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「介護問題」(字数超過)

年老いた両親の面倒を見る責任が、ぼくにはある。長男だし、姉は嫁いで遠方へ行ってしまった。だが私は都内で一人暮らし。仕事は朝から晩まで忙しい。実家には足を痛めて外出するのが辛そうな母。長年心臓病を患っている父。隣の県と比較的近いが、年寄り2人だけの生活は気がかりだ。今後2人の面倒を自分で見るか、老人ホームに入居してもらう選択に迫られていた。私のやりたいことは何でもやらせてくれた両親。最後くらいはぼくが面倒を見る、同居しようと決心した。きっと喜んでくれるだろうと胸躍らせながらそのことを伝えると、「私達はあんたと一緒に住みたくない」と母が言う。父は黙って頷く。「ちゃんと面倒を見るから」と私がいうと、「お前に俺たちの面倒はみれんよ」と父はいう。ぼくは心が張り裂けそうになった。涙がこぼれた。追い打ちをかけるように父が老人ホームのパンフレットを差す。「ここが気に入った。ここに行く。」淡々という。ぼくは涙をぬぐいながら「分かった。それが二人にとっていいのなら。」残っている力を振り絞っていうと、ぼくは玄関へ向かった。靴を履く私に母が黙ってパンフレットを差し出した。ぼくはそれを黙って受け取り、帰路についた。帰りの電車の中、茫然としながらふとパンフレットに目をやると、見慣れた名前だった。ぼくの住んでいるマンションから徒歩圏内にある新設ホームだ。同居してぼくに面倒や心配をかけたくないという意地にも似たやさしさと、それでもぼくの傍にいたいと思ってくれる両親が愛おしく思えた。

(2013年3月30日 635字)

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