エクイティファイナンス、泥臭いその1手で1%でも確率を上げるために。

書こう書こうと思っていましたが、なかなか書けていなかったnote。
次はいつになるかわかりませんが、今回のものはまだ記憶に新しい今のタイミングで書き留めておきたいと思ったので筆を執りました。

後ほど簡単に自己紹介にも記載しますが、直近4年間は主にCFOとして上場準備中のスタートアップに参画し、ファイナンスやIPO準備などに取り組んでいました。
しかし今月(23年9月)からは上場企業に入社し、しばらくはIPO準備企業にフルコミットすることはなさそうだなと感じているため、直近4年間で最も苦労したエクイティファイナンスについて覚えていることを書き留めておこうと思った次第です。

最近ではスタートアップCFOも投資銀行出身者やPEファンド出身者などが増え、大きな金額を(noteだけを読むと、一見)スマートに調達しているように見えることもあります。
しかし、大抵のスタートアップでは、大きな金額のファイナンスを実施したことがない経営メンバーが手探りで非常に苦心しながら進めているのではないでしょうか?
(まあ、外からスマートに見える調達も99.9%が苦難の連続なんですが。)

そんなことを考え、「TAMの重要性」「valuationをどう設定するか」のような内容ではなく(それらも少し出てくるかもですが )、ファイナンス中にぶち当たる壁に阻まれたとき、何を考え、何を言って、何を実施してきたかということを記載してみたいと思います。
もちろんこれらは、それを実施したから調達できた、なんて言う気はありません。元も子もありませんが、調達の成否はやはり事業やその成長可能性であり、ファイナンスの考え方やvaluationなども重要になってきます。
しかし、今回はそのような内容は他の方々のnoteにお譲りし、ファイナンスの時系列に従ってできるだけ泥臭い地味な1手まで書き記していきたいと思います。

ここに記載したその1手が、誰かの調達成功の可能性を1%でも上げることができれば嬉しいです。


1. 簡単な自己紹介

キャリアの変遷としては、在学中に公認会計士試験に合格し、大手監査法人グループにて監査・FAS・コンサル等を経験した後、スタートアップのCFOとして経営に関与しながらコーポレート部門の立ち上げ、経営企画まわり、ファイナンス、IPO準備等に携わっていました。

ファイナンスに関しては、SaaS企業のシリーズAとECプラットフォーム企業のシリーズBにてそれぞれ調達をしました。金額はエクイティとデット合わせてどちらも10億円程度です。

2. 事前準備

①着金の2年前

少し早いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、着金の1年半〜2年前くらいから構想を始めます。つまり、CFOもこの時期から参画してくれているとベターだと思います(じゃー何年前から探し出せばええねんとなるかもしれませんが 笑)
少し大きめのファイナンスになると着金まで半年は見ていた方がよいため(着金半年前から本格的にピッチし出さないといけないため=着金半年前にはピッチ資料を一通り完成させておかないといけないため)、着金2年前からの構想開始でも、ファイナンスできると思える状態に事業を仕上げるまで(=ストーリーを考え、施策に落とし込み、実行して結果を出すまで)1年半しかありません。

この時期に最も考えることは自社の事業ステージの変遷です。

ファイナンスの前後(ファイナンスで得た資金を事業に投下した結果)で、どう事業ステージが変わった(変わる)のか、これについて、前回のファイナンス前後、今回予定しているファイナンスの前後で考えるようにしています。
例えば以下の簡単な絵の通りですが、すでに実施済のシリーズAはPMFにより導入企業数が増加した実績をアピールし、調達した資金でエンタープライズ企業導入を進めるため(エンタープライズ向けのプロダクト開発のため)開発の人材採用を進めるとした場合、予定しているシリーズBの前に数社はエンタープライズ企業への導入実績を作り、「再現性=なぜそれができたのか(=なぜあとは営業人員を増加させるとスケールできるのか)」を投資家に伝わる言語で丁寧に深掘りする必要があると考えています。

事業ステージ(イメージ)

②着金の9ヶ月前(動き出しの3ヶ月前)

