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夜とコンクリート

今日は純粋に昨日読んでよかった漫画を紹介したい。
町田洋さんという方の短編集という形の『夜とコンクリート』という漫画だ。


描き方は水墨画のようなモノトーンな印象で、少ない線で立体感を感じるように描かれていて、絵で説明し過ぎないミニマムな印象。


僕がよいと思ったのは、日常の中で誰もが見過ごしてしまう、あるいは気付かない小さな感情の動きや反応、変化を物語の展開の中で、自然に絵にしていることだ。


自分が感じたことを、すべて自覚的にはなれないし、ましてやその感情すべてに言葉を与えることも、もちろん説明もできないことがほとんどだろう。
多くの感情は日常の中で、時間と共に過ぎ去っていく。

だからこそ漫画という形で、物語という形で、目の前にかつて感じたであろう感情の、その細かい機微を、その繊細な変化を目にしたときに、人は感情を揺さぶられる。

あのときに感じた、だが過ぎ去ってしまった、わたしが捉えることができなかった感情が、そこにあるからだ。

それを確かに捉えて、絵にして、物語にしていく。


そういう観察力と、観察したものから想像、発想し、その頭の中のものを現実に再現する、表現する力を持った人たちのことを、僕は作家というように思う。

夜とコンクリートには、そういうこれぞ作家、と言いたくなる細かい機微や感情の繊細な変化が、表情や仕草が、それを演出する力が、随所に散りばめられていて、最後は作家の世界観、作家の「わたしの一秒」の時間感覚に呑み込まれ、没入していた。

そこにいるのは、いつかのわたしで、でもその感情に相変わらず名前や言葉は無いし、はっきりしない。
人にもうまく伝えられない。
でもそういうものこそが、僕は名作と呼ばれるものであると思うし、時の洗礼に生き残るものであるとも思う。


なんだか大げさになったが、僕はいい本だと思ったので、もし気になってくださった方がいたらオススメです。




今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。
描き過ぎない、説明し過ぎない、という作品が好きなのは漫画に限らず、あらゆる分野に及ぶ気がしますし、なんなら人も、もしかしたらそうかも。


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