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幾何学模様の何が偉大だったのか?対談

 皆さんは幾何学模様というロックバンドをご存知でしょうか。幾何学模様は2012年から活動するサイケデリックロックバンドであり、海外で知名度を得た後に日本にもその名前が知られるようになった、いわゆる「逆輸入もの」のバンドです。彼らは海外では1500人キャパのライブハウスを完売させ、レコードを一万枚以上売り上げ、さらにアジア圏のバンドのみをリリースするGuruguru Brainというレーベルを主催していたりと、その活動の規模はワールドワイドなものでしたが、そんな彼らも2022年に新しいアルバムをリリースし、最後のツアーを終えた後その活動を終えるということを発表しました。
 それを受けて、二人組ロックバンド帯化の島崎と、幾何学模様のツアーで前座を務めた経験があるDe Loriansの元キーボーディストであり、現在は千葉のカセットテープショップ、ゴヰチカで働くhyozoの二人で「幾何学模様の何が偉大だったのか」対談をしてみました。幾何学模様と親交の深いhyozoと、かつては彼らのことが苦手で2020年あたりに(やっと)彼らの偉大さがわかってきた島崎、それぞれの視点を交えながら、幾何学模様が国内で活動していた時期のエピソードや彼らの音楽的なスタイルについて、幾何学模様/Guruguru Brainの特異性など、色々話してみました。

※対談内で出てくるバンドの音源をまとめたプレイリストを作成しました。読みながら聴いてみてください。

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1.hyozoと幾何学模様


島崎「はいこんにちは。帯化の島崎です。今回はDe Loriansというバンドのキーボーディストをやっていたhyozo君と幾何学模様についていろいろ話していきたいと思います。」

hyozo「どうもhyozoです。」

島崎「hyozo君は元々De Loriansっていうバンドで活動をしていて、幾何学模様の前座をやったことがあるんですよね?」

hyozo「最近、KAT-TUNの田中聖がシャブで捕まったんですけど、彼が捕まって飛ばしちゃったのが名古屋のクラブアップセットっていうところのライブで、そこで幾何学模様がライブをやった時の前座でした。」

島崎「いるのかその前振り(笑)。今日は君島結さんっていうエンジニアが経営しているツバメスタジオっていう場所で録音をしているんですけど、彼は幾何学模様の録音とかPAをやったりしていて、まあ幾何学模様と縁が深い人ということです。ではいろいろ話していきましょうか。」

hyozo「はい。お願いします。」

島崎「東京のインディーシーンに出てきたと思ったらあっという間に世界レベルのバンドになって、コロナ前なんかは、1500人キャパの海外のライブハウスを埋めたりしていた、そんなワールドワイドな幾何学模様ですが、彼らもかつては日本で活動をしていて、hyozo君はその近くにいたんですよね。彼らと出会ったのはいつ頃?」

hyozo「出会ったのは2015年頃だね。その時バンドをやりたいなと思って、東京都内の色々なところに出会いを求めに出かけたりしていて、それで何の用事だったか忘れたけど、池袋に行った時、でっかいチェロのケースを持って、めっちゃ鼻垂らしながらタバコを吸ってるロン毛のヤバイやつがいたんですよ。これはもう絶対面白いし、絶対サイケとか好きでしょと思って話しかけたら、「ぼくは最近南ドイツってバンドを始めて」って言っていて、まあ南ドイツのキョウタロウさんだった。」

島崎「南ドイツは幾何学模様が運営するレーベルGuruguru Brainからリリースもあるクラウトロックバンドですね。」

hyozo「で、南ドイツのライブを渋谷のルビールームというクラブに観に行ったり、個人的に遊んだりしているうちに、高円寺のドムスタジオで友達のバンドとセッションイベントをやるから遊びに来ない?っていう誘いを受けて、それが幾何学模様が主催してるセッションイベントで、そこに南ドイツのメンバーはもちろん、破地獄のリーヤンがいたりして、まあ日本に幾何学模様がいた頃のメンツが集まってたわけ。そこが出会いだね。」

島崎「破地獄っていうのも同じくグルグルからリリースがある、台湾のドローン〜エクスペリメンタル系のデュオで、当時は日本に住んでたんですよね。」

hyozo「うん。」

島崎「じゃあ幾何学模様も南ドイツも知らない状態で出会ったんだ。」

hyozo「そうそう。全然知らなかった。当時は現行ものは聴いてなくて、一番新しくてGodspeed You! Black Emperorとか、90年代、2000年代くらいのものしか知らなかった。」

