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バーンチエン遺跡博物館はタイ人らしいエピソードが盛りだくさん

 タイにはユネスコに登録された世界文化遺産がいくつかある。その中のひとつで、タイ東北部を代表する世界遺産でもあるのが「バーンチエン遺跡」だ。国立博物館もあり、ウドンタニー県のちょっとした観光地にもなっている。この博物館ができるまでのエピソードにタイ人らしさが満載だった。

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 バーンチエン遺跡(バーンチェンという表記もある)は、タイ東北部でも大きな街を持つウドンタニー県にある。中心部から車で1時間かからない程度の場所にあり、遺跡発掘跡地と出土品などを展示した博物館がある。

 バーンチエン遺跡は東南アジア独特の文明であると考えられている。黄河文明やメソポタミア文明とは違っているのだとか。タイの有史以前に存在した文明であるため、どういった民族がこの文明の中心にいたのかがいまだ判明していない。現在はこの文明はこの辺りに紀元前3000~2000年ごろに存在していたと考えられている。

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 遺跡が発掘された現場にこのバーンチエン国立博物館がある。タイ政府観光庁のサイトでは、入場料が150バーツとされている。同時に遺跡の跡地にも入場できるので、決して高い金額ではない。

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 ボクがここに行ったのは結構前だ。2015年とかそれくらいかと。博物館には前国王のラマ9世王の姿が描かれていた。前国王がこの博物館開設に強く関わっているというのもあるのだろう。

 そもそもこの遺跡は、実はずっと以前から露出していて、地元民には知られたものだった。しかし、タイ人らしく、土から土器がじゃんじゃん出てくるにも関わらず、誰ひとり、これに歴史的価値があると考えなかった。拾っては洗い、自宅でツボなどとして普通に使っていたのだ。

 1960年代に入り、ここに赴任してきた教師たちが、この土器に歴史的価値があるかもしれないと考え始め、独自収集されるようになった。その後、1970年代に重要性が見直され、ラマ9世王も現地に見学に来た。そのときに、この土器はこの土地のものだから、この土地で保管されるべき、という発言をされ、この博物館ができた。

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 国王の声がなかったら、おそらくこの博物館はできなかった。もっと言えば、教師が疑問を持たなければ、この文明すらなかったことになっていた。教師たちが騒いでいたころも地元民はここの重要性にはあまりピンときていなかったのではないか。それが、絶対的な人気を誇っていた前国王が地元のことについて言ってくれたことで、ようやくここになにがあったのかを実感したことだろう。今はこうして発掘と研究がタイの中でも進められていて、外国の大学などによる研究も行われている。

 タイは中国南部から今の小タイ族の祖先が南下してきて定住したとされる。そのはるか前にこの地域では初期の青銅器文明があったということになる。ただ、現在のタイ王国があるエリアには石器時代からいくつか人間の集落があった証拠があり、必ずしもこのバーンチエンだけが注目されるべき文明というわけではない。

 でも、そんな大昔にここで暮らしていた人たちがいると考えると、なんかロマンを感じる。農耕や狩猟も行われていたようで、逆に言えば、人が暮らせるだけの動物がいたとも言える。どんな肉を食べていたのかなど、気になることはいっぱいある。

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 このバーンチエン国立博物館は1975年には設立されているが、一般公開は1981年から。そして、2010年になって画像のようにきれいに整備され、見学しやすいようにジャンルごとに分けて展示物が並べ替えられたそうだ。

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 そして、言ってもこの地域だけなので、特にこれといった展示物がないらしく、発掘の様子が模型になって飾られていた。この発掘の現場はすぐ近くにある遺跡で本物を見ることができる。

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 博物館から遺跡までは徒歩で数分だ。その間、観光地らしく、観光地らしい売店が立ち並んでいる。全然この遺跡に関係のないものから、地名を刻んだ変なグッズなど様々ある。

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 その中でもよく目についたのが、この文様のツボだ。これはバーンチエン文明で使われていたとされる陶器特有の模様で、こういった色がつけられた土器が出土している。勝手に拾って家で使っていたくらいなので、拾ってきて売っているのだろうか。世界遺産なのに。タイならやりかねない。

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 と思いきや、素焼きっぽい陶器と、そのツボに入った塗料がある。まさかと思えば。

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 このように軒先で堂々、ツボに色を塗っていた。要するに、売られているのはレプリカだ。いろいろなサイズがあるが、一応陶器である。割れるリスクと重さを考えると、バンコクや外国から来た人が買って帰るにはちょっと難易度が高めな気がする。

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 さて、そんな商店街を抜けると、このようにバーンチエン遺跡跡地がある。こちらも博物館っぽくなっているが、屋根で発掘現場の跡を覆っているに過ぎないシンプルな展示場だった。

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 中はこのようになっていて、発掘当時の様子を示している。思ったより大量に土器が出土しているようで、これだけ出ていればさすがに地元民も普通に拾って使うよなあ、と妙に納得してしまう。

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 これだけたくさん出てくるなら、発掘のバイトも楽しかっただろうな。日本ではゴッドハンドと呼ばれながら不正をしていた人もいたというのに。

 バーンチエン遺跡は市街地からちょっと遠い。市街地から行く場合は足はいくらでも確保できるが、帰りはちょっと厳しいかもしれない。だから、タクシー、トゥクトゥク、ソンテウは往復で確保した方がいい。


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