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【Interview】 デザイナー/アニメーター/撮影監督:能勢恵弘 | 「自分にできることを積極的に取り組んで楽しくやっていたら、こうなっていました。」

太陽企画で働く仲間のインタビューをもとに、映像制作のヒントやクリエイターの"スキ”をお届けする 「#たいようのヒト」。
今回は、“ものづくりスピリット”を集結した弊社のコンテンツクラフトチーム「TECARAT」に所属し、肩書きにこだわらずマルチに活躍している能勢恵弘(のせ よしひろ)さんにお話を聞きました。


▷「僧侶」との二足の草鞋


── 能勢さんの肩書きは、「デザイナー/アニメーター/撮影監督」ですが、現職を目指したきっかけを教えてください。

現在に至るまでは紆余曲折ありましたが、ひとことで言うと「成り行き」です。
小さい頃から物を作ったり、絵を描いたりすることは好きだったのですが、特に現職を目指していたわけではなく、自分にできることを積極的に取り組んで楽しくやっていたら「デザイナー/アニメーター/撮影監督」という肩書きになっていました。


── 紆余曲折の中に「僧侶」を目指していた時期も含まれるかと思いますが、その経緯を教えてください。

僧侶を目指したのは僕の意思では無く、完全に家の事情です。
武蔵野美術大学を卒業後、祖父に言われてイヤイヤながらに高野山大学に入り「僧侶」の資格を取得しました。
自分から望んで行ったわけではないのですが、1200年の歴史ある修行の地で過ごすことで、ちゃらんぽらんだった人間性が少し叩き直されて、社会でなんとかやっていけるくらいになりました(笑)。今ではその経験にとても感謝しています。南無大師遍照金剛。


── 高野山を下山した後に、太陽企画のTECARATに入社されたんですね。

下山からしばらく経った時に、武蔵美時代の同級生で八代さんのチームで働いていた廣木さんから、八代監督のストップモーションアニメーション作品「眠れない夜の月」のフリー制作スタッフとして誘われました。
その後、2015年の「TECARAT」発足時にメンバーとしてお声かけをいただき、正式に太陽企画に入社という形になります。

▷肩書きにこだわらずマルチに活躍


── その「眠れない夜の月」の製作に参加されたことが、能勢さんの1つのターニングポイントになったんですね。

「眠れない夜の月」の現場が特殊で、通常は誰が撮影で、誰が照明で、美術で、というようにそれぞれが役割分担されているのですが、「眠れない夜の月」の現場はそうではなかったんです。
カメラマンとか照明技師みたいな、いわゆるプロフェッショナルもいなくて、基本的には八代さんの感覚で、できる人ができるときに空いている役割をやる、みたいなスタイルで作っていました。そんな現場で、美術や撮影設計などを担当することができて、それがめちゃくちゃ楽しかったんです。

その後の八代監督作品「ノーマン・ザ・ノーマン 〜流れ星のふる夜に〜」や「劇場版 ごん - GON, THE LITTLE FOX -」も同じような作り方で、自分ができることを積極的に取り組んでいった結果、今の肩書きになっていました。


── いろいろな事を器用にこなすマルチな能勢さんですが、ご自身が得意とすることは何かありますか?

「特別これが得意です!」というものはないのですが、強いて言えば「作る」ということには貪欲に取り組んでいるのかなと。
単にモノを作ることだけじゃなく、空間だったり画作りや仕組みだったり、また時には3Dデータだったり給水配管だったりするのですが、とにかく何か作るときには、やったことがないことでも萎縮せず、さぐりさぐりでも自分のセンスを信じてトライしています。
もちろん失敗もするし、しょぼく終わることもありますが(笑)。

▷お気に入りの道具紹介


── そのモノ作りで、欠かせない7つ道具的なものはありますか?

いつも欠かせない7つ道具みたいものって意外となくて、案件ごとに必要な道具はいつも違うので、どんな仕事の時でも毎回欠かせないものって、多分「えんぴつ」くらいです。
なので、最近役に立ったものやお気に入りの道具をいくつか紹介します。マニアックで長いので、興味ない人は読み飛ばし推奨です!


