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可能な限りフラットな視点から、気になったニュースについて調べた内容を発信しています。経済政策に関連した内容が多くなる予定です。

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  • もう少し身近なおはなし

最近の記事

日本の内部留保:企業利益と賃金分配のバランスを考える

近年、「内部留保」という言葉が度々話題になっています。2022年の7月-9月に発表された法人統計によると、内部留保は530兆円に達しており、増加傾向にあることが示されています。一部では、「内部留保を溜め込んでいるから、日本企業は賃金に分配すべきだ」という主張が聞かれますが、この記事では内部留保とは何かを定義し、国際比較を踏まえて企業の賃金分配について考察します。 内部留保とは、利益余剰金のことを指し、当期純利益から株主への配当を差し引いた後の金額を意味します。つまり、内部留

    • 日本の労働生産性が低い本当の理由を考える

      「日本は労働生産性が諸外国に比べて低い。これは日本人の仕事の効率が悪いからだ。」あるいは、「諸外国に比べてデジタル化が遅れているからだ」といったことを耳にしたことはないでしょうか。しかし、これは本当に主たる要因なのでしょうか。今回は労働生産性が低い理由を考察していきます。 まず、国際比較で用いられる労働生産性は GDP/労働人口 で求められます。 つまり、労働生産性が向上しないのは、ほぼGDPが伸びていないからだということに等しいのです。 また、財務省による定義にあてはめ

      • 今、水素が世界で注目されている理由とは

        アメリカのバイデン大統領は、米国内の7か所の水素生産拠点に対し、合計70億ドル(約1兆円)の投資をすると発表しました。民間投資を引き込むことによって、総投資額は最終的に500億ドルに達する見込みです。 さて今回は、なぜ水素エネルギーが注目されているのか、その背景について説明します。水素が注目される理由は、2050年までにカーボンニュートラルを実現する必要があり、その鍵を握るエネルギー源だからです。 カーボンニュートラルを実現する手段として、まず再生可能エネルギーが思い浮か

        • ドイツの所得税と社会保険料を見てみる🇩🇪

          今日はドイツの税制制度について紹介してみようと思う。今回取り扱う指標は、OECDが発表している、賃金あたりの税負担率というもので、給付のうち所得税と社会保険料(年金含む)の負担率の合計ことを指している。 ドイツの賃金あたりの税負担率は2022年のデータに基づくと、48.1%であり、これはOECD平均の34.6%よりも高い。尚日本は32.6%である。 ドイツの負担率の内訳は、所得税と労働者負担の社会保険料で全体の66%を占め、残りの34%は雇用者の社会保険料負担となっている

        日本の内部留保:企業利益と賃金分配のバランスを考える

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        記事

          「新しい資本主義」とは何か

          「新しい資本主義」という言葉が聞かれることが多くなった。しかし、この言葉だけでは一体どこが新しいのかということがはっきりしないと思う。今回の記事では、「新しい資本主義」とはどういった概念なのかを整理していきたい。 「新しい」があるならば、「古い」が存在するのではないかと考えられる。21世紀初頭、日本においては小泉政権の時代。新自由主義の潮流があった。新自由主義とは、政府による市場介入を最小限に留めて、規制緩和や減税によって自由な競争と成長を促していこうという考え方である。日

          「新しい資本主義」とは何か

          なぜ「貯蓄から投資へ」が必要か

          「貯蓄から投資への」スローガンはよく耳にするようになった。新NISA制度が2024年からはじまり、より一層の資産形成への後押しを政府も積極的に推進している(新NISA制度については以下の日経新聞の記事参照)。今回は、なぜ貯蓄ではなく投資をする必要があるのか、その背景について考察していきたい。 投資の定義は「利益を得るために資金を投入すること」とされている。がここで意味する投資は、株式や債権の購入のことを指す。 投資のことを考える際は、収益率のことを考える必要がある。この収

