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相談支援専門員はどうあるべきか【様々な声から感じる危惧と可能性】

相談支援専門員と言う役割は、かつての支援費制度から障害者自立支援法、障害者総合支援法と、より利用者本位に立った制度が熟成されてきた中で設立された「相談支援」の専門家である。

これらの制度に関しては詳細は割愛するが、設立当初の現場の混乱は今でも記憶に新しい。


当時私が所属していた法人でも早急に利用者の契約手法の精査が求められ、自治体に求められるがままに相談支援部門の新設、相談支援専門員の研修派遣→配置が急ピッチで進められた。

私もその大波の中で研修を受講し、相談支援専門員の資格を得た。当時は他部署でサービス管理責任者を務めていたこともあり、業務的に兼任となった私はそこから数年後バーンアウトするまで極多忙な時間を強いられることとなる。



しかし、相談支援専門員が本来担うとされている役割は、個人的にはとても魅力的だった。路頭に迷う潜在的サービス利用者に道標を与えられるこの役割は、多くの人をより良い生活へ導くことができるのでは。そしてその一人一人のキーパーソンとして、ある種人生を支えるパートナーとなれるこの役割にはやりがいを強く感じた。それは今でも変わっていない。



しかし、一方で相談支援の制度そのものが未成熟のまま現在に至るまで運用されてしまい、相談支援事業所ごとの格差は激しい。私もマネジメント側としても様々な事業所の相談支援専門員と関わりを持ったが、これほどまでに人(或るいは事業所)によってスタンスが変わるものかと唖然とした



確かに相談支援専門員の仕事の柱は何かと問われると「サービス等利用計画の作成」と答えざるを得ない。加えて言うならば、計画作成までにはいくつかのプロセスがあり、本人も含めた多職種間・関係者連携や担当者会議等の段取りを経た上でサービス等利用計画が練られることとなる。この図は相談支援に少しでも関わったことがある人なら幾度となく目にした図であろう。


指定特定相談支援事業者(計画作成担当)と障害福祉サービス事業者の関係


正直なところ、このプロセスを実直に順を追って進めているところは少ないと思われる。

例えば、私もかつて同時に50名程度の計画相談に携わっていたが、この段取りを一定期間で50回こなすのは不可能と言っても過言でない。


多くの特定相談支援事業所はこの基本的なプロセスの流れの中で、工夫し効率的に進めていく。くどいようだが、これらの目的はあくまでサービス利用者がその状況やニーズに合った福祉サービスにつながり、質の高い支援を受けながら将来の自立や安心した暮らしにつながること。



しかし、実態としては、「障害サービス受給者証の発行」が最終目的となってしまっている。



事業所としては「一日も早く自社のサービスを利用してもらうため」にこういったゴールになることは心情的にはわからなくもない。

私もかつて早急にグループホーム入居を勧めなければいけないケースにおいて、市区町村に手続きを急かしたものである。受給者証が無事届けば一安心。さて次の計画書を・・という流れで仕事をしていた。


これでは、ただ手続きが複雑化、誤解恐れず言うと「面倒臭くなった」だけと捉えられてしまう。だからこそ先ほど述べたような様々なスタンスの相談支援事業所が実存するのである。

深くは切り込まないが「計画書さえ作っていればそれでよい」という由々しきスタンスだ。相談員個人と言うよりも、事業所がそのような方針としているケースが非常に多い。中には本人と一度も会うことも話すこともなく、なぜか計画書だけ出来上がっているところすらある。



話はそれるが、思い出したことがある。


キャリア相談員として勤務していた頃、とある公的機関で相談支援専門員募集の求人が出されていた。しかし「資格不問」とだけ書かれており、少なくとも研修受講済・或いは必要実務経験クリアの但し書きが必要と思い、問い合わせてみた。

担当の職員からは「なくても大丈夫です」とあっけらかんとした返答だった。お節介と感じつつも相談支援専門員として配置するための諸条件について説明すると「あ、そうなのですか・・?ちょっと確認します」と上司に尋ねて来たようだが、結果「いや、大丈夫とのことです」何が大丈夫なのだろうか。

結局公的機関であってもこの程度の理解レベルなのである。(少し厳しい言い方になってしまった)