島崎「じゃあ余計その面子との出会いはびっくりしますよね。というか2015年って幾何学模様はまだ日本にいたのか。」

hyozo「そうそう。「幾何学ハウス」っていう幾何学模様と南ドイツのメンバーでコミューン的に暮らしている面白い物件があって、そこがいつまであったか具体的には憶えてないけど、そこには一回だけ行ったね。そのあと、幾何学模様のドラムのゴウさんとギターのトモさんがアムステルダムに移住して、そのままグルグルブレインのオフィスをそこに構えるっていう流れだね。」

島崎「ああ、じゃあ出会いは幾何学模様が海外に舞台を移す直前だったわけだ。」

hyozo「そう。」

島崎「いまのhyozo君の「面白そうだから話しかけたら南ドイツのキョウタロウさんだった」っていう話は象徴的な気がして、幾何学模様の結成の経緯はインタビューなんかでもゴウさんの口から度々語られているけど、自販機の音を録音していた怪しい奴がいたから声をかけたとか(ガイさん)、喫煙所でデカいタバコを巻いている見た目が強烈な男がいたから声かけたとか(ダウドさん)、そういう異色な経緯が多くて、幾何学模様周辺にはそういうフィーリングというか、ノリがある人たちがいたってことでしょうね。」

hyozo「トモさんは高田馬場のスケーターの集まりみたいなところにいたし、ダウドさんは早稲田大生で、ゴウさんも高田馬場が地元で、千葉出身の俺からすると早稲田に住んだり、通ったりしているちょっとオシャレな若者の集まりみたいな印象があって、純粋に憧れを持って近づいたんだよね。」

島崎「なるほどね。じゃあ今の「オシャレ」っていうのでつなげると、ぼくは幾何学模様に対するある種の苦手意識があったんですよ。ぼくはhyozo君と違って、2000年代後半とか10年代前半に出てくる当時のインディー・サイケみたいなものが好きだったんだよね。今振り返るとTame Impalaが代表なんだと思うけど、Sacred BonesとかDead OceansとかJagjagwarとかそこら辺の当時隆盛を極めたインディーレーベル周辺ですね。」

hyozo「はいはい。」

島崎「そこら辺のインディーサイケって60年代のカウンターカルチャーとかフラワームーブメントのノリみたいなのとは切れているというか、音楽の様式としては連続しているけど、文化的なノリが全然違うと思うんだよね。インディーサイケやってる人たちってあんまりオシャレじゃないし音楽オタクっぽい雰囲気があった。で、そういうノリが好きなぼく的には、幾何学模様と同世代のKlan Aileenの方が好きだったんですよ。」

hyozo「あー。なるほど。」

島崎「クランと幾何学模様って音楽性は似ているけど全然印象が違う。幾何学模様はハイカルチャーっぽいところやオシャレなカルチャーにもリーチしている印象があるけど、クランはそういうのとは全然縁がない。」

hyozo「でも2017年に一緒にライブやってたよね。」

島崎「そうだね。だから当時は「いや幾何学模様はオシャレすぎるし俺とは関係ない」って思ってたよ(笑)。」

2.De Loriansと幾何学模様


島崎「では幾何学模様と出会った時はまだDe Loriansはやってなかったってことか。」

hyozo「De Loriansをやる前にぼくは煙客ってバンドをやってて、当時はそのバンドをやり始めたときで、ギターのソウヤ君とドラムのオサベ君と幾何学模様のイベントに遊びに行って一緒にセッションに参加したりしてたね。」

島崎「そのセッションイベントっていうのは固定の曲もやらないしメンバーも固定ではないってこと?」

hyozo「うん。だから破地獄のリーヤンがベースを弾いて、南ドイツのメンバーがドラム叩いて、幾何学のダウドさんが突然フリースタイルラップ始めるみたいな、楽しげなものだったよ。」