① Bの鉛筆

スケッチ描いたり、パース描いたり、寸法記したり、メモを取ったり何かと色々使います。鉛筆を立てたり寝かせたりでタッチを使い分けられるのも◎
長さは写真のこれくらいのやつが取り回しよく、耳に馴染むので好きです。


② ビット

ちょっとマニアックです。
木ネジを打つのに使うインパクトドライバーの先っちょについてる、六角軸の+ビットです。
「いやいや奥さん、そんなんどれも一緒でしょ?」いーえ!違うんです!
この「ANEXダイヤモンド龍靭ビット」僕が使ってきた中で最強のビットです。ビットの先っちょにダイヤモンド粒子が電着されていて喰いつきがめっちゃいい!喰いつきがいいとカムアウト(ネジ頭がなめる、溝崩れする)しづらいし、ビスを落っことしづらい!ANEXダイヤモンド龍靭ビットはインパクトビット界に革新をもたらした逸品です!https://www.anextool.co.jp/item/adrs-2110/


③  カッティングプロッター

これもマニアックなのですが、カッティングシートとか紙なんかを指定の形に切ってくれる機械です。いわゆる切り文字とかシルエットとかを作りたい時に使います。
僕が美術で携わった「銀河高原ビール『心の一人旅』」みたいな、大量のシルエット作成とかがあったときに、手で切っていたらもうー大変!そんな時、これがあればカットは機械にお任せで、とても助かる!しかもお値段もなかなか手頃!一家に一台!ぜひ!

▽ 銀河高原ビール 「心の一人旅」


④  釿(ちょうな)

めちゃくちゃマニアックです。
後述する「HIDARI」のセットを作る時に使った、いにしえの大工道具。
製材技術の発達した昨今では、まず使うことはなくなった道具で、ホームセンターとかに行っても売ってないです。
これは、僕のじいちゃんの形見です。じいちゃんは庭にほったて小屋とかを自分で作ってた、DIYガチ勢みたいなひと。そのじいちゃんが使ってた道具を、世代を超えて孫の僕に継承されてるってことにちょっとしたロマン的なものを感じています。
使い方はこちら:https://youtu.be/el3Z-FwGxv8


半分以上はブロガーのおすすめガジェット記事みたいになってしまいました。ご容赦ください。
ほんとうは美術以外にも撮影とか照明の便利アイテム・カメラなど、紹介したいものがいっぱいあるのですが、長くなるので自重します!


▷ ストップモーション時代劇「HIDARI」での役割


── お気に入りの道具紹介でも話にでましたが、ストップモーション時代劇「HIDARI」のパイロットフィルム製作にも能勢さんは携わられていますよね?

美術デザイン・美術セット・小道具制作など、人形以外の美術をやらせていただきました。
美術セットはデザインイメージを受けてどういうセットにするか、スタディ模型(設計の初期段階でプランの確認を行うために作る模型のこと)の製作から始まり、材料の調達、平面図作成、土台の設計・施工、材の加工から建て込み、塗装、装飾品の調達、飾り込み、などなどなどな感じで、小道具制作は主人公の背負っている道具箱を、セット同様スタディ模型から作りました。

▽ ストップモーション時代劇「HIDARI」パイロットフィルム


── セットや道具箱の作り込み感がすごいですが、「HIDARI」の美術を制作していた中で、1番大変だったこと・こだわった点があれば、教えてください。

材の調達と加工です。正直あまりお金が使えない中で、どうしたら凄みのあるセットになるか、苦心しました。その凄みを出すために梁・桁・柱などの材は最大で4mの流木を拾ってきて釿でハツリました。

この「ハツリ」という作業がとても大変でして、横になった刃で材料を引っ叩くようにしてちょっとずつ削っていくのですが、何百回と叩きこむのでその衝撃とか振動が手に蓄積していくんです。
普段そんなことをしないやわやわハンドなもんだから、手の皮はズルズルに剥けちゃったし、関節はいわゆるバネ指になっちゃって閉じきらなくなっちゃいました。地味で大変な作業ですが、これをやっただけの効果が画にでていると思っています。

有名なプロダクションデザイナーである種田陽平さんが、「美術制作はディティールの積み重ね。」みたいなことをおっしゃっており、「HIDARI」のセットは、そんなディティールの積み重ねで顕れる魅力を体現できたと思っています。

▷バイブスを上げながら作っていくのが大事


── 種田さんの「美術制作はディティールの積み重ね。」という発言のように、能勢さんが映像制作に対して持っているモットーみたいなものはありますか?