これらには同情する余地もある。


手続きが「複雑・面倒」になった一番の被害者はサービス利用者本人である。

多くの利用者は早急に利用開始したいところだが、こういった手続きにより実際のサービス利用が遅れるばかりか、様々な書類や面談等の段取りが発生する。それらの意図や制度概要を全ての利用者に理解しろと言うほうが難しい。制度が利用者目線でないのは明白である。であるならば、「利用者の立場」に立ち、手続きを簡略化してしまうというのは一理あるかもしれない。


また、相談支援事業所の報酬単価の低さも以前から課題とされている。詳細は割愛するが、それにより、必然的に事業所はできるだけ多くのケースを持ち、その手続き処理に相談支援専門員が日々追われる事態となる。



しかし、一方で私がかつてともに多くのケースを連携して対応してきた相談支援専門員の中で「これぞ相談支援」と呼べるような、利用者の細かなニーズに丁寧に寄り添い、素敵な関わりをされている方々も少なからず存在する。

私自身も彼ら彼女らの行うソーシャルワーク力を目標にこれまで精進してきた。言うまでもなく、彼らは利用者の心のよりどころであり、文句なしに「キーパーソン」と呼べる存在であった。




この格差はなんなのだろうか。

私が活用しているSNSでは、日々相談支援専門員の悲鳴が繰り返し目に飛び込んでくる。彼らも理想と現実のギャップに心を痛めている気がしてならない。

このままでは行くつくところ「相談支援専門員なんてただ大変なだけの事務仕事だ」と言う印象だけが残ってしまいかねない。



そこで、同SNSにて、相談支援専門員として現在活動されている人や、仕事上何かしら関わりがある人、また将来相談支援専門員を目指されている方に直接お話を伺おうと、意見交換会を企画した。基本1対1で、ご多忙の中で少しでも気軽にお話しいただけるよう、zoomでのやり取りとさせていただいた。


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ありがたいことに、数名の方々よりアプローチがあり、様々なご意見や現状などをうかがうことができた。


現状相談支援専門員として業務されている方の厳しい現実や、所属事業所の理解不足、日々舞い込む多種多様な相談の対応への苦労なども手に取るように感じることができ、また、彼ら彼女らが抱える「孤独感」は私が日ごろから描いている「支援者の支援」「支援者の気持ちを支えるシステム」の必要性に通じるものがあった。


また、将来相談支援専門員を目指されている方々からは、ご自身が描くソ―シャルワーカーとしての在り方、スタイル、自分だったらこう利用者に寄り添い歩んでいきたいという思いがとても美しく感じることができ、それを実現させることができる役割であるという、本来そこにあるべき理想象をしっかりと認識されていることに嬉しさを感じた。

一方で、相談支援専門員の実際の仕事内容については情報は極めて少なく、せっかくの自身の想いに対して不安も感じている様子だった。




今回企画して多くの収穫があった。

一番はこれらの現状に辟易しながらも、皆様がそれぞれ相談員としての理想を抱いており、どうしたらそこへ向かうことができるのだろうかと言う思いに溢れていたことだ。

もちろん、日々ただ流れ作業的に書類を作り手続きするだけの相談員はわざわざこういった企画には目もくれないだろう。それでも、実際に素敵な思いを直接聴くことができたので、私自身も改めて相談支援と言う原理に立ち戻ることができ、「やっぱりそうでなきゃねえ」という気持ちを再確認できたことはありがたい。


お話を伺えた方々には本当に心から感謝申し上げたい。


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冒頭に述べた通り、相談支援専門員はまだまだ未熟成な制度である。だからこそこれからいくらでも熟成可能であり、またその分存在意義がより高まることで、相談支援の事業運営としてもポジティブな肉付けがなされていくのではと期待したい。



一点だけ、私の考えとしては、相談支援専門員の資格要件のハードルを下げることで相談員業務に携わる人数を増やすこと、一方で定期的なスーパーバイズの必修により、繰り返し示している「本来の相談支援の役割」を熟成させていくこと。これらのシステムをどうか広げてほしいと願う。これはあくまで個人的な一つの案にすぎない。



目的は言うまでもなくサービス利用者のQOLの向上。それには支援する側の、仕事としてのQOL向上も図らねばならない。


これからも推移を見守るとともに、誠実に取り組む相談支援専門員の皆様のサポートを何らかの形でできるよう、私も考えていきたいと思う。

最後までお読みいただきありがとうございました。皆様のお役に立てるようなコラムを今後も更新してまいります。ご縁がつながれば幸いです。 よろしければサポートお願いいたします。