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『浜町造園計画』とその街について

 ぼくら帯化は『浜町造園計画』という新しい音源集をリリースしました。二曲入りのフルアコースティック音源で、ぼくらのフリー・フォーク/民謡的感性が凝縮された音源になっています。

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 でも今回の音源を語るうえで、その制作過程の話に触れないわけにはいきません。というのも、この『浜町造園計画』は武蔵野美術大学主催の「日本橋浜町ライフスタイルプロジェクト」の一環として、武蔵野美術大学の学生からの依頼で制作された音源集だからです。でもそんなことを言っても全然意味が分からないと思います。そもそも「浜町ライフスタイルプロジェクト」って何ぞや?と皆さんお思いでしょう。
 「浜町ライフスタイルプロジェクト」とは簡単にいうと、「浜町という街が持つ課題に武蔵野美術大学の学生たちが社会デザインの視点で応える実践の場」というものです。「浜町ライフスタイルプロジェクト」のなかにさらにまた別のチームとプロジェクトがいくつかあって、そのうちの一つのチーム、「浜町造園計画」がぼくらに楽曲制作の依頼をしてくれた、という顛末です。

 その依頼に際して、ぼくらには「浜町という街のアーカイブ」というテーマが与えられることになりました。堅実で現実的な社会実践をこなしていくチームが多い中で、「浜町造園計画」の学生たちはもっと時間的に厚みのある実践をしたいということで、こうしたテーマにたどり着いたとのことでした。なぜぼくらに白羽の矢が立ったのか、という部分まで書くときりがないので触れませんが、彼らにも色々考えがあったようです。
 作詞作曲、デザイン、演奏、ミックスなどは、基本的に自分たちで行いましたが、武蔵美の学生の皆さんには日本橋浜町の街の歴史についてレクチャーしてもらったり、あるいは浜町の住民へのインタビュー資料を提供してもらったり、浜町で録音された膨大な量のフィールドレコーディング音源を提供してもらったり、果ては無茶振りで録音の時に英語や中国語でナレーションをしてもらったり(『浜町の固有性のために』で聴けます)、色々協力してもらいました。

武蔵美の学生がレクチャーの際見せてくれた図。
ジャケットデザインの元になった。

 そんなわけで、『浜町造園計画』の制作は、「外」からやってきた「計画」や「街」のなかに自分たちの居場所を探すような、そんな温度感で進んでいきました。ぼくらの作家性がうまいこと「ひっかかる」フックを探すように、浜町について調べたり、街を歩き回ったりしました。その過程は引っ越し先で少しずつ部屋を組み立てていく過程にも似ていましたし、あるいは長期滞在する旅行先で落ち着ける場所を見つけていく過程にも似ていました。
 そうした過程を経て、ぼくらは「川」というモチーフに自然と吸い寄せられていきました。浜町について調べていくなかで、隅田川と神田川を繋げるようにして流れていた人工河川、浜町川の存在に行きあたったのです。

浜町川

 ぼくらはかつて多摩川をテーマにした『河原結社』という作品を作っていますし、たまに河原で練習をしているので、川があればもうこっちのものだ、と思いきや、そうすんなりはいきませんでした。
 というのも、浜町川はすでに埋め立てられており、今は暗渠になり、コンクリートの下を流れているのです。暗渠の上には緑道が作られ、記念碑が立っている。だから『河原結社』と同じように、浜町川でレコーディングするということもできませんし、同じようなテーマの組み立て方もできない。ぼくらは「川」という、ぼくらの作家性と浜町との共通項を通して、むしろその差異を、誤差を、発見することになったわけです。しかしその差異と誤差にこそ、その川の、あるいは街の「固有性」が宿っているのだから、ぼくらはそこに向けて下降していかないといけない。

浜町川跡地の緑道。
小伝馬町あたりまで続いている。

 ぼくらは、引越し先で行きなれないスーパーに仕方なく通うようにして工夫を重ね、「意外と西友も悪くないんじゃん」というくらいの温度で、浜町川や浜町と徐々に仲良くなっていきました。
 あるいは調べるきっかけさえあれば、どんな街でも興味深い歴史を見つけられるのかもしれませんし、好きになるものなのかもしれません。それはそうでしょう。それでもぼくらが実際に調べるきっかけを持ったのは、ほかでもない「この浜町」でした。偶然に過ぎないにしてもそうだったのです。