島崎「へー。客は入ってた?」

hyozo「うん。ドムスタでライブやってこんないっぱい人が来るんだっていうくらい入ってたよ。国籍も幅広かったし、カルチャーショックだった。」

島崎「ほう。客の話でいうと、これもインタビュー情報だけど、幾何学が日本でライブやっても日本人が来なくて、観光で日本に来てるサイケ好きの外国人ばっかりが来てたみたいね。」

hyozo「そうだね。それで、その後De Loriansを始めて、2018年にレコーディングをやって2019年にアメリカのBeyond Beyond Beyondからリリースをする。」

島崎「うん。」

hyozo「で、幾何学模様の凱旋ツアーが2019年の夏くらいにあって、東京のゲストがオーガで大阪がんoonで、De Loriansが名古屋の前座をやるという流れですね。」

島崎「で、その時のPAやってるのが、今日録音に使わせてもらっているツバメスタジオの主の君島さんですよね。 」

hyozo「そうだね。」

島崎「2019年っていうとぼくらが帯化を始めたのも2019年ですね。3月に1stシングルを出してる。」

hyozo「帯化ってそんな最近なのか。」

島崎「そうそう。実はぼくもその東京の方のライブには行ってるんだ。klan aileenの竹山さんと一緒に。ぶっちゃけその時は「あんまよくねえな」っていう印象でした。」

hyozo「俺は東京のは観てないけどなんか堅かったらしいね。さっき言ってたようなセッションイベントを抜いたら、幾何学模様のライブって、Feverでのクランとのイベントと、シベールの日曜日っていうバンドにベースのサポートで一時期入ってて、その時のブリュッセル公演で共演した時と、名古屋公演の3回しか観たことないんだけど、名古屋が一番良かったよ。」

島崎「シベールの日曜日もグルグルからリリースがあるバンドですよね。シベールってクランとか幾何学模様よりちょっと年齢上かな?」

hyozo「いや、同じくらいだと思うよ。シベールっていうか、中心人物の坪内さんは始めるのが早かったみたいで、北海道で2000年代序盤にはもう活動してたみたいだね。その後東京に出てきてグルグル界隈とつながって、今は謎の視線XっていうYouTubeチャンネルで裸のラリーズについて熱く語ってる。」


3.幾何学模様のポッドキャスト


島崎「さて、幾何学模様周辺といい感じでつながってたhyozo君と、すれ違い続けたぼくということで、立ち位置はわかったと思います。」

hyozo「うん。」

島崎「ただ、そんな感じで幾何学模様とすれ違い続けていたぼくも、2022年現在は「幾何学模様マジすげえ」って思ってるからこそこういう会合を開いているわけですよ。その理由についてちょっと話そうかな。」

hyozo「そうだよね。どこで意識が変わったの?」

島崎「帯化は2020年以降から本格的に動き出すわけですが、ぼくも規模が小さいながらも自主レーベルからリリースをしていて、お金のこととか運営のこととか考えるようになって、そんな時に君島さんと元ワイヤードの編集長の若林恵さんと幾何学模様のゴウさんのポッドキャストが公開されたんですね。」

hyozo「うん。」

島崎「そこでは幾何学模様をどうやって海外に売り込んだのかとか、ワールドツアーをどうやって運営しているのかっていう話を、お金の具体的な額を出したりしながら結構赤裸々にしてるんですよ。」

hyozo「レコードの売れた枚数の話とかもしてたよね?」

島崎「そうなんだよ。『Masana Temples』の1stプレスは8000枚直販で売っていて、セカンドプレスも10000枚売っているとかって話をしている。それでさらにいうと、Discogsという音楽ソフトを取引するサイトがあるんだけど、『Masana Temples』は、そのDiscogs内で2018/2019年前半の日本産のレコードで一番集められたレコードという記録を持っている。」

hyozo「すごいよね。」

島崎「そう。それとぼくは2017年から2019年くらいまで新宿のレコード専門のお店でバイトをしていたんだけど、そこで働いていると外国人のお客さんってたくさん来るわけよ。始めの頃はフランク・オーシャンはないのか?ってよく聞かれたんだけど、徐々に幾何学模様はないのか?って聞かれるようになって、2019年は正直何回聞かれたかわからないくらい聞かれた。」

hyozo「当時の彼らの勢いがわかる話だ。新宿のレコ屋がいうなら間違いない。」

島崎「まあそういう感じで、ポッドキャストで語られる運営面の話であったり、プレゼンスの大きさの意味というか内実っていうのが、自分でもバンドを始めて多少わかるようになってからは「幾何学模様はすげえ」って心の底から思ってる。日本人の音楽を海外の人たちに届けるのって本当に難しいからね。」