このあたりから、投資家アタックリストの作成とピッチ資料作成を始めます。
ここら辺は、他の方のnoteなどをご参照ください。
経産省の資料「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」(https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/houkokusyo/financeguidance.pdf)や、各社成長可能性に関する資料など、最近は参考になる資料も多いです。
なお、ここで既存投資家(特に前回のリード投資家)とは、資料やリストについて何度もディスカッションしておくべきでしょう。ピッチ資料や事業の見せ方への助言等が見込まれます。

3. 投資家へのアプローチ開始

アタックリストに沿ってアポを取り始めます。
ここでは特に誰がアプローチするかが重要で、まずはすでに自社に投資いただいている既存投資家の方々に数多く紹介していただきましょう。自社の特徴やポテンシャルを最も理解いただいている応援団であり、最適なキャピタリストにお声がけいただけると思います。

また、紹介いただけるということは、その投資家の投資方針を細かいところまで把握されているかもしれません。成長性が重要なのか、社会性か、valuationか、(CVCや事業会社であれば)シナジーなのか、シナジーはどこまで求められるのか、チケットサイズはいくらなのか、権限者にいくらまでの決定権があるのか、合議制なのか、自社への出資に反対しそうな人は誰で、何を気にしそうなのか、何なら紹介いただくキャピタリストの方の趣味、思考性、どんな人が好きか、過去何で他社への出資を決めたか、逆に何で出資を見送ったのか、とにかくピッチ前にできるだけ情報をかき集めます。
仮に紹介者から情報をそこまで引き出せなくても、そのアポ予定の投資家が過去どこに投資しているか調べ、その会社に同じく投資している知り合いの投資家がいないかチェックし、知り合いの投資家がいたら連絡をとってこっそり上記の情報を揃えていきます。

4. ピッチ当日

ピッチの詳細についてはこのnoteでは省略します。
ピッチとQAが一通り終われば、ネクストステップの認識合わせは必ず実施します。

また、上記で得た情報は大いに活用します。キャピタリストの方が犬を飼っていたら、アイスブレイクでは当然犬の話を仕掛けます。ピッチ資料までは変えませんが、その投資家の投資方針に沿って強調する場所を変えたりもしますし、追加で何枚かスライドを作ったりもしておきます。

そして、初回のmtgでは以下を聞くように心掛けていました。

・設立、ファンド満期
・LP
・投資方針
・主な投資先
・ファンドサイズ
・投資形態(リードorフォロー)
・投資ステージ(シードのみなど)
・想定されるチケットサイズ(レンジでも可)
・一般的な投資検討期間
・投資検討フロー(投資委員会頻度や参加者等、意思決定フロー詳細含む)

特に投資検討フローなどは意外に大事で、例えば投資委員会が週1なのか月1なのか、月1なら月末か、月初か、その前後でどんな意思決定機関による決議があるのか、中にはLP集会での案件説明が必要でその招集に2週間かかる、のようなところもあり、把握していないと着金スケジュールに大きく影響することもあります。
契約締結等の諸々の手続きが手間なのでできるだけ多くの投資家を同時にクローズさせたいですが、急いでいる場合は決まっているところだけでもなるはやでクローズさせたい場合もあるでしょう。臨機応変に対応できるよう、投資家ごとの投資検討フローや投資検討期間は把握しておくべきだと思います。

5. DD期間

エクイティファイナンスは、とにもかくにもリード投資家が決まらない限りなかなか先へは進めません。逆にリード投資家さえ決まれば、今までどっちつかずの回答だったフォロー投資家が一気に決まることもあります。とにかくリードです。リードリードリードリードリード・・・・・。

しかし、多くの企業にとってこのDD期間がつらい期間になるのではないでしょうか。ピッチ当日で明らかなお断りもありますが、はっきり断ってくれず、(ダメっぽいのはわかるものの)なかなか結論を出してくれないところもあります。
このようなところを見極めつつ、可能性があると感じたところに全力でぶつかっていく必要があります。可能性が少しでもあると感じれば、とにかく1%でも可能性を上げる努力をします。ここが踏ん張りどころです。

