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【観劇レポ】答えなき問が響く 劇団四季「ノートルダムの鐘」

2022年も年末やけどまだまだ観ます、ミュージカル。
観劇レポ 劇団四季「ノートルダムの鐘」京都公演です。

レポ、といいながら最初にお詫びを。

僕の持っている日本語で、この作品の感想を語れない。

まあ普段のレポはどうやねん、と言われると苦しいですが、いつもに増して、この筆舌し難い魂へのクリティカルヒットをどうしたらいいのか。悩みながらも書いてますのであしからず。観終えて放心状態になったのは久々です…。

キャストはこちら。

12/29マチネ

問はここに鳴る

美しさとは。醜さとは。幸せとは。不幸とは。誇りとは。自由とは。欲とは。守るとは。愛とは。生きるとは。人間とは。救いとは。

ラストで「あなたの胸に何が響く?」という歌詞がありますが、無数の「とは」という言葉が、まさに鐘の音のように僕の中に響き続ける。

フロローが狂気に走ったのは、真面目で敬虔に生きてきたゆえの反動なのか?カジモドを幽閉していたのは、現実世界の非情さから守ろうとするための愛なのか?ジプシーへの差別は弟を奪ったものへの私怨か?

エスメラルダは心の美醜を見抜く力を持っていて、それゆえにカジモドの心の美しさを見抜いたけれど、彼の見た目が迫害の対象となりうることに構わず、彼を祭りの舞台に上げてしまった。人に分け隔てなく接することが、却って罪になるのか?彼女が悲しい最期を迎えるのはその報いか?彼女の最期は自ら選んだものか?

カジモドはあのまま鐘突として、石のようにひとりで生きていくのが幸せだったのか?勇気を持って一歩踏み出し、自由を求め聖堂を抜け出したことは許されざる罪なのか?エスメラルダへの愛は純粋な感情なのか?愛したエスメラルダの亡骸を抱きしめて骨となるのは幸せか?

人間と怪物を分かつものとは何か?

軽々しく答えを出させてくれない重みと深さが、この作品にはある。きっと、これを観た人がこれから生きる時間の中で、この鐘の音が時々響く。その音に気づく度に、その問と答えに向き合うのかもしれない。

キャストについて

主役である飯田さんカジモド。生まれつきの障害ゆえ、カジモドは身を屈み、口を歪ませながら話すので、演じるにあたっては相当な負担のかかる役ですが、まさに魂で演じるような力を感じました。

歌うときはカジモドの心の内なので通常の歌唱になりますが、この切り替わりが素敵。これですよ、ミュージカルは。そして圧倒的歌唱力。飯田さんのパワーはかねがね聞いていましたがさすが。1幕はじめの「陽差しの中へ」でもうノックアウトされました。

そして歌唱だけでなく演技も重厚。エスメラルダの死からラストにかけての迫力たるや。フロローを殺すという選択肢が果たして正解だったのか。その正否ではなく、もう、殺すしかないという鬼気迫る「醜い心」。蔑まれる見た目で生まれてもなお純真で、エスメラルダをして美しい心と言わしめたカジモドが、まさに「怪物」になってしまうシーン。涙が止まりません。1階席の後方でしたが、飯田カジモドのおぞましく力強い「目」ははっきり見えました。

冒頭に語り部を担いながらメイクをしてカジモドになるのもいい演出だと思ったのですが、ラストでメイクを拭き取って語り部に戻るのも鳥肌が立ちました。

野中さんのフロロー。もはや主役を取って食らうかのような存在感を放ち、人間の負の面をこれでもかと気持ち悪いくらい魅せつけてくれる(褒めてますのであしからず)。音圧というより、ジワジワと、ジメジメと心を揺さぶってくる。
エスメラルダへの執着、カジモドへの歪んた愛、救いの名のもとに自分の行いを正当化する、ある意味哀れなキャラですが、それを哀れと言う僕はどうなのか?と突きつけられているような気になります。

松山さんのエスメラルダ。序盤はジプシーであることはの誇りすら感じる、強かで気高い印象でしたが、フロローの執心に怯える様子やフィーバスに見せる弱い部分も印象的。クラシカルで荘厳なミュージカルの中で、煽情的とも言えるダンスの華も素晴らしかったです。お歌も伸びやかさとハリがある。
カジモドに対して心の眼で見る清らかさと、自分の人生を自分の責任で生きんとする姿は美しい。自分を曲げてフロローに従うくらいなら死んだほうがマシだと歌う姿は、別のミュージカルですが「マリー・アントワネット」の裁判にかけられるマリーのシーンに通じるものを感じました。

この作品の中で、彼女の存在や視点が「美」と「醜」を語っているように思います。

佐久間さんのフィーバス。まっすぐなお声と超絶良きスタイルが印象的。前半より後半の方がお声の良さが出ていたような気がします。
二枚目感の強いキャラで、カジモドと対極的な「見た目の美しさ」も持ちます。最初はなんかいけ好かない奴(※個人の感想)ですが、エスメラルダへの愛に目覚め、愛に生きることを選んだ彼は、紛うことなく美しい。エスメラルダが亡くなったことを知って、慟哭するでもなく、ただ悲しみを静かに纏う姿がつらい。

この作品の印象を強くするクワイヤ(聖歌隊)も素晴らしかったです。大聖堂を舞台とする本作で、神へ向けられたその荘厳な歌が、人の咎と矮小さを際立たせます。ずっと2階にいるから、下界を俯瞰してるような印象がありますね。彼らは天界から人の子を見ている主の使いたちなのかもしれない。

カジモドの友である石像とノートルダムに住まう人々を演じるアンサンブルさん。事前に調べていなかったのですが、アンサンブルの人数が結構少なくて驚き。クワイヤがいることもあってか、少なさを感じませんでした。フード付きローブを脱ぎ着する切り替わりで、石像と市民を演じ分けるが演出として好きです。

もう一回観ます

前に京都で公演していたときに「またの機会でいいか」と見ていなかった作品。あの頃の僕へ。

この痴れ者がっ!!

なぜこの作品を見ずしてミュージカル好きを語れようか。ああ、数年前の僕が憎い…!過去を振り返っても仕方がないですが、もっと前からこの作品に出会うべきだった。

ディズニー系列の作品ではありますが、アニメ映画のハッピーエンドではなく、原作となる小説に準拠したダークな世界。ライオンキング、アナ雪、アラジン、リトル・マーメイドといった「THEディズニー」な作品とは、一味違う作品。

観終えたあと、放心状態になること必至ですが、人生に深みを与えてくれるのも間違いありません。ミュージカルが好きな人はもちろん、そうでない人も一度でいいから観てほしい。

うーん、やっぱりどんな言葉を選んでも納得がいかない。この心の揺さぶりをどう表現すればいいのか。きっと、僕がノートルダムの鐘を語るには、まだ未熟すぎる。これはもう、物量戦で何回も観るしかないな

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