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武士道は不死鳥のごとく甦る

□景色

武士道chivalryは、日本の標章である桜の花にまさるとも劣らない、我が国土に根ざした花である。(『武士道』)

日本人論は、日本人に足りない点、悪い点を指摘しそれを正そうという方法をとるのがふつうだが、『武士道』は外国人の日本に対する誤解を解くため日本の美点をあげていく方法をとる。

日本には日本の価値観があり、道徳があり、伝統があり、文化がある。グローバルスタンダードではないけれども、そうでなければならない必然性はどこにもない。いま、多くの人がいやおうなしに押し付けられる欧米流の論理に疑問を感じている。それがなぜなのか理解し、日本人の思考様式というものを自覚するために、この本は読み継がれていく価値と必要がある。

□本

『新渡戸稲造 武士道 100分de名著』
山本博文 NHK出版 2012年

はじめに
第1章 正義 日本人の美徳
第2章 名誉 日本人の責任の取り方
第3章 忍耐 謎のほほ笑み
第4章 武士道 その光と影

□要約

武士道は、語句の意味で言えば、戦う騎士の道、——すなわち戦士がその職業や日常生活において守べき道を意味する。ひと言で言えば、「戦士の掟」、つまり戦士階級における「ノブレス・オブリージュnoblesse oblige[高貴な身分に伴う義務]」のことである。

武士道の徳目の義、勇、智、仁、礼、信に支えられ最上位に位置する忠は、主君への諂いや追従ではない。自らの名誉をかけた行動である。

日本人は、武士道の「勇」の徳により物も言わずに苦痛に耐える忍耐力をつけ、「礼」の徳により相手を思いやり、自らの感情をあらわにしない態度を身につけた。そして両者は統合されストイックな「克己」という気質を生んだ。切腹は克己の極地であり、強い精神力なくしてはなし得ず、武士の身分にふさわしいものとされ「名誉」とされた。

武士の美徳は、わが国の国民の一般的水準よりもはるかに高いものだった。・・・最初に武士道として結実した倫理体系は、時がたつにつれて大衆からの追随者を呼び込んだ。・・・過去の日本は、武士の賜物である。・・・武士は、社会的には民衆のはるか高い位置に置かれたが、民衆に道徳的基準を示し、その模範となって導いた。
武士道は、当初はエリートの栄光として始まったが、時とともに国民全体のあこがれとなり、鼓舞するものとなった。・・・「大和魂」すなわち日本の魂は、ついにこの島国の民族精神を表現するに至った。

新渡戸は武士道を賞賛しながら、今や武士道は滅びつつあるという認識に立つ。しかし同時に、武士道は滅びた後にもその灰のなかから甦る不死鳥のように、日本の将来を照らすだろうと予言する。

武士道は、独立した倫理の掟としては消えるかもしれない。しかし、その力は、この地上から滅び去ることはないだろう。武人の勇気や名誉の教訓は、破壊されるかもしれない。しかし、その光と栄誉は、その廃墟を越えて長く生き延びるだろう。その象徴とする花のように、四方からの風に散った後もなお、人生を豊かにするその香りで、人類を祝福するだろう。

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