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体感型ミュージカルFumiko #1

Synopsis

現代、ステージと客席の区別のない空間で劇が始まる(M1夢の劇場)。
1937年アメリカ西海岸の日本人街。日本人街に暮らす正一が祭りの準備をしている。

日本から鐵三が港に到着する。いとこである正一が迎えに行き、街を案内し、妹のFumikoが出演するアマチュアナイトの開催される劇場に連れていく。
Fumikoがステージで歌う(M2あなたのせいよ)。鐵三はFumikoに見とれる。

3人はクリーニング店兼自宅へ戻る。鐵三がFumikoのステージのことを話題にしてしまう。対立する父と正一。
もやもやとした気持ちを抱えながらFumikoと鐵三はレモネードを作る(M3レモネード作ろう)。

夏祭りが始まる。盆踊りの後、Fumikoと鐵三は二人で森を歩く。
鐵三は自分の境遇と夢を語る。Fumikoはその言葉に勇気をもらい、自分の夢と向き合おうと実家を離れる決心をする。

劇場で大掛かりなリハーサルが行われている。Fumikoもそれに参加している(M4メトロポリタン)。
なかなかうまくいかない状況に耐えるFumiko。カフェで鐵三に宛てた手紙を書き、再び鏡の前に立ちトレーニングに集中する(M5In the Mirror)。

鐵三と正一が届いた手紙を読む。正一は自分の店を持つ計画を打ち明ける。

Fumikoはオーディションを受け続ける日々。そこでDavidに出会う。

正一は父に計画を打ち明ける。対立する二人。正一は家を飛び出す。父は母に内心を打ち明ける。

Davidの作品に参加することになったFumikoはRachelと再会する。自分だけが選ばれたわけではないことを知りショックを受ける。

作品のリハーサルの最中、Fumikoを訪ねて鐵三が楽屋に現れる。
新しい環境で奮闘しているように見えるFumiko。鐵三はそんなFumikoとの間に距離を感じる(M6クインテット)。

1941年12月7日、日米開戦。ルーズベルトの議会演説がラジオから流れる。日本人街の人々は不安を感じる。

Davidと劇場支配人がFumikoの出演について話す。支配人は降板を主張しDavidは受け入れざるをえない。
支配人はFumikoに降板を伝える。

Fumikoは去ることが決まった舞台上で最後に一人、踊る。そこにDavidが声をかける。DavidはFumikoにブロードウェイへ一緒に行こうと打診するがFumikoは申し出を断る。

日本人街で日系移民たちの強制収容が始まる。

劇場のポスターからFumikoの名前が消されていく。それを眺めることしかできないFumikoにRachelが声をかける。

FumikoはDavidの待つ広場で遠くから彼を見つめる(M7I wonder…)。

収容所で正一はフェンスを乗り越えようとする。

墓地でFumikoと鐵三は再会する。

Fumikoの記憶の風景が立ち現れ、これまでの楽曲のメドレーとともにシーンがフラッシュバックしていく(M8)。

Fumikoはシューズを脱ぎ、劇は幕を閉じる。


CAST OF CHARACTERS

Fumiko
鐵三
正一


David
Rachel

学生たち
広場を行き交う人々
日本人街の人々(男1・2、女1・2・3)
八百屋
ダンサーたち
演出家
給仕たち
劇作家
俳優
女優たち
写真家
ポスター貼りの男

女性ダンサーの声
支配人
劇場スタッフたち
州兵たち
作業員たち
参列者たち

Scene 1

舞台と客席に明確な区分けはない。観客は思い思いの場所で劇を体験する。
中央に可動式の高見が複数用意されている。俳優たちは一部の役を除き複数の役を兼ねる。シーンは照明、音響、装置などにより一瞬で変化する。
現代。周囲にはこれから使用される装置や小道具、衣裳が置かれている。
DJ Boothのように設置されたEngineer Boothには華やかに着飾ったLighting Engineer, Sound Engineer, VJがいる。
現代の魔法使いたちは光と闇に彩られたフォトジェニックな空間を創り出し、重低音のビートに揺さぶられた人々は、日常から非日常へ誘われる。

