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【観劇レポ】本当の魔女は心の中に ミュージカル劇団四季「ウィキッド」

観劇レポ2023最後の遠征、遠征ソワレは劇団四季「ウィキッド」です。

再演を望む声がそれはもう根強く、ミュージカルファン念願の公演。期間限定公演ということも相まって、チケットは劇団四季の会員先行で完売(一般発売なし)の盛況っぷり。僕もなんとか抽選で1公演取れた、というところでした。
席は14列目、全体の雰囲気もキャストの表情もどちらもほどよく楽しめる僕の好きなエリア。

キャストはこちら。

12/19ソワレ

優等生感の強い三井さんのエルファバ、ぶりっ子が似合う(?)中山さんのグリンダを中心に、たぶんはじめましての方が多かったです(そもそも僕は四季の俳優さんに詳しくなれるほど通えていないので…)。ディラモンド先生はフィルマンを演ってらした平良さんかな。

しっかし久々の四季でしたが、やっぱり四季は全キャストが安定的に上手いです(四季以外がどう、というわけではなく)。劇場の音響もいいのだろうけど。

めちゃくちゃ余談ですが、唯一聞いたことあるなこの声…と思ったら、エルファバのパパ、オペラ座でラウルを演じられていた岸さんでした。

もう1つ余談ですが、カテコでモリブル役の八重沢さんが、袖にはけるまで終始「モリブル然」を貫いてらしたのが面白かった。カテコでキャラが外れて素が見えるのもいいけど、キャラを貫かれるのもいいよね。

ストーリー概要

ウィキッドのストーリーは、「オズの魔法使い」のスピンオフ、プロローグのような位置づけ。悪い魔女=ウィキッド=エルファバが消え、喜びに沸く人々に、善い魔女グリンダが昔話としてエルファバとの思い出を語る、という設定。

オズの世界にいる「善い魔女」「悪い魔女」はなぜ生まれたのか。なぜグリンダが善い魔女に、エルファバが悪い魔女になったのか。他にもオズの登場人物たちの背景も伺い知れる要素があります。

ストーリーの中身は、プロローグなんて言葉で片付けられないくらい重厚。オズの魔法使いのお話はなんとなく覚えている状態で、あえてほぼ予習しませんでしたが、まあなんとこれは大変だ。人気なのが身を以て理解できます。

ストーリーのメッセージ

この作品がアメリカで作られた背景なども影響しているのでしょう。人間社会へのメッセージが複数込められているように思います。

劇団四季がブロードウェイから輸入している作品は、やはりディズニーのイメージが強いですし、ウィキッドもそれらの作品に負けないくらい魔法と豪華な演出が溢れていますが、どこか一線を画すところがあります。ノートルダムの鐘に魔法の要素を足した感じ?

色々な側面がありますが、共通しているのは「人の弱さ」であるように思います。

優しさは優しさと限らない

エルファバは自分の魔力を、人のために使おうとするものの、結果的にその相手を悲しませてしまう、というシーンが多くあります。心の痛みを取り除くために、ボックをブリキの体に変えるとか。それが妹のネッサローズを更に苦しめるとか。

ボック自身も、グリンダの心を惹くためにネッサローズに優しくしてたのであって、真心からの優しさではありませんでした(その意味では自業自得なのかも…)。

人のためにやったことが、必ずしも報われるとは限らない。それどころか、その相手に恨まれてしまうことすらもある。そんな皮肉な現実。

一方で、グリンダが嫌がらせのつもりでエルファバにプレゼントした黒い帽子は、エルファバの心を動かし、グリンダとの友情に繋がっていきます。優しさが優しさとは限らないというのは、逆の意味でも作中で描かれいて、こちらはこちらで美しい。

差別と恐怖

緑色の肌をしたエルファバ、そして人語を話すヤギであるディラモンド先生に象徴される動物への敵対心。前者は人種差別、後者はあえて仮想敵を作ることでの統治に対するアンチテーゼを感じます。

動物たちへの扱いは結構心にズシッとくるものがあります。エルファバとランチで紙を食べるシーンはコミカルでしたが、人語を喋れなくなって四つん這いで鳴き声を上げるディラモンド先生の姿は、思わず顔をしかめるくらい辛かったです。

エルファバが悪い魔女に仕立て上げられるのも、魔力の才能ゆえの恐怖もありますが、動物たちに代わる仮想敵を作るため、という側面があるのでしょう。人をまとめるには、共通する恐怖の対象が必要というのは何とも世知辛い。少なくとも一幕時点で、エルファバは人々に何か被害を与えたようなことはなかったはずなので、今風に言えばフェイクニュースの被害者とも言えるかもしれません。

善と悪、真実と嘘

善悪すらも、絶対的なものではない。作中でオズの陛下が歌うように、「人々が信じたことが歴史」。裏返せば、信じさせてしまえばそれが真実になる。善い魔女、悪い魔女の定義も、オズの政府が決めています。

