ひと夏の、アバンチュール
「イルカは、いるか」「おらん」
玄関口、目の前に立っていたシャチの問いにそう返してから、ふと俺はシャチとパンダの共通点に気づいた――どちらも、水分を好む。
「そうか、うそじゃないな」
「嘘じゃない。嘘は好かん」
「そうか」
「そうだ」
「じゃあ……」
シャチは困ったように頭をかく(胸ビレでだ。器用なことだ)。
「オルカは、おるか」
オルカ。オルカ。オルカ……オルカ?
「ちょっと待ってくれ」
俺はスマートフォンを取り出すと、「OK、プレックス。オルカってなんのことだ」と語りかける。
検索結果が出た。
「オルカ:クジラ目の水生生物であるシャチを指す」
成程そうだったのか。また一つ賢くなれたな。知識が増えるのはいいことだ。知は力なり。お気に入りのことわざだ。
そこで視線に気づく。そうだ忘れていた。
「おらん」
「そうか、うそじゃないな」
「嘘は好かん」
「そうか」
「そうだ」
うなだれるシャチ。その頸部から頭部にかけてのラインの美しさに、おもわず「ほう」とため息をつく。
「そうか。イルカもオルカも、いないのか……」
あからさまに落ち込むシャチ。あまりにも悲しげに見えたので、俺は何かアドバイスができないかと考える。
「そうだな。魚屋さんに、行ってみたらどうだ」
「それは、むいみだ」
「なぜだ」
シャチは俺の顔を見つめた。潤んだ瞳が輝く。綺麗だな。いつか博物館で見た、螺鈿細工を思い出す。
「イルカは、さかなじゃない」
……まさか。
「OK、プレックス。イルカとは」
検索結果が出た。
「イルカ:哺乳綱鯨偶蹄目クジラ類ハクジラ亜目に属する種の内、比較的小型の種の総称」
クジラ。イルカは、クジラだったのか。
ん? おかしい。それはおかしくないか。イルカはイルカだろう。クジラじゃない。だが、インターネットが嘘を言うとも思えない。ということは、本当にイルカはクジラなのか。
悩んでいるうちに、大変なことに気づいてしまった。
【続く】
そんな…旦那悪いっすよアタシなんかに…え、「柄にもなく遠慮するな」ですって? エヘヘ、まあ、そうなんですがネェ…んじゃ、お言葉に甘えて遠慮なくっと…ヘヘ