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【タイ生活】日タイ国際結婚における子どもの名づけ

 日タイ国際結婚において、というか自分の子どもが生まれたときの話を前回前々回と書いていて命名に関することを思い出したので、ここに残しておきたい。

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 これは前回掲載した子どもの日本パスポート取得時の画像だ。娘が生まれたとき(2006年)はなにも言われなかったが、2010年に大規模な反政府集会が続き、過激化した際に在タイ日本大使館は会場近くだったために閉鎖するハメになった。そのときの経験からか、息子の出生届を出した際(2011年)に大使館側から行く用事がなくても早めにパスポートを作るように言われた。そのときに撮ったものだ。

 タイとの二重国籍の場合はタイで先にパスポートを作り、そのあとに日本のパスポートを作る。記載内容に違いがないように在タイ日本大使館が配慮していると見られる。

 タイ側のパスポートには二重国籍と判断できる箇所がないが、日本パスポートには二重国籍がわかる箇所が存在する。たとえば名前の欄で、タイと日本の名前が違う場合、日本名の横にカッコでタイ名が記されるようになっている。うちの場合も、タイの本名と、日本の本名がまったく違う。そのため、そのあたりの間違いがないように、先にタイで作り、あとで日本のパスポートを作るのだ。

 我が家の子どもたちがタイと日本で名前が全然違うのは、娘のときに妻と決めたことで、タイの名前は妻が考え、日本の名前はボクが考えるので口出しを互いにしないことになっていた。

 とはいえ、夫婦揃って自分で名前を考えていない。娘のとき、妻は叔母に僧侶に名前を決めてもらうように頼んでいた。これはわりと普通のことのようだ。息子のときは妻は自分で僧侶が書いた名づけの本を買って決めていた。

 ボクは日本の幼なじみの兄に頼んで候補をもらい、そこから決めていた。友人はもう20年も前に亡くなっていて、その兄とは今も繋がりがあって頼んだ。娘のときは中国映画にハマっていて、繰り返しの音がほしいとリクエストした。好きだった映画のヒロインがティンティンという名前だったからだ。パンダも繰り返しの名前だし、中国はそういうのが多いのかなと思い、中国に留学していた友人の兄に頼んだというわけだ。いくつかもらった候補の中で音を気に入った名前を選び、意味を持たせないためひらがなでつけている。

 息子のときはノーリクエストで「娘のときに考えてくれたので今一度」と頼み、いくつかいただいた候補の中から漢字一文字だけ取ってつけた。今の職業に合った名前でボクは気に入っているが、最初は親族からどうなのかなと言われたものだ。今ではみんなその名前にしてよかったと言ってくれる。姪っ子ふたりもひらがななので、息子もひらがなにしようと思ったが、男でひらがなはちょっとな、と思い直して、息子は漢字にしている。

 ちなみに、ボクはいわゆるキラキラネームが嫌いだ。これは日本っぽくないとかではなく、実用性に乏しいからだ。ボクの名前はタネオミであり、キラキラではないにしても、子どものころは使いづらい名前だった経験からそう思う。今でも子どものころのクセが抜けなくて、名前を聞かれても絶対に「高田です」と答える。日本では姓で答えるのは普通だけれども、タイでは名前は? と訊かれたらちゃんと名前を答えるのが一般的だ。

 タイの名前の話に戻ると、国際結婚の場合、子供は親が望めば二重国籍になる。その場合は両方の国で出生届を出さないといけないのだが、戸籍自体(タイは戸籍というか出生証明書や住居登録証)はリンクしていないので、極端な話、日本で一郎、タイで二郎という名前にできる。

 タイにはチューレンというニックネームの文化がある。これは精霊信仰の名残で、悪霊に赤子を奪われないよう、人間とは思えない名前をつけて呼んだことが始まりだ。しかし、今は英語で言うところのニックネームだけが先行していて、どんなチューレンでもよくなっている。うちは日本名が短いので、日本名がそのままチューレンになった。

