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契約書の体裁-表題(タイトル)-

契約書をはじめて作成する時、表題の書き方について悩むことがあります。そこで本記事では、表題の意義や、よくある誤解、一般的な表題の決め方についてまとめます。

表題の意義

①契約書を読みやすくするため

ビジネスメールでは、メールの目的と内容を読み手にわかりやすく示すため、件名を「具体的かつ簡潔に」書くことが推奨されています(柴田=神藤 p41)。

契約書も同様に、内容を一目で把握できる表題とすることが望ましいです。それによって、読み手は「取引の対象」「取引に適用される法律」「契約書に記載されている条項」などを推測し、契約書をスムーズに読み進めることができます。

②契約書を管理しやすくするため

自社で行っている取引の種類が多い企業では、契約書を整理・保管しやすくするために、「〇〇(製品名)に関する売買契約書」といった形で表題を付けることがあります。

よくある誤解

「表題が『合意書』『念書』『覚書』『協定書』などの場合には、法的な拘束力は無い。だから内容を遵守する義務はない」という誤解をときどき耳にします。
そうした思い込みの下、内容をよく読まずにサインをしてしまうケースもあるようです。

しかし実際には、法的拘束力の有無は、それらの文書の内容や文言によって決まります(樋口 p61)。
ひどいケースでは、拘束力がないように見せかけて、契約としての効力がある文書にサインさせようとする場合もあるようです(平野晋 p223)。
表題にとらわれず、内容を冷静に検討することが重要です(阿部・井窪・片山 p6)。

表題の決め方

まず前提として、法律上、表題の決め方に関するルールはありません。当事者間で自由に定めることが可能です(長瀬ほか p10)。
そのため、同じような内容の契約書であっても、会社によって表題が異なる場合がよくあります。
例:秘密保持契約書、機密保持契約書、守秘義務契約書
例:システム開発契約書、ソフトウェア開発契約書

以下では、表題を考える上での参考情報として、実務における一般的な考え方を紹介します。

①民法の表現に合わせる

民法では、13種類の契約に関する規定が置かれています。これらを、典型的な契約という意味で「典型契約」といいます(平野裕之 p4)。
契約内容がこれらの類型に該当する場合は、「売買契約書」「委任契約書」などの形とします(田中 p352)。

◆典型契約
贈与、売買、交換、消費貸借、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託、組合、終身定期金、和解

民法第3編第2章 契約 

②契約の性質を明示する

今後の取引全般に関する「基本契約」である場合には、「〇〇売買に関する基本契約書」などの形で記載します(飛翔法律事務所 p43)。

また、いったん契約が締結された後で、契約条件や内容を変更する場合には、「〇〇契約書に関する変更覚書(または単に"覚書")」などの形で記載します(滝川 p88)。

参考文献

  • 柴田真一=神藤理恵『英文ビジネスeメールの教科書 書き方の基本から応用表現まで』(NHK出版, 2019)

  • 樋口一磨『ポイントがわかる!国際ビジネス契約の基本・文例・交渉』(日本加除出版, 2019)

  • 平野晋『体系アメリカ契約法』(中央大学出版部, 2009)

  • 阿部・井窪・片山法律事務所 編『契約書作成の実務と書式 第2版』(有斐閣, 2019)

  • 長瀬ほか『ビジネス契約書の読み方・書き方・直し方』(日本能率協会マネジメントセンター, 2017)

  • 平野裕之『債権各論Ⅰ 契約法』(日本評論社, 2018)

  • 田中豊『法律文書作成の基本 第2版』(日本評論社, 2019)

  • 飛翔法律事務所 編『実践 契約書チェックマニュアル 改訂3版』(現代産業選書, 2019)

  • 滝川宜信『業務委託(アウトソーシング)契約書の作成と審査の実務』(民事法研究会, 2015)