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万年筆とある店と後悔が先に立っている状態と立っていない状態が重ね合っている話

万年筆とある店に纏わる話。
コレクションを趣味にしてしまうことはとても生産性の低い話なのですが、小さい頃から絵葉書だったり帽子だったりストールだったりを集めるのが趣味でした。
万年筆もその1つといえばそうなんだけど、元々字を書くのが好きでその延長線上にある筆記用具なので、仕方ないこれは致し方ないと自嘲気味にネットで記事を探したりカタログを眺めたりする日々です。

わたしは愛知県在住で、名古屋に三○堂さんという昔からの万年筆専門店があると知り、一度行ってみようと思ったのが4年位前だったような気がします。いや思い出せそうだからしっかり思い出そう。
毎年恒例Pelikan万年筆のInk of the year、
2023 
2022 Apatite
2021 Golden Berly
2020 Moon Stone
2019 Star Ruby
2018 Olivine
2018のオリヴィーンから集めはじめ、セットで出るM205をこの店で見つけて買ったのだから5年前でした。

明るい店内に各メーカーや各シリーズごとに置いてあるインクや紙や万年筆たち。
初めて行ったときはテーマパークかってくらいにテンションがあがった気がします。

店内に居た美人猫
我が物顔なのがたまらん

初めてなのに仲良くしてくれるお母さんと、職人気質なお父さんみたいな分かりやすい構図でした。

気難しいお父さんとは最初のうちはあまり話も出来なかったのですが、作業休憩で外にタバコを吸いに行かれた時にたまたま一緒に喫んだり、わたしが地元の古い本屋さんで見つけたレトロ万年筆のニブを触ってもらいながら雑談したりと、そんな事をしているうちによく笑ってくれるようになりました。
その中でも瞬間最大風速的に3人で盛り上がったのは、平日の終業後に予約していた万年筆を取りに行き店内で目についたトノリムさんのインクガチャ(:お金を払いクジを引き、クジに書いてあるイラストに応じたインクが貰える)をして、
わたしが1度目に引いたイラストを見事1/20で当て同じインクを2つゲットした時でした。
『Andyさん、ルールだから仕方ないけど何かオマケしよか?笑笑』
などと笑われ仲良く談笑しました。

その時のクジ

それからというもの、気になったものが発売されたら見に行き、友達のお祝いはその店で探し、何もない時でも四半期に一度は「元気〜?」などと顔を出していました。

ある時はデートの途中に予約した物を(よく予約してんな)取りに行って、お父さんにペン先の調整してもらいながら話していると、ふと私の祖父を知っている事が判明し女の子放置で話し込んで、友達に嫉妬する彼女ムーブみたいなものをキメられたりしました。

そこから少ししてお父さんが体調を崩され、店を閉めがちになり一度は時短ながらも営業を再開したものの、2022年の初秋以降はお店が開いていない状態です。

仲良くなってからのお父さんは、本当に、笑うし押し売りみたいなこともしてくるし朗らかで冗談が好きな人でした。
わたしがお店に通いだす前に発売された三光堂90周年記念万年筆の話をしながら、
「100周年出たら10本買いますね!」
『他のお客さんに迷惑だからヤメてくれ』
みたいな話もしました。

久しぶりに店が開いたその初秋に伺ったときは、お父さんは不在で、5月にお父さんにすすめられた秋発売のパイロット予約限定発売の万年筆をキャンセルしてくれないかとお母さんに言われました。
これから店がどうなるかも分からないから申し訳ありませんと。
仕方がないのでキャンセルされてしまったパイロットカスタムヘリテイジ912〈グリーン〉POに近い万年筆、パイロットカスタム742POを買いました。(PO=ポスティングという特殊ニブ)

後悔の話はここから始まるのですが、まさかそれから一度もお店が開かないとは。

大好きな場所だった大好きな人たちだったけれど、上り道の数だけ下り坂があることや日が昇った数だけ沈むことも人生で知っている歳なので、元気になって同じようにお店が再開するとは思っていません。
ただあれからもう二度とお店に入れない状態になるとは思っていませんでした。正直もう一度くらいは行けるものだと。

家にある三光堂さんのオリジナルインクを確かめて、持っていないのを全部買おうと思っていた事すら遂行できずに、次の年度に入ってしまうとは。

家にあったインクと三光堂で買った万年筆の一部


まだこれからどうなるか分からないので後悔が先に立つか立たないか分からないけれど、最適解が見つけられないでいるという話。

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