 よく「タイ人は友人の本名すら知らない。チューレンしか使わない」という外国人がいるが、そういう人のタイ話は信用しない方がいい。タイでも公式の場ではちゃんと本名を使うからだ。それを知らないということは、タイに根ざして生活していないので怪しい人確定である。タイでは学校、職場、あらゆる場所で本名を使うし、「名前はなんですか」と訊いたとき、普通は本名を答える。

 普通にチューレンしか使わないのは、相手がこちらを怪しいと思っているときか友だちになる気がないとき、また、外国人の場合、大概は夜の世界で出会った相手である。ゴーゴーバーでもカラオケでも、そこで働く人は夜の店用のチューレンを使うことが多い。いわゆる源氏名だ。親しくない限り、夜の世界ではタイ人同士でも本名や本当のチューレンは言わない。だから本名を知らないのだ。もちろん、ママさんとか経営者は給料を払う際の税務関連の書類を作る必要があるので本名を知っているのだが。

 子どもの話に戻ると、タイと日本の名前を違うものにしている日タイ国際結婚組は意外と少ない。ちょっと古い人になると二重国籍になっていない人もいたりする。結局のところ、人ぞれぞれというわけだ。

 ちなみに、妻の姓は、当然ながら元々タイのものだった。タイは名前のバリエーションがあまり多くないが、姓は逆に多くあり、名家ともなれば姓を聞くだけで「ああ、あの一族か」とわかる

 ボクとの結婚の際に、妻は高田になった。これも戸籍がリンクしていないので、こちらから届けないと変わらない。もしかしたらタイ人同士でもそうかもしれないが。ボクは自動的に変わると思い込んでいた。タイで入籍が終わり、日本側は在タイ日本大使館で手続きをして、大使館が日本の然るべき市役所に送ってくれる。そのときはまだ姓を変更していないので、妻は旧姓のまま日本の戸籍に入った。

 そのあとに姓を変更した。当時は住居登録がある役場でないと変更できなかった。今はオンラインで繋がっているので、ワンストップサービスなどで変えられるみたいだが、当時はまだそうではなかった。それでしばらくしてから変更し、それを日本側に改めて届け出た。そうしたら、日本の戸籍側では妻は「改名」したものとして記載されていた。

 タイ人はすぐに改名する。会社員時代も名前を突然変えた人が何人もいるし、妻の姉も名前を変えている。手続きが簡単で、運勢とか、僧侶に言われたとかでサクッと名前を変えてしまうのだ。このあたりは日本人の感覚からは大きくかけ離れている。元々チューレンの文化なので、あまり名前に愛着を持つことはないのかもしれない。

 以前近所に住んでいたタイ人女性は、近年に名前を「アラレ」に変えた。これに対して共通の友人が激怒していた。「タイの名前じゃない」と。チューレンならともかく、本名でそれはあり得ないと言う。タイ人は妙に保守的なところがあるので、改名は普通にあるのに、そういう変なところで怒ったりする。

 まあ、その違和感はボクも持っていたので、怒るのも理解はできる。まず、そのアラレとは日本のマンガ「ドクタースランプ」のあのアラレちゃんから来ている。その女性は今はもう50歳くらいかな。小柄で色白なのだが、髪型がアラレちゃんみたいで、メガネもかけている。それで周りからアラレちゃんと呼ばれるようになり、本人も気に入ってのことだ。

 でも、似てないんだよ、アラレちゃんに。キーワードだけで言えばアラレちゃんっぽいけれども、それって髪型とメガネだけの話であり、それをやめてしまえばアラレちゃんでもなんでもない。なのに、本名をアラレに変えるその痛さ。

 ボクはそこに違和感があったし、でもタイ人らしさも感じた。周りの意見はどうでもいい。自分がしたいことをする。人間、そう生きるのが一番じゃないか。子どもたちにも自分らしく、自分を信じて生きてほしいとボクは思う。

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