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【観劇レポ】私は私のもの ミュージカル「エリザベート」

観劇東京遠征編第2弾はミュージカル「エリザベート」

日本一チケットが取れないミュージカルとも言われる、東宝製作のグランドミュージカル。美女と名高いオーストリア皇后・エリザベートと、死の象徴「トート」が繰り広げる自由と死の物語。
ちなみに「エリザベート」と発音するのは日本だけで、正式にはエリーザベトらしい。19へえ。

キャストはこちら。

初の帝国劇場

冒頭少し余談ですが、今回の観劇が僕にとって初めての帝国劇場でした。往年のファンや関東にお住まいの方はあまりわからないかもしれませんが、帝国劇場でミュージカルを観るというのは憧れだったので感無量です。

高級感のある内装もさることながら、やはりなんと言っても音の響きがよく感じました。席がステージに向かってど真ん中というのもあるとはおもうのですが、一音一音、セリフの一言一言がはっきり聞こえるのに加え、響きすぎず吸収されすぎない、心地よく残る反響感が素晴らしい。
加えて座席がうまい具合に互い違いになっていて、さすが名高い帝国劇場、今回の座席はA席でしたが観やすく聴きやすく楽しめました。正直、ほんまにこれA席?っていうくらい良席。同じランクでも劇場によってピンキリですからね…。

何より、帝国劇場っていう響きがカッコいいよね(厨二病発症)。

主要3キャスト

エリザベート

今回のエリザベートは愛希れいかちゃん。以下、愛称を使ってちゃぴザベートと呼びます。

エリザベートでは劇中でおよそ10代から60代まで、3時間の演目の中で年齢が移りゆきます。その年月の移りに呼応するように演技や声色が変わっていくのは流石でした。

冒頭では少女らしさが溢れていて、天真爛漫で自由なプリンセス。おませさんなイメージもありました。結婚のあたりでは、大人になりきれない夢見る少女へと微妙に移り変わり、宮廷生活で年月を経るたびに周囲からの目と抑圧で心をやつしていく。母としてのエリザベートを体現しながら、一幕ラストから二幕冒頭あたりまでは皇后としての威厳と、一人の女性としてのプライドを感じるまでになり、フィナーレに向かって老いへの恐怖と孤独を纏って生きていく様は厳かさすら感じました。

ラストシーンでは、死を迎えた体から魂が飛び出したように、若い頃のような白い衣装に早変わり。
若き10代の頃のような瑞瑞しさと、60年の歳月での経験がもたらす心の深みとが、混じり合って溶け合ったかのようなエリザベートの魂の姿、それは唯一無二の「ちゃぴザベート」となっており、演技や表現を超えた「存在」としての何かを感じました。ちゃぴちゃん特有の可憐さが溢れながら、気高さと風格、プライドを体現していました。

印象的なシーンはいくらでもありますが、終盤のルドルフとの行き違い、そしてルドルフの死、「夜のボート」での夫・フランツとの行き違いの一連の流れは、最後まで自由を求めた自分と、それゆえに愛する人たちを失っていく孤独とが静かに漂っており、じわじわと見る者の呼吸を忘れさせます。最後の「無理よ」が、もうフランツやこの世界に希望を見出そうともしていない境地に至ってしまった「無理」で、観ているこちらの感想も「やめて…無理…しんどい…」。

あと個人的には、ちゃぴちゃんは自信に満ちて緩まる口元がとても素敵だと思っていて、二重帝国成立~私が躍る時の表情が、ああもうドストライクです。単に自信があるだけでなく、少し相手を試すような不敵な感じ。わかります?わかって。「私だけに」も素敵なんですが、トートに、ゾフィーに、そして夫フランツに「勝った」という自信が作るあの口元、「私が躍る時」特有だと思うんですよね。

トート

2020年の公演が中止になったことで「幻のトート」と言われていた山崎育三郎さんのトート(以下育トート)。幻は現実に。

紫色を基調としたスタイリングが妖しさと艶を出し、プリンス然とした育三郎イメージを下手に排除することなく、うまく役柄に織り成して「育トート」を作り上げていたように思います。歴代のトートと比して、情熱的なエリザベートへの愛や強い想いを感じるような気がします。実は初育三郎なのですが、歌声の艶、高音の伸び、甘美な表現力は流石です。これは虜になりますわ。

ラストシーンで、育トートとちゃぴザベートの二つの白が重なる姿は、「死」のシーンなのにすごく清らかで息をのんだ。ずっと黒い衣装だったトートが白い衣装を纏い、逆に喪服に身を包んだエリザベートと「結ばれる」。白と黒が反転した光景から、エリザベートもまた若かりし頃のような白い衣装となることで、二つの白が重なる。美しい。育トート、白が似合うと思う。

終始ステージ上のちゃぴザベートに視線を送る一途さ、いいよね。エリザベートの椅子の後ろやルドルフのお墓から「ぬっ」と出てくるシーンは、ごめん、不気味さというよりちょっとかわいくて笑う。エリザベートのこと好きすぎやろ。