あまり考えたことはないですが「まず手を動かす」ということでしょうか。
作る時は見切り発車でもいいから、まず行動に移すようにしています。

失敗しないように綿密に計画を立ててやることももちろん大事とは思いますが、頭だけで考えていると見えてことないことも多いので、作りながら考える方が性に合っています。
手を動かし始めるとだんだん楽しくもなってくるので、そうやってバイブス上げながら作っていくのが大事だと思っています。


──「HIDARI」の他に、最近能勢さんが携わった作品で印象深いものがあれば、教えてください。

僕が撮影監督・人形造形・美術などで携わらせていただいた、「WOWOW」さんとアニメーションスタジオの「ドワーフ」さんとが共同製作されたオリジナルキャラクターのショートアニメ「ウーとワーの漂流記 〜そうなんです〜」です。

この案件では、同じ形で色違いの人形をそれぞれ2組ずつ、且つサイズ違いも2組ずつ作らなくてはいけなかったんです。

通常人形などを作るときは、まず原型を作って、次にその原型を元に雌型を作って、樹脂を流し込んで、というステップで作成しています。
数が多い場合はその個数分の作業が必要になり、更にもし何か修正が入った場合は、また原型からの作り直しで、「きーーーーっっっ!」となってしまうんです。

なので、今回は「きーーー!」とならないよう、3Dプリンタで作成することにしました。3Dプリンタであれば、同じ物を数個作ることはお手のものだし、サイズ違いは縮小してプリントすれば良いだけなので、格段に作業を楽に進めることができました。
それと、3Dデータであれば、データの段階でデザイナーさんとかと検証もできるので、その点もとても強みだと思いました。

▷ 今後の目標


── 新しい技術にも取り組まれているんですね。他に今後挑戦したいことや目標は何かありますか?

やっぱり自分の作品を作りたいですね。と言うより、「作らなきゃなー」と思っています。なかなか実現は難しいのですが。。。
当面の目標は、もっともっと自分でできることを増やしていって「プロダクションひとり」くらいになれると一区切りですかね。生きているうちになれたらいいなと。


── 「プロダクションひとり」と言えば、以前に能勢さんお一人で作られた、ストップモーションアニメーション作品がありましたね。

「さるかにがっせん」ですね。作品というには甚だおこがましいものではありますが…。


── 「完」が出てきた時には、私も思わず「終わり?」と言ってしまいました(笑)。能勢さんの次回作を楽しみしております。
最後に、この記事を読んでくださっている方にひと言をいただいて、締めたいと思います。

能勢のわかりづらい説明、少し恥ずかしいモノづくりへの思い的なものを最後まで根気強く読んでくださった方、心よりありがとうございます!
ちょっとでも面白かったとか興味深かったとか思っていただけたら幸いです。合掌


── ありがとうございました。


▷「思い出の一曲」

「#たいようのヒト」のおまけコーナーである、能勢さんの<思い出の一曲>はこちら!

▷ eastern youth「ズッコケ問答」

<能勢さん コメント>
ティーンのときからずっと信者です。
ベース、ドラム、ギター、ボイス(イースタンのボーカルはボーカルと言われず“ボイス”と言われています!)のいわゆる3ピースバンドなんですが、ほんとに3人だけ?!っと思うほど、それぞれの演奏の圧がすごい。
で、それがごちゃ混ぜになって聞こえる音も決して聴きやすくはないんですが、もーそれが最高に好きです!それに、演奏以外なりふり構わない感じもまたカッコいいんです。

そして、この歌詞ですよ。
「ぶっ壊して!また作ってやる!!!」
 
日々モノを作ったり壊したりしている僕には、ど直撃でぶっ刺ささるのです。
「ぶっこわしてまた作ってやるー!!!!そう!なんどでもーーーーー!!!」 
刺さります。



最後までご覧いただき、ありがとうございました。

【PROFILE 】
能勢 恵弘|YOSHIHIRO NOSE
デザイナー / アニメーター / 撮影監督
武蔵野美術大学 空間演出デザイン学科卒 / 高野山大学 密教学科卒。
現在、太陽企画のコンテンツクラフトチーム「TECARAT」に所属。
美術制作を中心に活動。何事も追求する性があり、幅広い要望に対して遂行力がある。
モーションコントロールの知識も持ち、ストップモーションアニメーション撮影監督も務める。
 
🎬 WORKS|カーセンサー「オンライン相談」WEB CM、法務省/吉本興業「あなたは、ひとりじゃない。」編、銀河高原ビール「心の一人旅」、Vaundy × Morisawa Fonts「置き⼿紙」MV、「劇場版 ごん – GON, THE LITTLE FOX」、「HIDARI」パイロットフィルム、など。
 
▷ TECARATサイト:https://tecarat.jp/


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