まず、ピッチ当日に握った「ネクストステップ」を確認します。と言っても、大抵のネクストステップはNDA巻いたり当日のピッチ資料を送ったり、良くてDDパッケージ資料(登記簿謄本とか決算書とか)を送ったりするくらいかと思います。

ここから、僕の場合は最後に資料を送った日から5営業日後までに何かしら連絡がない場合は必ず検討状況をなるべく電話で確認します。電話でないと、そのキャピタリストの方が動いてくれているのかほぼ断ることが決まっているのかなどが肌感覚でつかみづらいです。
この電話で、自社の案件が(投資委員会に)通りそうか否か、キャピタリストの方が通そうとしているのか否か、そもそも動いてくれているか否かなどを声のトーンなども考慮して確認していきます。

当たり前のことですが、キャピタリストの方に「この案件を通そう」と思っていただく(こちら側の味方になってもらう)ことがまずは必要です。事業の魅力が小さいと、ここのハードルが上がります。
そう思われていないと、いくら「チームで話してみます」と言われても、後日「チームで議論しましたが無理でした」「上長に話しましたが無理でした」という回答が返ってくるだけです。まずはこちらの味方になってもらい、「通そう」と思ってもらいます。
「通そう」と思われていないなと感じたら、チームで話してもらう前に、そのキャピタリストのマインドを変えるために動かないと結果は変わりません。

そのため、電話ではとにかく会話して様々な角度からアプローチします。

「追加で必要な資料はありますか?」
「何がネックですか?」
「どんなストーリーで投資委員会を通そうと思われてますか?」
「こんなストーリーはどう思われますか?」
「このユーザーへ、ユーザーヒアリングを実施しませんか?」
「他の投資家の方が実施されたユーザーヒアリングメモを見てみませんか?(共有の許可をもらう)」
「通すために必要と思われる資料なら何枚でも作ります!」
「なんなら僕(CFO)を部下と思って投資委員会用の資料でもなんでも指示ください!数字も集計します!」

とにかく必死です  笑
しかし、そのような会話のあと、温度感が低かったキャピタリストの方が真剣に通すことを考えてくださり、実際に投資まで至ったこともありました。
ただ、お察しの通りCFOの勤務時間はとんでもないことになってしまいますが。。

上記はあくまで一例で、とにかくお伝えしたいのは、メールで「検討状況はいかがでしょうか?」→「検討中です」さらに時間がたって電話かメールを送ると「すみません力及ばずでした・・」のような回答が返ってきてしまうのが良くない例です。
(可能性がちょっとでもありそうなら)熱いうちにどんどんプッシュする。味方になってもらう。結局キャピタリストとCEO・CFOも人と人です。「このCEOを応援したい」「このCFOがいると安心だな」そう思ってもらうために思いついた手はどんどん打っていくべきだと思います。

6. リード確定

リードの目途がついてくる段階では、とにかくタームシートをもらいましょう。とにかくタームシートです。タームシートタームシートタームシート・・・・。
タームシートは完全版でなくてもよいかもしれません。ラウンドの概要がほぼほぼ固まりだしているということが大事です。

タームシートがもらえれば、そのタームシートの内容をもとに一気にフォロー投資家を集めます。
これまでピッチをしたがどっちつかずで、ただフォロー投資家になっていただける可能性がある投資家の方々に以下の内容を含めて再度ご連絡します。(必要であればリード投資家の許可を貰ってタームシートを送付)

[ シリーズXの概要 ]
■リード投資家:XXXX
■Pre-Valuation:XX億円
■調達予定金額:XX ~ XX億円
■すでに確定している出資額:XX億円
■払込みの予定:X ~ X月

リード投資家が決まっていること、すでにXX億円の調達が見えていることなどが呼び水となります。それまでどっちつかずでも、この内容の共有で一気に何社も温度感が変わることもあるでしょう。
フォロー投資家としても、そのラウンドが固まるか固まらないか不確かな段階では、投資委員会は通せないものと思います。