4.『Masana Temples』


島崎「それに経済面の話だけではなくて、改めて『Masana Temples』を聴いたら「すげえいいじゃん」って普通に思ったんだよね。なんで俺わかんなかったんだろうって感じ。後Ryley Walkerとのセッション音源もすごい。と、思ってたら活動休止ですよ。」

hyozo「ゆらゆら帝国みたいな理由だったよね。十分やったみたいな。でも2012年から10年やって、コロナで逆境の2年間を過ごして、まっとうしたよなと思うよ。」

島崎「今回この会合に向けて1枚目から時系列に聴いてみて、やっぱ最新アルバムの『Masana Temples』は至った感があるよね。それに『Masana Temples』って葛藤があるレコードだと思うんだよね。」

hyozo「葛藤はあるよね。」

島崎「『Masana Temples』の1枚前が『Stone Garden』っていうEPで、これは幾何学模様のセッション的な良さと、ドラッギーな音響感が合わさった作品。」

hyozo「『Stone Garden』はロックバンドらしいよね。」

島崎「うん。一曲目は『Backlash』っていう曲で、その前のアルバムのフォーキーなテイストのまさに反動かのようなハードな音像だし。そういう意味で『Stone Garden』まではアンダーグラウンドサイケっぽい感じがあるけど、でも『Masana Temples』って、世界を獲りにいってる。」

hyozo「うん。オーバーグラウンドを目指してる音が鳴ってる。2019年らしいメロウさというか、アジアのシティ・ポップが世界に広まっていった時期だから、そのテイストもある。」

島崎「『Dripping Sun』のカッティングとかそうだよね。もうちょっとエスニックな風味が足されているからモロではないけど。」

hyozo「意識はしてるよね。」

島崎「さらにいうと、それまでの幾何学模様っぽいハードなセッション感のある『Gatherings』っていう曲も、耳に優しいんだよね。」

hyozo「そうそう。曲の展開としてはハードになったりするけど音は優しい。時代の気分に合ってる感じ。尖ってた彼らが好きだった勢からすると「あーあなたたちはもっと広いところにいくのね」って思うアルバムかもね(笑)。」

島崎「うん。メンバー間でちゃんと方向性の合意取れたのかな?ってくらいガラッと変わってる。」

hyozo「幾何学模様の場合、ゴウさんが曲を作って、時流を読んでセルフプロデュースもしてってやり方だから作れたものかも。」

島崎「対して、『Masana Temples』以前の作品はいい意味で粗削りな部分が残ってるコアな感じの音楽だよね。幾何学模様はこういう尖った音楽もちゃんと売り出すことができれば、海外に届けられるって証明したってことだと思う。」

hyozo「うん。」

島崎「でも日本のアンダーグラウンドでは、「俺らって音楽的に尖ってて売れたら良さがなくなっちゃうからこのままでいい」みたいな論法が未だにまかり通ってて、それに共感する部分がなくはないけど、幾何学模様がここまでやった時点でそういう論法っていまいち説得力がない気もする。」

hyozo「日本はタレント産業的な世界と音楽業界が分かちがたいほどくっついているから、日本でバンドをやり続けるのならそういう考えって間違ってないと思うけど、やっぱり幾何学模様はサイケデリックバンドだから、そういうドラッギーなニュアンスを出した瞬間日本のメジャーでは仕事ができない。」

島崎「日本だと途中で脱色しないといけない。」

hyozo「だから尖って音楽を突きつめたらそういう音楽になるよねって音楽性を保ったままバンドをやるためには、海外でツアーをバンバンやりまくる他ないってことを彼らの活動は示しているんだと思う。」


