぶつかった時
彼女が僕にくれた一通のメールのように、
誰かにとっての 北極星 のような
そんなふうに自分もなるのだろうか

諸行無常。
永遠に続くものなんてない、時代も人も巡る。
僕自身も時の流れの中の小さな小さな一つでしかない
でも、
何億光年も前の北極星の光は
今の僕たちに 確実に 届いている。
一医療者として、世界を変える
そんなことはできないけれど
想いを繋ぐことで
その希望の光はきっと届くと信じる

僕が現地で活動している今だからこそ
僕から見える世界を
僕の想いを
 繋ぐ そのための努力をしよう
それが今の僕の形。


今回の感想文は少し長くなった。
そして気がつけば、これは読書感想文ではなく彼女へ当てた手紙のようにもなっていたが、ある程度の書きたいことはかけたので良しとしよう。

今度彼女にあったら真面目な話をしてみようかな、と思いつつ、もしかしたら、僕たちはこうやって文字にすることによってお互いの世界を語り合うのかもしれないな、そんなことを考えながら、今日は眠りにつくことにする。

いつの日か
僕の足跡が誰かにとって道標となることを願って。

Tai

※投稿内容は全て個人の見解です。


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