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台北 ベーコンさんが改築した、有名な健康祈願のお寺を見学してみる

台北にある健康祈願で有名なお寺、保安宮に行ったときのことです。
本殿で健康の神様、保安大帝をお参りしていると、
「管理人陳培根」
と書いてあるのを見つけました。
培根とは、中国語で「ベーコン」のことです。

管理人の名前は
陳ベーコン
 
真剣な顔をしてお参りしている人の隣で思わず吹き出しそうになり、慌てて口を押えました。
 
ベーコンさんは誰? 本当にこんな名前の人がいるの?
と思いお寺の公式ホームページで調べてみると、ベーコンさんは大正時代に実施した大改築プロジェクトの責任者の一人だったと説明があります。

大龍峒保安宮公式ホームページ
 
ベーコンさんは、とてもすごい人だったんですね。
大変失礼しました。
 
ベーコンさんが改築したこのお寺に親しみを感じ、もっと詳しく知りたいと思い勉強してみました。

台湾のお寺は屋根や壁に彫刻がたくさん施されています。これら一つひとつに意味があり、三国志のような中国の古典を題材にしたものや、縁起の良い言葉をかけあわせたものなどがあります。
あまりにも奥が深く、私の頭では100年勉強しても到底理解できません!
 
それでも、興味深いエピソードをいくつか見つけたので、挙げてみます。
 

狛犬の口に秘められたストーリー

台湾のお寺でも日本の神社にあるような狛犬をみかけますが、これらは犬ではなく獅子です。
右側がオス、左側の子供がいるのがメスです。

右側のオス
左側のメス
足元に子供がいます


台湾では「男左女右」という考え方があり、このような配置になっています。

右と左が逆では?と思った方、正解です(ピンポーン!)

神様から見た場合の左と右なので、私たちから見ると反対になります。
ややこしいですね。

日本の狛犬は片方は口が開いていて、もう片方は口が閉じていることが多いのですが、ここの獅子は両方とも口が開いています。

公式ホームページでは、石大工が間違えて両方とも口を開けて作ってしまったと紹介しています。

ほかにも、女性の立場を表しているという説もあります。
清の時代、女性は黙って男性の意見に従うことが美徳とされており、この時代に作られたメスの獅子は口が閉じていました。
日本時代になって、女性も教育を受け自分の意見を言えるようになったので、メスも口を開けて作られるようになったそうです。

何気なく見ていただけの獅子の口にも、面白いストーリーがあるのですね。

ライバル同士の火花を散らす戦いの名残

屋根の梁には、金色に輝く木の彫刻が施されています。
よく見ると左と右でデザインが違います。

右側の彫刻 中国の古典「美女宴春図」を題材に優雅な雰囲気を表現しています
左側の彫刻 戦場の様子を表現しており、西洋風の建物や外国人がいます
「真手藝無更改」と彫られています

大正時代に改築したとき、左右で違う宮大工が競い合うようにして建てたので、大工の趣味にあわせてデザインが異なっています。

右側は中国古典を題材にした伝統的な彫刻ですが、左側は外国風の建物で人物も外国人のように見えます。

右側を担当した宮大工が「左側の彫刻はお寺にはふさわしくない」と言い、けんかを売ってきました。
そこで左側の宮大工は
「真手藝無更改」(本物の手技は修正しない)
「好工手不補接」(腕の良い職人は後から付け足すことはしない)
と彫って、自分の方が技術が上であることをアピールしました。

ライバル同士の火花を散らす戦いが目に浮かんできます。
左側を担当した宮大工は国際色豊かな発想のようで、西洋人の紳士淑女の姿も彫っています。

西洋人の紳士淑女

陽と陰の絶妙なバランスの窓

境内に入って窓枠を見ると、大正七年と改築した年が彫られています。
日本の年号を見つけると、とても親近感がわきますね。

陽と陰のバランスを表す窓枠


窓の中の柱は、3本や5本のように奇数になっています。柱の間の空間は反対に偶数になります。
道教では奇数は陽を、偶数は陰を表し、陽と陰のバランスがとれているのが良い状態としています。この窓は、陽と陰のバランスがとれていることを表しています。

優雅な柱

本殿の裏の建物の柱も特徴があります。
お寺の柱は龍が力強く彫られているのが普通ですが、ここの柱は牡丹とスズメになっています。とても優雅でやさしそうな柱です。


神様のマンションから龍の舞を鑑賞

さらに奥に行くと4階建ての近代的なビルになっていて、各フロアに神様が祭られています。神様用のマンションですね。
上のフロアからお寺の建物の後ろ姿を眺めると、屋根の上で龍が舞い踊っているように見えます。
日本では見ることができない台湾らしい光景を、心ゆくまで鑑賞してください。


 シュールな人形が迎えてくれる庭園

保安宮の向かいには庭園もあります。ここも忘れずに行ってみてください。保安宮に祭られている保安大帝は実在した人で、有名な医者でした。「點龍眼,醫虎喉(龍の目に薬をさし、虎の喉の痛みを治す)」という言葉が残っているほど、どんな病気でも治したと言われています。
庭園には、これらを再現したちょっとシュールな人形が並んでいます。

保安大帝が龍の目に薬をさしている様子

夕方暗くなってから行くには、勇気がいるかもしれません。
奥の方に行くと、龍が元気よく水を吹き出している池があります。
見ているだけでご利益がありそうです。

今回はベーコンさんのおかげで、とても楽しく保安宮の鑑賞ができました。
 ベーコンさん、ありがとう!

台湾では仏教のお寺を「寺」、道教のお寺を「廟」と呼び区別しています。
保安宮は道教なので「廟」と呼ぶのが正しいのですが、この投稿では日本式に「お寺」と呼んでいます。

大龍峒保安宮
住所 台北市大同區哈密街61號
交通 台北MRT淡水信義線圓山駅から歩いて約10分


参考にした資料
大龍峒保安宮 公式ホームページ(中国語、日本語)
・大龍峒保安宮 宗教建築芸術ガイド(日本語版) 
   財団法人台北保安宮 発行
・青田七六主催 保安宮ガイドツアー(中国語)

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