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 さて、先程も書いたとおり、この『浜町造園計画』には、「浜町という街のアーカイブ」というテーマが与えられていたわけですが、同時に、ぼくらとしては「街が残っていくこととはどういうことか」という、ある種普遍的なテーマも持たせたいと思っていました。その「普遍的な」テーマは、普遍的であるのですから浜町以外の街にもあてはめることができるものでしょう。
 でもこの音源集のそこかしこには、浜町にまつわる固有名や、それを想起させる浜町(川)の景色や場所や歴史を即物的に描写した歌詞がちりばめられています。それらの「個別的」な要素は、ぼくらが込めようとした普遍的なテーマをわかりにくいものにしてしまうともいえます。
 「あの街」も「この街」も同じ論理で切り分けていこうとする普遍性(偶然性)と、「この街」は「この街」でしかないという個別性(必然性)、この二つの力学はこの作品のなかで綱引きをするように拮抗しあっている。そのために、今回の作品は、帯化の新しい音源集ですといわれても、多くの人にとってピンとこないのではないか、とも思います。
 でも、この個別性と普遍性の間を調停できないまま、ズルズルと続いていくもの、続けようとするもの、そんなところにこそ、「街が残る」ということにまつわる「手触り」があるのではないか、とも思うのです。そしてその「手触り」に宿るものは、テーマ云々は置いておいて、ぼくら帯化が持つアティテュードと深く関わるものです。今はそのことが理解されなくても、今後のぼくらの作品を通して、遡るようにして『浜町造園計画』の意味や意義をわかってもらえるのではないか、そんなことを思っています。

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 さて、改めて宣伝をしておきます。3月27日発売の『浜町造園計画』のフィジカル版には、8cmCDと本計画の概要、歌詞カードに合わせて、浜町産の葉っぱや鳥の羽や木の実など、あらゆるオブジェクトがランダムに封じ込められた瓶が付属します。

『浜町造園計画』
付属の小瓶の表面にはDLコードが刻まれている。

《購入 / 試聴》
https://taikafasciation.bandcamp.com/album/hamacho-zouenkeikaku


 これらのオブジェクトは全部、浜町が抱える「呪物」みたいなものです。それらは街を俯瞰で見る普遍性から逃れようとする、磁場みたいなものを持っています(多分)。ぜひこれらの「呪物」を通して、浜町の「呪い」にかかり、浜町に足を運んでみてください。個人的には浜町の名物公園、浜町公園はとても良い公園だと思うのでおススメです。
 それでは最後に、浜町の民謡、『新浜町音頭』の歌詞からの引用で終わろうと思います。

「ヨイトコ浜町はヨイヨイヨイ」
(『新浜町音頭』より)

またこんな奇特な音源ですが、フィジカルを置いていただいているレコ屋さんも結構あります。以下にまとめておきますので、覗いてみてください(ちょろっと本音を書くと、ぼくらのショップよりレコ屋で買ってくれた方が嬉しいです)。

・Reconquista
https://www.reconquista.biz/smp/item/zouenkeikaku33.html

・3LA
http://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=2943

・pianola records
https://pianola-records.com/products/%e5%b8%af%e5%8c%96-%e6%b5%9c%e7%94%ba%e9%80%a0%e5%9c%92%e8%a8%88%e7%94%bb8cmcd

・Funtricks Records(大阪)
https://funtricksrecords.stores.jp/items/66068de356efca0034ad7162

・ヨムキクノム
https://yomukikunomu.stores.jp/items/65f42bddc994301d09100d51

・FILE-UNDER(名古屋)
https://www.fileunderrecords.com/?pid=180208394

・JAZZY SPORT(京都)
https://jazzysportkyoto.com/products/cd-%e5%b8%af%e5%8c%96-%e6%b5%9c%e7%94%ba%e9%80%a0%e5%9c%92%e8%a8%88%e7%94%bb8cmcd

・レコードコンビニ(浜町)

・Infree Records(香港)

・Diskunion
https://diskunion.net/jp/ct/detail/1008809886

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