5.海外で活動すること、マルチカルチュラリズム


島崎「じゃあ海外ツアーの話が出たからもうひとつそれ関係の話をすると、彼らってインタビューとかポッドキャストのなかでマルチカルチュラリズム(多文化主義)の話をしてるんだけど、そこで白人主導のマルチカルチュラリズムとかアンチレイシズムに対して、「それどこまでやるつもりなんですか?」っていう疑問があるって言ってるんだよね。」

hyozo「うん」

島崎「この白人主導のマルチカルチュラリズムに対する疑念がGuruguru Brainには反響しているみたいで、例えばヨーロッパ圏のバンドからGuruguru Brainからリリースさせてくれないかってお願いも全部断ってるらしいのね。で、マルチカルチュラリズムみたいなリベラルっぽい話を始めると経済面というか実務を頑張らなくなるのが基本じゃないですか。ただ思想を広めたり考えたりするだけみたいな。」

hyozo「うん。とにかく思想を広めれば世界は自動的に変わるという発想だ。」

島崎「うん。それは言い換えれば、思想は自分たちで広めるけど世界の仕組み自体は今まで権威を握っていた側に「変えてもらう」って発想だよね。裏方というか実務は権威に任せっきり、みたいな。こういう実務/裏方の軽視は、結局映画であったりフェスであったりイベントであったりのオーガナイズをする主導権は白人のもので、オーガナイズされる作家であったりバンドであったり俳優の人種は表向き多文化っぽくなっているみたいな状態に対して、諸手を挙げて喜んじゃうような残念な事態を呼び込んでしまう。要は多様性というリベラルなワードがコマーシャリズムに回収、利用される現実に対応できない。」

hyozo「だとするならアジアもまた欧米と同じく、経済的主体になる以外に本当にマルチカルチュラリズムを実現する方法はない、と。東浩紀的なアイロニーだね。」

島崎「アイロニーというかリアリズムだと思う。とはいえ、ゴウさんはポッドキャストのなかで、白人主導のマルチカルチュラリズム批判を思想として前面に押し出すのではなくて、気づいたら「あれ?このレーベル、リリースしてるのアジアのバンドだけじゃない?」という状態を作りたいって話をしてるんだよね。つまり、幾何学模様/Guruguru Brainは単に海外で経済頑張ってるって話ではなくて、彼らにはアジアで活動するバンドのための経済圏という発想があるってことで、海外で活動する上で白人にお金が回りやすい仕組みとは別のお金の流れを作ろうとしてる。」

hyozo「日本のバンドが海外で1500人キャパの会場を埋めるっていう意味では、Acid Mothers Templeはクイーンエリザベスホールでワンマンを埋めてたりと、幾何学模様と同じ規模に90年代の時点で届いているんだけど、リーダーの河端さんの考えもあって、規模をあんまり大きくするんじゃなくて、ツアーに行って収益を確保するっていう方針で活動を続けているんだよね。対して幾何学模様は社会にガッツリ自分たちの居場所を作ろうとしてて、そこが凄い。」


6.人間関係上手くいってる大人たち、幾何学模様におけるボーカルの位置


島崎「という感じで、ぼく的には幾何学模様のここがすごいって話だったんだけど、hyozo君的にはどうでしょう?」

hyozo「俺が見てる限りでバンドとしてすごいなって思うのはバンド内でのエゴのコントロールが上手いなってところかな。」

島崎「ほう。」

hyozo「バンドやってたらみんな適当な格好してライブ来たりするし、髪も突然切ったりするし、コントロールできない人間の集まりになりがちだけど、彼らはトータルのコーディネートをできてたり、みんなでちゃんとビジョンを共有してる。それに音楽的にも誰かが突出してるっていう印象がない。」

島崎「確かに。」

hyozo「そういうのってできそうでできないもので、やっぱり楽器上手いひとが突出しちゃいがちだし、そういうことも含めて、人間関係が上手くいっている大人たちっていうのは見てて気持ちが良いんだよね。」

島崎「おお!人間関係が上手くいってる大人たちか!」

hyozo「そういう意味で憧れるグループだった」

島崎「それは真理に触れた気がするな。」

hyozo「売れてるバンドってギターボーカルが強いバンドが多いけど、自分が憧れたロックバンドっていうのは全員が均等なキャラとしての立ち位置があるものだったから、それを実現できている数少ないロックバンドだと思う。」

