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[イベントレポート] 日本と台湾のサステナブルデザインの今 |記念トークイベント#2

「未来の花見:台湾ハウス」を記念したトークイベント。2回目のテーマは「サステナブルデザイン」です。ファシリテーターにNOSIGNERの名前でデザイン・社会活動を展開する太刀川英輔さん、スピーカーに、日本からは廃棄物を価値ある素材にリサイクルするナカダイ社長の中台澄之さん、台湾からは廃棄物を建材などにアップサイクルするエンジニア集団MINIWIZ(ミニウィズ)CEOの黄謙智(アーサー・ホワン)さんを迎えて行われました。

日台を代表するサステナブルの翻訳者たちによるトーク

「サステナブルの言葉の裏には、このままでは地球、そして人類の文明は持続不可能になってしまうことが込められている」とトークの口火を切った太刀川さん。そうした中、各地域で進める素材の循環は極めて重要な解決策に成り得るが、「捨てられたゴミを価値ある素材にしていくにはクリエイティビティが伴い、ゴミを価値に転換できる翻訳者が必要」と指摘します。今回のスピーカーは日台を代表するそんなサステナブルの翻訳者と言えるでしょう。
 
「思うように進んでいない循環経済を科学とテクノロジーの力で実践させる」とアーサーさんがMINIWIZを起業したのが2005年のこと。以来、廃棄物から建築や商業施設の内装、それにプロダクトに使える1200を超す素材を開発しています。プロジェクトに当たってはいくつか決まり事を設けており、「まず廃棄物はすべてプロジェクトを進める地元で回収し、地元の人たちと開発する」。時間や労力、それに運搬することで排出するCO2の削減などが狙いです。

また、「材料から壁や家具などをつくる際は接着剤を使わないジョイント式にする」。材料を一度使い終わったからといって捨てるのではなく、2次、3次と永続的に使っていけることはあらかじめ想定しています。彼らが「ナイキラボ」などファッション店舗をよく手掛けるのも、「そうした空間は厳しいレギュレーションがある。そこに順守していける建材を目指せば、必然的に高い機能性や安全性、耐久性を獲得できる」からです。

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写真提供:Nike

コロナ禍でも精力的な活動は止まることがありませんでした。台湾の病院と共同で電子製品以外はすべて廃棄物でつくったモジュール式病棟「MAC(Modular Adaptable Convertible)ward」を発表しました。このMAC wardは必要のある場所に運んで24時間で組み立てられる機動性と、隔離病棟からICU(集中治療室)、一般病棟までに構造を変換できる柔軟性を持ち合わせているため、「今後、学校の教室やホテル、実験室などいろんな需要に応えて発展できる」そうです。

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写真提供:TDRI

数々の「世界初」を発表してきたアーサーさんたちは「TRASHPRESSO(トラッシュプレッソ)」という廃棄物リサイクルシステムまで開発しています。トラックなどで運べる可動式で、しかも太陽光発電で稼働するオフグリッド型です。そしてロボットによって廃棄物の洗浄、細断、溶解、成形を自動的に行ってしまう。100万枚のマスクを、4万個のワイヤレス充電器に再生することができるというから驚きです。対するナカダイも負けていません。

「使い方を創造し、捨て方をデザインする循環ビジネス」を掲げ、中台さんは「捨てたモノをデザインするのではなく、捨て方をデザインする」ことにこだわってきました。前橋にある工場では毎日60トンに及ぶ廃棄物を受け入れ、実に99%のリサイクル率を実現しているというから凄い。廃棄物がほとんど廃棄されていないことになるわけです。

ではいかにして高いリサイクル率が可能となったのか。中台さんは「どうやったら廃棄物を使えるモノにできるのか、一緒に取り組んでくれるコラボレーターを増やすことに専念してきた」と語ります。まず建築家やデザイナーたちに「廃棄物は楽しく、クリエイティブな素材であること」を様々な展示イベントを通してアピールしました。建築家の隈研吾さんと組んで、廃棄自転車から解体した300の車輪を意匠に使った居酒屋をプロデュースするなど、徐々に実を結んでいます。