          なぜ「貯蓄から投資へ」が必要か

          国際競争力 64ヶ国中35位の日本

          IMD(国際経営開発研究所)によって、毎年世界競争力年鑑が発表されている。この指標は、国の競争力に関する各種統計データと、経営者へのヒアリングから主要64カ国の競争力を示したものである。 項目は経済パフォーマンス、政府の効率性、ビジネスの効率性、インフラの4つの大項目と、それぞれ4つの小項目で合わせて16の項目で構成されている。 さて、日本の2023年の順位であるが、64カ国中35位でありアジア太平洋諸国の中でも11位であった。この順位は台湾の6位やアメリカの9位、韓国(

          国際競争力 64ヶ国中35位の日本

          円高トレンドへの移行がはじまりそうな予感

          1ドル150円台を一時付け、出口が見えなかった円安であるが、徐々に終わりの兆しが見え始めた。 為替レートに影響を及ぼす指標である、雇用統計ならびに失業率が、11月3日にアメリカの10月の米労働省により発表された。 米国の雇用統計によれば、非農業雇用者数は予想の19万人から大きく下回り、15万人となった。 失業率は予想の3.8%から0.1ポイント上回り、3.9%となった。 これらの数字より、アメリカの経済が市場の予想よりも速いスピードで減速していることが示唆される。この結

          円高トレンドへの移行がはじまりそうな予感

          GDP がドイツに抜かれる理由を考えてみる①

          名目GDPではアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の経済大国である日本であるが、その順位がまたひとつ後退するのではないかという予想が出た。 IMF国際通貨基金によると、日本におけるドル建て2023年の名目GDPはドイツに追い越され、世界4位に後退することが予想された。 今回はそのなぜこのタイミングでドイツと順位が入れ替わる事になったのか、その理由を考察していきたい。 はじめに名目GDPがドル建てであることに留意したい。ユーロ圏はアメリカのインフレに同調する形で、利上げに踏み切

          GDP がドイツに抜かれる理由を考えてみる①

          イールドカーブ・コントロールの副作用を考察する

          イールドカーブ・コントロール(YCC)は、日本銀行が市場で国債を買い入れることによって、10年物国債の金利を目標とする水準に維持する政策です。この記事では、YCCが及ぼしうる副作用について考察します。 まずひとつ目は、日銀のバランスシートの増大化です。YCCの間、日銀は大量の日本国債を購入しました。日銀によると、保有する長期国債の総額は、2012年の91兆円から2023年4月には約581兆円に増加しました。これは、債券価格が下落した場合に日銀が債務超過になるリスクを高めます

          イールドカーブ・コントロールの副作用を考察する

          イールドカーブ・コントロールのねらいとは

          日銀は10月31日に開催した金融政策決定会議で、10年国債の金利上限を1%から1%を目処に変更したことが話題になっているが、今回はイールド・カーブコントロールの狙いについて説明したい。 イールドカーブ・コントロールとは、中央銀行(日本の場合日銀)が、国債を買入れることで、その金利をある水準で一定に保つ政策のことである。 日銀によればイールドカーブ・コントロールの狙いは、①GDPギャップのプラス圏を維持して、日本における物価上昇2%の目標を達成すること、②長期的な金融緩和に

          イールドカーブ・コントロールのねらいとは

          公的債務残高(国の借金)の増加はどのようなリスクをもたらすか。

          財政健全化というキーワードは、日本の政策立案ににおいて今までひとつの重要な要素として考えられており、幾度の消費増税などをおこなってきた。 国別の公的債務残高の一覧を出してみると、2023年11月現在、1位はアメリカの約33兆ドル。2位は中国の約14兆ドル。そして3位に日本の約13兆ドルと続く。アメリカの3分の1程度である事を考えれば、とりわけ多すぎる値でないように思えるが、GDP比で考えると状況は異なる。 GDP比で公的債務残高を国際比較すると、日本は260%。対してアメ

          公的債務残高(国の借金)の増加はどのようなリスクをもたらすか。