7. クロージング

ここまでいけば、あとは契約書のfix、さらに集めたいなら、再度投資家探してアポ取りでしょうか。アポの取り方も、上記の「シリーズXの概要」を含めてご連絡すれば各段にDDへ進む可能性は上がるかと思います。

もちろん決まっている方々を先にクローズさせて、(一定の期間以内に)エクステンションラウンドとして2ndクローズ、3rdクローズと実施しても問題ありません。ただし、その場合はいつまで同じvaluationでクローズできるのかについて関係各所と議論し、最後のクローズ時期がタイムリミットを超えないよう、期間に留意してクローズすることになると思われます。

また、よく言われる通り、「着金するまでが資金調達」です。投資に前向きっぽい回答をもらっても、タームシートをもらっても、契約書をfixさせても、払い込みスケジュールが確定しても、銀行に入金され、その金額を1円単位まで確認するまで決して1mmも気を抜いてはいけません。苦しい苦しい期間が続き、よい回答をもらうとホッとしてしまう瞬間はあります。そのたびに決して気を抜かないよう言い聞かせながらクロージングまで持っていきます。

8. 最後に

今回のnoteでは、市場・競合・自社の強みといったピッチ内容やvaluation云々は省き、自分の経験を思い出し、何を言い、何をしたかについて記載したのですがいかがでしたでしょうか?
もちろん時と場合によるので、上記が悪手になるパターンもあるかと思います。相手との関係性を考慮し、うまく取捨選択、応用していただければ嬉しいです。

調達はやはり苦しいです。毎月毎月キャッシュがなくなっていき、タイムリミットが決まっている中なかなかうまく決まらないのが最大のストレスなんでしょう。
なかなかリードが決まらない状況の中、「またお断り」「またお断り」・・・と絶望的になることもあるかもしれません。しかし、上記で記載したように、絶望的に見えて、実は「あと1歩」かもしれません。あと1歩、あと1%、その状況から捻り出したその1言で、リードが決まり、それが呼び水となってフォローが何社も決まり、一気に何億円も集まるのが今のエクイティファイナンスの現状だと思っています。とっくに限界までやり切っていると思われている状況で、「さらにあと1歩」の一助になれたら嬉しく思います。

ただ、最初に記載しましたが、やはりファイナンスの成否は事業です。KPIが付いてきてくれていることも大事ですし、ファイナンスに関する知見・スキルもある程度は前提として必要です。どれだけ上記を実施しても、valuationの目線が全く合っていないと出資はしてくれないでしょう。これら全ての総合力だと思います。

また、通常業務やIPO準備、採用なども走っていることが多く、とにかく忙しいに尽きます。DDやQA対応は10社近くから同時に受けると、とても日常業務や定例mtgに参加する時間は持てないため、それまでに自分が日常業務を離れてもある程度IPO準備や日々のオペレーションのクオリティが下がらないよう、背中を預けられる人が採用できていると非常に助かります。僕もコーポレートのマネージャーには本当に助けられました。

そんなこんなで払い込みを確認し、その後の手続きも終わらせ、プレスリリースを打ってようやく一段落でしょうか。長いと1年以上かかるかもしれません。その期間、強烈なプレッシャーを背負い、何十日も休日出勤しながら激務に耐え、それでも何とかしようと駆け回った後の着金、プレスリリースの日は本当に格別な日となります。その日のビールほどうまいものはありません(笑)

ただ、調達の成果はたくさんの方々のおかげです。経営チーム、セールスandマーケ、開発、コーポレート、社外アドバイザーのみなさま、既存投資家の方々、それからピッチしてもお断りだった投資家の方々でさえ、やり取りを通じて大きな気づきをもらえることは多いです。
調達が完了すると、本当に関わっていただいた全ての方のおかげだなと改めて思うことになるかと思います。

しかし、調達が終わった次の日からはまたさらに次の成長へ向かって走り出すDay1です。
体調を整え、1円たりとも無駄にせず、事業の成長、社会課題の解決、経済の活性化に寄与していきたいものですね。

何人の方に読んでいただけるかわかりませんが、みなさんの調達と事業の成功を祈って、このnoteを締めくくりたいと思います。


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