島崎「なるほど。幾何学模様の偏りのないバンドの在り方と関係しそうだからちょっと付け加えると、幾何学模様の歌には意味がないんですよね。」

hyozo「『鏡の国のアリス』のかばん語みたいなものだよね。」

島崎「うん。歌うときのノリとか情景で歌詞も変わるし、そもそもその歌詞にもはっきりとした意味がない。だから何語でもない。実はね、このエピソードはぼくが幾何学模様を苦手だった理由のひとつでもあったんだけど、今の話を聞いてすごい納得できた。」

hyozo「うん。」

島崎「なんでバンドにおいてギターボーカルが強くなりがちかっていうと、言語という特権性を占有してるからじゃないですか。」

hyozo「菊地成孔は、音楽は音響情報と音韻情報が担っているって論じているけど、音韻情報をボーカルが担ってるって話だね。」

島崎「うん。よくわかんないけど多分そういうこと(笑)。まあなんにせよ音響って色みたいなイメージはあるかもしれないけど意味はないから、歌の持つ記号性はそれに強い形で意味づけをしてしまう。」

hyozo「それにギターも強い楽器だしね。」

島崎「うん。だから自然と最強になっちゃうよね。でもそもそもゴウさんってボーカルだけどドラムだし、しかも歌に記号性がないわけですよ。だから余計偏りがないバンドになるんだろうな。」

hyozo「それはサイケデリックっていうジャンルがそうさせる部分もあるんだと思う。いい気分でセッションして、「ああ歌いたいな」って思って出てくる言葉って明確な言葉として形を持っているものではなくて、なんとなくのニュアンスがそこには出てくる。日本人の場合は桑田佳祐がデモを作るみたいな、偶数で拍を取るような日本語のもったりとした感じが出つつ明確な意味がない、みたいなものになる。そういう意味で自然なのかなと思う。」

島崎「確かにそうだね。」

hyozo「それに幾何学模様はピンボーカルじゃない。トモさんも歌うからね。帯化はむしろギターを弾きながら解像度の高い歌詞を歌う幾何学模様とは対照的なバンドだよね。」

島崎「それはぼくが根本的に意味がないということに居直りがちなサイケとかロックの精神が苦手だからだろうな。」

hyozo「それもわかる。無意味なものってハイカルチャーだな、偉いところでやってるなって見えちゃうところはあるよね。」

島崎「まさに。ノンイデオロギーとか意味がないって、歌う側が突っぱねてみてもひとつのイデオロギーとか意味として聴く側から捉えられる可能性はあるし、そこに対するフックが必要だと思うからぼくらはそういう形でやってる。」

hyozo「うん。」

島崎「でもかといって幾何学模様はそういう無意味さに居直るのではなくて、イデオロギーに囚われないテイストとかニュアンスを、流通だったりバンドの見せ方を通してちゃんと伝えることに真剣なのがすごい。」

7.ツアーバンドとしての幾何学模様、そしてGuruguru Brain


島崎「次はツアーバンドとしての幾何学模様ってことで話してみよう。そういえば、最近hyozo君は海外ツアーに帯同するツアーマネージャーへのインタビュー記事をin the middleというメディアに出してましたね。」

hyozo「うん。自分たちのツアーを担当してくれたイタリア人のエドワルドっていう人にお願いしたインタビューだね。」

島崎「hyozo君がなんでそういう記事を書くモチベーションがあるかっていうと幾何学模様からの影響があるからですよね。でも今ってコロナ禍なわけで先も見えない。ツアーバンドにとっては逆境ですよね。」

hyozo「実際自分もバンド辞めたし。」

島崎「うん。今回の幾何学模様の活動休止にコロナが関係しているかはわからないけど、ツアーバンドである幾何学模様にとって大打撃だったのは確かなはず。」

hyozo「バラバラに住んでる人間が、ツアーで1ヶ月2ヶ月集まって寝食を共にする時間って、生きるモチベーションに繋がるようなことだから、30とか40見えてくるツアーミュージシャンたちが「ツアーできないツアーミュージシャンってただのフリーターじゃん」みたいなことを思っちゃってもおかしくない。本当に良くない2年間だったっていう月並みな意見しか出てこないな。」

島崎「幾何学模様はコロナのあいだにSub PopとMexican Summerと、それぞれのレーベルとの共同リリースもしてるけど、あれは宅録の集積というか、それぞれのメンバーが別々のところで録音して作ったみたいだね。そういうやり方もあるけど未来のツアーバンドはどうなるんだろう。」

hyozo「うん。ツアーバンドはツアーができないと単純に演奏も下手になる。それにツアーをやってる間って、音楽やって移動して音楽やって移動して、だけを繰り返すわけで、精神的に強烈な日々なんだよね。それが2年間ないって人生そのものの方向性が変わっちゃうと思う。」

