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体感型ミュージカルFumiko #9

Scene25広場
Davidが広場に座っている。
Fumikoは遠くからそれを見つめる。
Davidはそれに気がつかない。

M7 I wonder…

Fumiko:
どこか 知らない場所へ
行けば 何か変わるかな
時が 忘れさせてくれるかな

David:
いつも 胸をざわめかす
どこで 何をしていても
君が 叶えさせて くれたんだ

Fumiko&David:I wonder…

Fumiko:
もしも 本当の 気持ち
言えば 止めてくれるかな
弱音 包み込んでくれるかな

David:
どうして 消えてしまうんだ
美しいもの 何もかも

Fumiko&David:
嘘でもいいから そばにいてほしい
嘘でもいいから 君にいてほしい
君を見つけたんだ

Fumiko:I wonder where I’ll be in 10 years
David:I wonder what’s taking my heart beating
Fumiko:I wonder if he is telling a truth
David:I wonder how I can help you

Fumiko&David:I wonder…

Fumiko、退場。

Scene26強制収容所
屋外、フェンスまで数メートル。夜。
正一、登場。
鐵三、登場。

鐵三
戻ろう。

正一
いいや。

鐵三
この時間だ。見つかるとまずい。

正一
この国には自由がある。国民には権利がある。日が沈もうと、沈むまいと。関係ない。俺は出て行く。

鐵三
よそう、無茶だ。

正一
ついてくるな。

鐵三
フェンスは越えられない。

正一
越えるさ。

鐵三
外に出たいなら、明日でもいいでしょう。ちゃんと許可をもらって。まだ誰も気がついていない。今のうちに。

正一
そうさ、誰もわかっちゃいない。

鐵三
戻りましょう。お願いだ。

正一
いいや。

鐵三
どうして。

正一
俺、わかんないんだよ。本当は。Fumikoみたいに生まれた時からこっちにいたわけでもないし、テツみたいに自分の意思で海を渡ったわけでもないからさ。

鐵三
・・・。

正一
こんなになっちまってよ。どこへ行ってもよそ者で。行くところなんてどこにもないんだ。

鐵三
居場所ならあるでしょう。おじさんもおばさんもフミちゃんも待ってる。

正一
親父もお袋もすごいよ。海を渡って、必死に働いて、店を持って。俺たち育ててくれた。Fumikoは偉いよ。自分の道で必死に身を立てようとしている。それに比べて、俺はダメだ。俺にはなんにもないんだよ。

鐵三
そんなことないよ。初めてこっちに来た時、親切にしてくれて。祭りだって成功させたし。祭りの後、森で声かけてくれて、救われた気持ちだった。あなたがいたから。

正一
ありがとう。・・・お前いいやつだな。

鐵三、正一を連れ戻そうと手を伸ばす。正一、鐵三を突き飛ばし、フェンスに登る。
鐵三、連れ戻そうとすがりつく。

正一
おーい。見えるか。

鐵三
よせ。

正一、フェンスの上で監視塔に向かって手を振り、声を張り上げ続ける。
サーチライトが二人を照らす。

正一
俺はここだ。誰か。聞こえないのか?俺はここにいるぞ。この世界には誰もいないのか。俺はここにいるぞ。確かにここにいるぞ。俺は・・・。

鐵三
よせよせよせよせ・・・。

鐵三、引き摺り下ろそうとする。
二人はもみ合い。

正一
ここにいるぞ。

ライフルM1903の銃声。
照明変化、高見移動。

Scene27墓地
フェンスは取り払われ。観客たちは参列者となる。
参列者たちは正一の棺に献花していく。
棺は見送られ、旅立つ。
父、母、棺に寄り添い退場。
Fumiko、鐵三の二人が残る。

鐵三
おかえり。

Fumiko
ただいま。

鐵三
よかった。戻ってきてくれて。

Fumiko
うん。

鐵三
久しぶりだね。

Fumiko
あっという間だった気がするよ。

鐵三
そうかもね。

Fumiko
もうじき夏だね。

鐵三
うん。

Fumiko
今年はどうするのかな。

鐵三
何?

Fumiko
夏祭り。

鐵三
どうだろう。

Fumiko
ねえ。どうだろうね。誰かやるのかな。

鐵三
やりたがったろうね。正一さん。こんな時だからこそだって。きっと言うんだろうね。

Fumiko
そうだね。きっとお兄ちゃんなら。

鐵三
ごめんね。

Fumiko
何が?

鐵三
ごめん。助けられなかった。僕は

Fumiko
テツは悪くないよ。誰も悪くないんだよ。

鐵三
そんなことないんだ。いたんだよ。目の前に。

Fumiko
仕方がなかったんだよ。

鐵三
目の前で。止められたのに。無理やりにでも。僕は。

Fumiko
つらいね。

鐵三
・・・ごめん。

Fumiko
またやろうね。夏祭り。一緒にレモネード作ろう。

鐵三
うん。

Scene28

M8 旅の終わりに
信じてた
遠いどこかへ
行けるんだと

旅に出て
見つけることができる
自分の居場所を

何かになれると
疑わなかった
私を
思い出す あの日

たくさんある 記念日を
今思い起こすと
退屈な毎日が
何より愛おしい
帰らない あの日々

メドレーとともにこれまでのシーンがフラッシュバックして蘇る。
やがて記憶は再生され尽くし。
劇場は素の状態に戻り。
人々は一人、また一人、現実へと戻って行く。

THE END

劇作家。演劇、ミュージカル、オペラの台本作家です。