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大人ってなんだよ

もう駄目かもしれないな、と思う。30代中盤に差し掛かり、何もかもが上手くいかなくなる。今までだって、何か上手くいったことなんてないけど。今回ばかりは程度が違う。上手くいかない人生を、一緒に笑い飛ばしてくれた友達とも、上手くいかなくなってしまいそうだ。そんなことを考えながら、彼女はお酒を飲む。最近は、もっぱら酒に頼るようになっている。誰かと喋る時なんて、これがなくては何も話が出てこない。いつからそうなってしまったのか、アルコール中毒になる人の気持ちはこんなだろうか、等とぼんやりする。

居場所のない結婚生活。不安なまま辞めた仕事。上手くいかない家族との関係。それらが、彼女達をおかしくさせた。それぞれが、それぞれに不安を抱き、足元がぐらついているのに。不安定も、3人集まれば、斜めにでも立っていられた。今は、お互いが相手に気を遣い、お互いのないものねだりをし、楽しい振りをしてみてるだけだ。それでも楽しかった、あの頃の3人はどこにもいない。

固執していたのだなあ、とふと思う。楽しくいなきゃ、楽しいはずだ!私達は!と、呪いをかけていたみたいだ。そんな時期ばかりではないのか。いつかまた、があるのだろうか。気軽に会える友達が少ない彼女は、余計に不安に感じている。でも、生きるしかないのだ。ひとりでも、なんとか生きるしか。

思えば、一人で何かをすることが少ない人生だったなと思い返している。若い頃は恋人や同僚、友達。やりたいことを一緒にやることが多かった。今は、誰かに声をかけること、声を掛けられて乗ること、が億劫で仕方ない。飲みに行くことですら、大抵一人でさっと飲んで帰りたい気分が多くなってきた。誰かと、が、重荷になってきた。元々一人行動が平気な人もいるが、私は誰かいるなら誰かと、がいい方だったのに。まあそれもいいのだけど。

彼女は歯を磨く。耳栓をしながら。夫の生活音が入って来ないように、夜は大体耳栓をしている。それぞれ好きな時間を過ごしている、と言えば聞こえがいいが、これはもはやただの同居だ。その核心をつくことができず、今日も無気力な表情だ。察して欲しい思春期の子供のようで、みっともない。

私達は、大人になんてなれないのかもしれない。

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