何が善で何が悪か。優しさは善なのか。力を持つことは悪なのか。その答えは誰が決めるものなのか。作中では「ポピュラー」な、つまり多数派が信じたことが善悪を決めるという風潮が強いですが、果たしてそれは「正しい」のだろうか?という問いかけも同時に考えさせられます。

僕は「悪役にも実は人間らしい面があってね」みたいなストーリーは特段好きではないのですが、「そもそも悪役は本当に悪役なのだろうか」と問いかけるストーリーは好きです。

人々はエルファバを悪い魔女だと言いましたが、本当の魔女は、人々の心の弱さ、それなのかもしれません。

そして最後に、エルファバが「悪い」人ではないことを知っているのはグリンダのみとなりました。エルファバにとっては、世間にどう蔑まれようとも、グリンダが真実を知っていてくれさえいればそれでいい。諍いあった二人の絆が、ここまで強かったのかと感じる二幕ラスト。

でも、エルファバが生きていることはグリンダも知らない。グリンダが信じている真実は、「ウィキッドはウィキッドではない」ということであって、「エルファバは生きている」ということは知らずに生きていく。全ての真実を知っているのは、グリンダとカカシになったフィエロだけ。まさに真実はどこにあるか分からない。

のぞまれる姿を演じる

自身の望む姿と、周囲に望まれる姿。

グリンダはその2つが一致しているところが強く、その上にエルファバの望みを託されて「善い魔女」となる。エルファバは自身の望む姿をグリンダに託して、「悪い魔女」として人々に恨まれ嫌われる役を買って出る。グリンダもエルファバも、ふたりとも人々に愛されたいと願っているのに、結果はこうも異なるという運命の悲しさ。

人は時に、その場面に応じて、あるいは周囲との関係性などによって、あるべき姿を「演じる」もの。だからこそ、見かけだけでは相手のことはわからない。

グリンダとエルファバが、当初は互いの振る舞いに嫌悪を示しながら友情を築き上げていくのも、フィエロがエルファバに惹かれていくのも、見た目の奥にある心の内を視ているから。

登場人物の中では、オズの陛下も周囲の望む姿を演じていました。彼もグリンダと同様に、自身の望む姿と一致するところがありますが、グリンダと違うのはより利己的なところ。皆の父になりたいと言いながら、結果的に実の娘であったエルファバを不幸に陥れるところがなんとも皮肉で腹立たしい。そもそもこの人の遊び癖のせいでエルファバは緑色の肌になったわけですし。自分をセンチメンタルとかワンダフルとか言ってしまうあたり、総じて自分大好き能天気な感じのキャラクターなので、一層腹立たしい(キャストさんに罪はありません)。

僕は「オペラ座」でもファントムに感情移入するので、ウィキッドでもダークヒロインなエルファバ寄りの見方になってしまいますが、最後にグリンダが背負ったものもあまりに重く大きくて、決してハッピーエンドとは言えない辛さがあります。「善い魔女」を演じ続けなければならないのですから。

自由とは

ノートルダムの鐘、アナ雪、アラジンなど、劇団四季の人気作にもしかすると共通するかもしれないテーマ。

ウィキッドでは一幕ラストの「自由を求めて(Defying gravity)」が象徴的。魔力を使ってはならない、妹に負い目を感じながら支えなければならない、魔法をオズの陰謀のために使わなくてはならない。様々なしがらみに対する宣戦布告。
ウィキッドの中でも、もといミュージカル界の屈指の人気曲ですが、エルファバ役の三井さんのパフォーマンス、圧巻でした。

結局、友とは別れることになり、愛した人を喪い、人々に愛される望みも失ったエルファバ。最後、彼女はカカシの体のフィエロとともにオズの国を静かに去っていきますが、ある意味彼女にとっては、ようやく手に入れられた「自由」なのかも。

まとめ

わざわざ東京に来た甲斐がありました。救いがあるようでどこか哀しい、哀しいけれども愛がある、ワンダフルを超えてファンタスティックな作品。

初見での感想として、noteではだいぶメッセージ重めの雰囲気になりましたが、魔法の再現技術とか、「星屑ダンス」「エメラルドシティ」の華やかさとか、コメディタッチのシーンとか、スチームを吹くドラゴン像とか、ミュージカルらしいエンタメの髄を尽くした素晴らしい作品です。

ストーリーでは、僕は今回初見でエルファバに感情移入しましたが、何回か見るとグリンダの視点でも異なる感情が見えてきそうな予感がいたします。

ウィキッド以外でも、今年観た作品で心打たれたのは友情ものが多かった気がします(マリー・キュリー、アンドレ・デジールなど)。
加えて僕が観劇した日は、マチネで濱田めぐみさん(と我がプリンス万里生くん)のジョン&ジェンを観ていたので、かつて濱めぐさんもエルファバやってはったんやなぁとちょっと感慨深かったです。濱めぐさんのエルファバは、音源化されているので今も聴けます。


さて、そんなウィキッド、東京での期間限定公演が終わると、なんと大阪にやってきます!関西の民としては、これはもうエメラルドシティに通うしかない!公四季さん、チケットご用意してね!

2024年の夏はエメラルド色に染まりそうです。今から楽しみ。

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