一人の男が座ってただじっと何かを待っている。
序曲が始まる。照明変化、日常空間と劇空間が交差する。
次第に劇空間が優勢になり、現実から劇の世界が立ち上がる。

M1 夢の劇場

暗闇に 明かりを 灯して
広がる 幻は
ひとときの 楽しみ
それは show must go on

笑顔 涙 拍手 歓声
喜び 歌声 悲しみ 雄叫び
sing dance kill

全てが叶う 魔法をかけて
思い描けば ふくらむ 空想と 物語
それは show must go on

歌い 踊り 理想 希望
熱狂 興奮 抱腹 絶倒
sing a song

世界が歌いだす まだ見ぬ未来へ
世界が踊りだす 太古の昔へ
暗闇の淵に目を凝らせば
星の輝き そう

show must go on
show must go on
show must go on

舞台の対角線上にFumikoと真新しいシューズ、光の中に現れる。
舞台上にはFumikoとDavidが残っている。
Fumiko、シューズを履き、姿勢を正し静止する。
Davidは不意に立ち上がり、Fumikoを見つめる。

David
フミコ。

Scene2
1937年、アメリカ西海岸の日本人街。
海の見える広場に近い倉庫。
櫓を組む木槌の音が聞こえる。
正一、倉庫から提灯を両手いっぱいに持って登場。
正一は右足を引きずりながらゆっくりと観客をかき分けて歩く。
提灯を倉庫の外にまとめて置き、再び倉庫に戻る。
正一、材木を運び出してきて、提灯の隣に置く。
正一、額の汗を首にかけた手拭いで拭う。

正一
おうい。

男1、2登場。

男1
はいよ。

正一
これ頼む。

男1
はいはい、これね。

男2
あとどのくらいだ?

正一
長物はこれで最後だ。あとは提灯とか、幕とか細々したものだけ。向こうの様子は?

男2
櫓を組んでるよ。

正一
じゃあ持って行ったらそのまま向こうに合流してくれ。

男2
人使いが荒いねえ。

正一
労働者は労働するものなんだよ。

男1
なに当たり前のこと言ってんだよ。

正一
気に障ったか?悪いな、ブルジョワジーの風を吹かせちまって。

男2
また始まったな。好きだな。オメーも。そういうよくわかんねえもんがよ。

正一
いいだろう?

男2
大変結構なことでございます。

正一
諸君らにもいつか教えて差し上げよう。

男1
誠に勿体無いことでございます。ほら、いくぞ。

男2
はいよ。

女1、女2、女3、ケタケタ、クスクス笑いながら登場。
男1、2、材木を持ち、観客をかき混ぜながら退場。
女たち、その様子を横目にケタケタ、クスクス笑い合う。

正一
次、これな。

女1
はあい。

女たち、提灯を手に取りながら。

正一
楽しそうだな。何かあったの?

女2
別に、ねえ。

女3
うん。

女たち、顔を見合わせてクスクス笑う。
正一、つられて笑顔になる。

正一
祭りだからって浮かれるにしてもちょっと早いだろ。

女1
そんなことないよね。

女2
うん。

女3
ねえ。

正一
そうか、まあなんだかわかんねえけど楽しそうで何よりだ。

提灯が一つ余る。女1、拾おうとする。正一それを制して。

正一
ああ、いいよ。俺が運ぶから。

女1
はあい。行こ。

女2
うん。

女たち、提灯を持ち、クスクス笑いながら退場。
正一、見送った後、伸びをして、後屈する、鈍い痛みに一瞬顔が曇る。
右足をさすり、ため息。
汽船の汽笛の音。

正一
もうそんな時間か。

正一、提灯を手に退場。

Scene3日本人街
夕刻。
往来は商売人や買い物客など様々な人々で賑わっている。
Fumikoは人目を気にしつつ劇場へ急ぐ。
正一はやや急ぎ足で船着場へ向かう。

つづく 6月3日から7月29日まで毎週月曜に3シーンくらいずつ公開予定

劇作家。演劇、ミュージカル、オペラの台本作家です。