彼女の背中とその夜に見る夢
月曜日はいつもの仕事だった。平日に語ることは特に多くはない。それはいたって普通のことで、一般的なサラリーマンと同じような生活だからだ。ただ少し異なっているのは私は自宅で仕事をしているという点だ。最近とかくリモートワークが流行っているが私のところも例にもれず、社員のほとんどが自宅で仕事をしている。
おはようございます。業務を開始いたします。
お疲れ様です。お昼休憩に入ります。
業務に戻ります。
お疲れ様です。本日の業務を終了致します。本日の主な業務は‥‥‥
いつもと変わらない日常。もちろん仕事が楽しい時もある。作業を終えた時や、プロジェクトを上げた時はもちろん嬉しい。ただいつものことでそれは変えが効くものだ。その喜びはこの仕事でしか得られないというわけではない。それでも私はこの自分の地味な仕事が好きだった。
仕事について多く語るのはよそう。誰が聞きたいと言うのだろう。毎日仕事に追われ、私の元に癒されに来る方。そういう方を見ているからだろうか。これ以上仕事の話はやめよう。
ともかく、私は特にお昼の仕事で困っているというわけではなかった。上司はよくしてくれる。特に懇親会が苦痛というわけでもない。むしろ積極的に参加をする方だ。
これは当たり前のことだが、なぜいくつもの仕事をしているのかというと、のちにも述べるが2人分の生活を身に宿すというのは、とても金が必要になってくるのだ。特にまともに似合う服や、清潔な装いを保つということには。私は男性の格好をしている時から服装に気を使うほうだったし、それは服装のジェンダーが変わろうと変化するようなことではなかった。
「ゆき、なにみてるの」
「服買いたいなって思って」
彼女の滑らかな体に手をまわし画面を少し見ながら話をする。
「どんな服?見せて見せて」
彼女は裸のまま僕の方に体を向けて、手を広げて抱きしめてくる。これでは画面が見れないじゃない。
彼女が僕の胸から顔を上げたから、僕は見やすいように彼女の顔に画面を近づけた。
「へー、みきちゃんに似合いそう。大人っぽい感じだね」
そう言うと彼女はまた僕の胸に顔を任せる。そして僕は彼女の女の子より少ししっかりした、しかし美しい体を抱きしめる。
彼女を抱くその行為は大罪を犯している。その愛しさは大罪めいている。とてつもない罪を犯しているような感覚に陥るのだ。
彼女、彼を愛おしむ。その行為はとても快く、なお罪なことだ。子どもを作るという生物としての目的などなく、愛と快楽のみを求めた性行。
それは純粋で尊いものなのだろうか。僕はそんなこと考えたことはない。ただ、彼女との行為はとても愛しかった。それで心が満ちてしまった。
彼女の準備をしている背中を見ることに関して言えばこれはとても尊いことだった。それはとても僕の心を満たす。
その背中を抱きしめたいと思うこと。
背中には顔と同じようにその人の考えを映すものがあると僕は思う。彼女の少し骨ばった、しかし女性らしい背中を見ながら思う。
彼女の背中。僕は背中を見るのが好きだった。
その夜僕は夢を見た。とても心地の良い夢だ。風は吹いてなく、ただそこにいる。そしてどこかを見ているのだ。
そこには緑の丘があり、下の方には湖と水色パステルカラーの川が流れている。さらに遠くには薄い虹がかかっている。なんの苦痛もなく、その概念すらなく、ただそこにいるだけ、それだけの夢。しかし心地の良い夢。
そこに彼女はいなかった。
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