島崎「音楽観も変わっちゃうよね。それに仮にコロナが収束したとしても、別の感染症がきたらどうするんだってことを想定する必要があったり、取り越し苦労にしても想定してしまって動けなくなることもある。今はこうやって外野から話してるだけに見えても、実際ぼくらも一昨年の遠征の予定が飛んじゃったりという実害もあった。」

hyozo「うん。」

島崎「そういう逆境もあるのかもしれないですがGuruguru Brainは続けて欲しいですよね。」

hyozo「それはやってくれるんじゃない?アジアのバンドにとっては彼らの存在はでかいよ。」

島崎「うん。バンドがやっているレーベルって、時間的な長さもそのポテンシャルもどうしてもバンド活動と同じ規模になりがちな気がして、でもGuruguru Brainってそれを超える可能性がある活動だよね。」

hyozo「うん。ヨーロッパの社会を脱構築してくれそうな感じがある。でも持久戦になるよね。もちろん彼らの人生だし続けられなくてもしょうがないけど。」

島崎「そうだね。そればっかりはしょうがない。でもGuruguru Brainが続くにせよ終わるにせよ、アジア人であるという欧米から押し付けられるパブリックイメージをある程度引き受けながら、そのイメージのプレゼンスを大きくしたり複雑化させたりしながら付き合っていくのは、経済的な意味でも精神的な意味でも自分たちが気持ちよく音楽を続けるうえで大事っていうのは彼らの活動が教えてくれているわけだから、そこから学べることはたくさんあるはず。」

hyozo「そうだね。どんどんみんな海外に行って白人と同じ土俵で闘えばいいってだけではなくて、色々な国のテイストがあって、色々なタイプのオリエンタリズムがあるような状態になるといいよね。」

島崎「うん。色々なオリエンタリズムって大事な感覚だと思う。だからGuruguru Brainが終わってしまっても、各々が各々の場所で頑張って、それをクロスオーバーできれば、Guruguru Brainはいつでも俺たちの心のなかにいるんだぜ、みたいなことですよ。」

hyozo「そう。彼らのバンドやレーベルが終わっても彼らの精神性というか魂は引き継いでやっていきたいよね。ちょっと下の世代の自分たちとしては。」

島崎「ぼくも反省してますよ。彼らは日本にいたわけだし、こうやって同い年のhyozo君は彼らからいろいろ学んだわけでさ。本当はぼくだって彼らと何かやったり同じことを経験したりする可能性もあったのに、謎の偏見によってそれができなかった。だからせめて今からでもと思って、こうやって色々話してみたわけです。」

hyozo「はい。」

島崎「では結構長くなってしまったのでこの辺で締めますか。読んでくれた皆さん、ありがとうございました。」

hyozo「ありがとうございました。」

※ここまでに色々貼ったbandcampのリンクを辿っていくとデジタルデータやカセットやLP、CDなど購入可能です。文字起こしと注釈の作成など、思ったより大変だったので、この記事が面白かったという人は少しでも気になった音楽にお金を落としてください!

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帯化

東京を拠点にする二人組ロックバンド。2019年3月に『末梢変異体/群島理論』を自主レーベル造園計画からリリースし活動を開始。2020年2月に1stアルバム『擬似縁側型ステルス』をKlan Aileenの澁谷をエンジニアとして迎え制作。リリースされたカセットテープはブルーシートで梱包され、麻紐で縛られた形で流通。同年6月には多摩川中流にてアコースティックギター、メタルパーカッションなどを持ち込み自主録音した2ndアルバム『河原結社』を多摩川で拾った「石/ゴミ(DLコード付)」という異例の形態でリリースする。音楽性は民族音楽、アンビエント、クラウトロック、フォースワールドなどの影響下にありつつも、あくまでそのスタイルは「ロックバンド」。2022年には3rdアルバムをリリース予定。

【subscription】https://www.tunecore.co.jp/artists/taika
【shop】https://taikafasciation.bandcamp.com/music 
【contact】taika.fasciation@gmail.com

Hyozo

2015年から煙客、De Lorians, Tandenなどのグループで活動。パンデミック後はゴヰチカ、武田屋作庭店、野流などに所属し活動中。

【shop】https://goichika.thebase.in/




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