見出し画像

【観劇レポ】欲望が生んだ怪物 ミュージカル「ジャック・ザ・リッパー」

ミュージカル「ジャック・ザ・リッパー」(2021年)の観劇レポ。大阪千穐楽(大千穐楽)を観劇してきました。席は3階のほぼ真ん中1列目。

<レポの前に宣伝>
11月9日まで配信映像が販売されます。生の舞台ではありませんが、ぜひこの記事読む前に見てほしい!(※回し者ではありません)

概要

現実に存在した殺人鬼「切り裂きジャックジャック・ザ・リッパー」を題材としたミュージカル。日本では今回が初上演。
娼婦を狙う殺人鬼・ジャック、それを追う刑事・アンダーソン、特ダネを追う記者・モンロー、そしてジャックを知るという医師・ダニエル。それぞれの欲望や愛情がストーリーを動かしていく。

大千穐楽のキャストは下記の通り。

ジャック:堂珍嘉邦さん
アンダーソン:加藤和樹さん
ダニエル:小野賢章さん

誰も救われてない?

見終わった後の第一印象。「誰も救われてない!!」

登場人物だれ一人として救われない遣る瀬無さ。愛するが故、あるいは自分の抑えきれない欲求のため、破滅の道を選ぶしかない、どう転がっても幸せになれない顛末。グロリアが言ったとおり「希望は絶望に」。すべての絶望は希望を見てしまったが故に起こるものなのです。

でもなぜか、バッドエンドという言葉はしっくりこない。アンダーソンの最後の行動が捉えようによっては救いが全くないわけではないように思えてしまうからなのかなあと思っています。

連続殺人魔ジャック・ザ・リッパーに関する一連の事件は、このまま迷宮入りの方が良いと。真実はあまりにも美しくて惨いので、社会や世間に変な消費の仕方をしてしまわれるよりは、闇に葬られる方が登場人物たちは救われるのかもしれない。
知らない方が幸せなことも世の中ありますが、このストーリーもその一つなのかもしれません。

ピースがはまる快感

第一幕で散らばったピースが第二幕でピタッとはまるのが快感でした。あのシーンはここに繋がるのか、ここでこうストーリーが繋がるのか・・・と。ラブロマンスだけでなくサスペンス要素があるストーリーなので、話の繋がりに気付いた時の脳の覚醒は気持ちいいですね。

例えばアンダーソンが登場する冒頭シーン。すべてが終わったあとの終盤のシーンと、一連の流れと演出は全く同じです。同じシーンに戻ってくることで、頭の中でストーリーの理解が整理されるわけですが、冒頭は「何やろう」とグッと世界に引き付けられ、終盤の方はすべてを知った上でのアンダーソンの感情まで見えてくる。
同じシーンに異なる役割、異なる印象を持たせるのが面白い演出やなあと思いました。

第1幕が終わった時点で、「ジャックの正体がこうやったら面白いなあ」と思っていたら、第二幕で見事その通りドンピシャだったのも気持ちよかったです。

象徴としてのジャック

本作の解釈では、ジャックは結局、殺人衝動あるいは殺人を合理化するために生み出されたダニエルの虚構の人格でした(もっと厳密に言えば、実在したジャックのイメージをもとにした人格ですね)。

一方、作中の人物たちは皆何かに侵されている。それは「ジャック」と名前も姿も同じではないかもしれないですが、何かしらの自分の欲望、衝動、感情に支配されています。
特ダネと金に執心するモンロー、コカイン中毒のアンダーソン、グロリアもダニエルを愛するがゆえに苦しめられる。

自分の中にもう一人の自分を感じる人は少なくないと思います。それは決して悪い意味には限らず、自分を客観視する、ふと我にかえる、というような場面はよくありますよね。
悪い例の方では、お酒を飲むと人格が変わるとか、運転すると人格が変わるとか。
欲望っていうと大層に聞こえますが、したい、なりたい、ほしい…どれも人間らしい欲求で、誰もが色んな種類の欲を持ってるわけで。
自分が認知しているかどうかはさておき、人は多かれ少なかれ、ジャックを心の中に住み着かせているんじゃないかなと感じました。

カーテンコール

カーテンコールで白米3杯はいける男、僕。今回のカーテンコールも素敵でした。

カーテンコールで歌唱があるのは「マリー・アントワネット」以来。ダイジェストのようにアンサンブルを含むキャストの歌唱が披露されます。
2時間半に及ぶ公演の走馬灯。歌はそれぞれほんの一部だけですが、ストーリーを見終えて改めて聞くと、各場面をただ思い出すだけでなく、その歌の感情や意味を深堀りしているような気がします。

大千穐楽ということで鳴り止まぬ拍手。最後はダニエル役の小野さんからご挨拶がありました。本当に大千穐楽を無事迎えられて良かった。
小野さんと堂珍さんが、小道具の杖で観客席を煽って去っていきましたが、◯リー・ポッターかな?

キャストのカーテンコールのあと、オーケストラの皆さんも演奏でコール。見える範囲だけですが、わりと少人数なオケの気がしましたが、荘厳で豊かな演奏ありがとうございました。

キャスト語り

ダニエル・小野さん。声にも雰囲気にも溢れる主人公感は一体なんなんでしょうね。終盤の壊れ苦しむシーンは、まさに闇堕ち主人公。聞き取りやすい歌はさすが声優さんですね。

ジャック・堂珍さん。CHEMISTRYってどちらかと言うと優し甘い歌声のイメージがあったんですが、力強く野心的なお歌でした。杖捌きがセクシー。雷と登場するの、カッコよすぎてズルい。

アンダーソン・加藤さん。昨年末の「ローマの休日」、3月の「BARNUM」以来。もういうことなしの通る低音。好き。今回は公演によってジャックの役もやられてたそうですが、加藤アンダーソンと加藤ジャックを同時に見れないって罪深くない?(いい意味)

グロリア・May'nさん。かっこいいっすなぁ。グロリアとポリー、二人の女性が希望と絶望の両方をそれぞれの役で表現されますが、2つのジワジワと迫る落差はグロリアの特徴。絶望グロリアは息をのみました。

ポリー・エリアンナさん。拝見するのは「NINE」以来。NINEのネクロフォラス役よりこっちのが好きです。ポリーの感情がよく伝わってきて、特に終盤の歌は泣かせにきてる。会場内もすすり泣く声がチラホラ聞こえました。そんな希望豊かに歌われたら、死亡フラグ立ちまくりで感情の行き場がなくなっちゃうやんか…。

モンロー・田代さん。何気に今年だけで5回目の拝見。今年一番のファンキー万里生でしたね。「マタ・ハリ」も大概新境地やったはずですが、更に奥の扉開けちゃいましたね。
ロマンスのない万里生さんは新鮮。背筋ピシッとした役も多いのに、今回ウロチョロウロチョロ小賢しい動きをするのも新鮮。NEWスーパー万里生パフォーマンス更新ですね。

まとめ

一幕終わりの時点では、正直「どう展開するんやろう」「どう畳むんやろう」と思ってましたが、二幕でやられてしまいました。完敗です(勝負じゃない)。

そして毎回思うことですが、やっぱり生の舞台はええなぁ。

日本初公演ということで、きっとこれからもっともっとパワーアップして披露されるのではないかなと思います。楽曲もストーリーもキャッチーなので、長く愛される作品になりそう。再演待ってます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?