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写真提供:株式会社ナカダイ

「一般の人たちにも廃棄物の価値を紹介する必要がある」とブックオフと「REMARKET」という店も開設しています。店内には、ゴルフのパターをハンガーに、跳び箱をソファーにリメークしたものや、製品としては使えないがインテリアとして取り込める昔懐かしい電話や時計、ラジカセ類、それに細かな素材ごとに選別した「マテリアルライブラリー」を設置。店を通して「廃棄されたけど、まだまだ楽しめるモノが散らばっている」というメッセージを届けています。

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写真提供:株式会社ナカダイ

2人のプレゼンを聞いていた太刀川さんは2006年にNOSIGNERの活動を始めました。彼のオフィス空間もまた、なんと大量の解体時に発生した建築廃材をアップサイクルしてデザインされたものです。そして実はMINIWIZの創業が2005年、中台さんが回収業から今のビジネスに乗り出したのも2006年。「ともに同じ時期に同じアクションを始めたことは興味深い」としながら、「始めた当時はサステナブルデザインへの理解は薄かったけど、ここ数年で世間の関心度や注目度が変わってきた」。時代がようやく追いついてきたと言います。

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写真提供:NOSIGNER

中台さんは、「僕ら回収業はゴミを集めれば集めるほど利益が出るが、それでは時代に逆行してしまう。ゴミを減らして利益が出る会社にすべきだと15年前から廃棄物の価値の発見とそれを生み出す仕組みづくりをひたすらやってきた」と振り返ります。「ただ、まだまだ壁が立ちはだかっている」。

日本では廃棄物を分別しても、そこから新たな素材に再生する技術が思うように進んでおらず、たとえ再生できても廃棄物からの再生物を積極的に使おうとする風土やカルチャーも根付いていない。そんなもどかしさを明かします。「その意味では、今回のトークイベントでアーサーとの連携が何より急務だと感じた。アーサー、日本に住んでくれない?」とラブコールを送ります。

それを受けたアーサーさんは、「廃棄物を価値あるモノに転換する。それには再生した材料の使い道があり、買ってくれる人がいてはじめて可能となる」。そこで建築ディベロッパーと手を組んで、彼らが欲する建材の開発に力を入れています。「3m×2mの壁をつくるのに3トンの廃棄物を要する。なので、ひとつの建築物をつくるのに最低でも100トンの廃棄物が必要となる」。建材にすることで、大量のゴミを効率的に処理し循環できると強調します。

トークの最後、「おふたりの素晴らしい功績がある半面、世界では廃棄物の9割がリサイクルされていない現状が横たわっている」という太刀川さんの言葉に2人は大きく頷く。「地球環境は何かが起こってしまってからでは遅い。だから、環境ビジネスは未然に防ぐビジネスで、課題解決ビジネスではないと考える」と中台さんが語れば、43歳のアーサーさんは「僕らから下の世代は、親世代が行った大量生産大量消費が間違ったことだったことに気が付き、モノを大切にする消費行動をとろうとしている」と次世代に期待を寄せる。

「いずれにしても、2人のようなプレイヤーがまだまだ足りていない。文明の危機を救う仲間をもっと増やしていかなければ」と太刀川さんは視聴者に呼び掛けました。

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開催情報:
「未来の花見:台湾ハウス」 京都展
日付:2021年10月23日(土)-11月7日(日)
時間:10:00~18:00
会場:ザ ターミナル キョウト(入場無料) 
   京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町424番地
TEL :075-344-2544
公式サイト :https://www.taiwannow.org/jp/program?id=1


■今後開催の記念オンライントークセッション
記念トークイベント #5
生きるリノベーション
2021年10月29日(金)19:00 ~ 20:30(日本時間)
お申し込みURL : https://taiwanhouse-211029.peatix.com/

記念トークイベント #6
変化の時代の暮らし方と働き方
2021年11月05日(金)19:00 ~ 20:30(日本時間)
お申し込みURL : https://taiwanhouse-211105.peatix.com/


主催|経済部工業局
実施|台湾デザイン研究院
協力|財団法人文化台湾基金会、公益財団法人日本デザイン振興会、ザ ターミナル キョウト
キュレーター|Plan b、Double-Grass
アドバイザー|method inc.