最初の登場シーンは「ビジュアル系バンドのライヴか?」と、一瞬タカミーが頭をよぎったのはここだけの話。

フランツ

こらちらも実は初見のシュガーこと佐藤隆紀さんのフランツ(以下シュガー陛下)。

ちゃぴザベートと同じく、劇中で歳を取っていく役どころ。
母ゾフィー皇太后に従うばかりで良いのかと葛藤が見られる若き皇帝時代。唯一母に反抗できたのが結婚だけというのが哀しいところですが、心の内の静かな自立心が見え隠れして良かった。
そしてシュガー陛下は体格が立派なので、年を重ねるごとに魅力が増すような気がする。何よりヒゲが似合う。最後の近世的皇帝感というか、古き良き威厳が滲み出ていました。皇太子ルドルフに対する態度が顕著かな。年を重ねるにつれ、妻への愛も深まっていくような気がしますが、当のちゃぴザベートに愛は届きません。エリザベートには「愛だけでは足りなかった」だけで、夫として比較的頑張っていたように見えるんですけどね。

お声についてはもう今更何を語ろうか。低音から高音まで、一シーンとして不安になる要素がない、素晴らしい歌声。
1幕ラスト「私だけに」での優しさと切なさが混じった声、そして同曲Bメロの「だが」の決意の強さと想いの強さ。「夜のボート」での愛しさと切なさと心もとなさと。帝国劇場の音の響きと、この上なくマッチしていました。

他のキャスト

「他の」なんて言葉で片付けるのは非常に申し訳ないのですが、一人ひとり語るととんでもない文字量になるのでご容赦ください…みんなすてきよ…。

まずは黒羽ルキーニ。一言で言うならぶっ飛んでた。いい意味で狂ってて、錚々たるメンツが揃う舞台を、これでもかとかき回す。パワフルで、声が多少ブレるのも気にしない強気のルキーニ。ここまで振り切れると、演じる方も気持ちいいやろうなと思うくらいでした。

香寿ゾフィー。いやもうお姑感。と言いながら、単に嫌味なお姑役というのでなく、伝統ある帝国に自らも嫁いだ身として、帝国を第一に考える意志の強さと並々ならぬ覚悟、そしてそれを貫いてきた自信が軸にある。晩年の様子は、もはや逃れられない帝国の崩壊を感じ、自らも体力的に衰えを感じ死期を悟りながら、それでも伝統という亡霊に縋るような一種の狂気を感じました。

立石ルドルフは、青年ルドルフの登場シーンは僅かですが、トートとの「闇が広がる」は感情の奔流という感じで、思わずウルっとしてしまいました。母にも父にも認められず、国を背負うため厳しい教育を受けて育ちながら、国民に味方もいない。こんな孤独な人生で、よくあんな気丈な皇太子に育ったもんだ。子ルドルフも、もう頑張らなくていいよ…!と祈りながら見ておりました。子どもの演技に弱いのよ…。
そしてエリザベートの母と娼婦館の主人の2役を演じた未来優希さんは、表のマダムと裏のマダムという感じ。傍系貴族が何とかして頑張ろうとする必死さ、一方で娼婦館では自由で余裕のあるセクシーな女主人。アンサンブルさんにも共通することですが、同じ舞台で複数の役作りをするの、本当にすごいとしか言いようがない。

そしてアンサンブル大好きな僕。席がステージ全体を見渡せる良席だったので、冒頭のゾンビシーン、結婚式、エーヤンハンガリー、ミルク、革命など、終始せわしなく眼球を動かしてました。グランドミュージカルは、やっぱりアンサンブルの強さが魅力の一つ。余談ですが、ハンガリーの革命家3人が高身長でスタイル良すぎてかっこよかった。

カーテンコール

何回見てもいいよね、カーテンコールは。

今回は計3回と控えめ?だったのですが、ラスト3回目で、ちゃぴザベートと育トートが「愛希れいかと山崎育三郎」として全力バイバイしてくれてキュンやった。

個人的にはスタンディングオベーションは2回目くらいからのイメージだったんですが、今回3回目で皆さん立ち始めたこともあって、キャストが揃った状態でスタンディングオベーションできず、ちょっと残念、というか申し訳なかったです。いや、客が悪いとかそういうことでもないのよ。

スタンディングオベーションにルールはないので、立って拍手してステージに思いを届けたい!ってなったときに、周りを気にせず立てるようになりたい…。

あともう1回観れる

エリザベート、生で見るのは今回が初めてだったのですが、大人気作というのがよくわかる作品でした。「マリー・アントワネット」もそうですが、この系譜のミュージカルは音楽が耳に残りやすいのもあって、しばらく余韻でご飯が食べられそう。音の贅沢さを味わう意味でも、初めての帝国劇場での観劇がエリザベートでよかったです。

開幕を目前にして全公演中止となった2020年。そこから再び動き出した「エリザベート」。キャストの熱量も、前回の悔しさを糧に日増しに熱くなっているように思いますし、実際熱を感じました。

奇跡的にもう1回、しかも今回のキャストと違う組み合わせで11月に観れるので、キャストによる表現や雰囲気の違いを味わいつつ、作品の世界を深く感じたいと思っています。ほんま、どのキャストのファンクラブにも入ってないのによく2公演も取れたな…。

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