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25.本屋と起業とブチの信条。

起業に興味を持ってから、やたら本屋に寄るようになった。営業仕事のビル倒しの合間の小休憩に本屋に立ち寄ったり、昼食を立ち食い蕎麦でササッと済ませると本屋で起業に関する本を立ち読みしたり、ついには帰り道にデパートに入る大型書店に寄り、起業に関する本を2冊も購入しちゃった。

俺の記憶の限りだが、本なんて買うのは3年ぶりぐらいじゃないだろうか? それも、その本も、サッカーワールドカップ関連の雑誌で、こういう専門書?実用書?みたいな本を買うのは、ひょっとしたら10年ぶりくらいかもしれない。それも、その日の内に2冊とも読み終え、翌日には、さらに1冊購入して、やっぱり、その日の内に読み終えていた。

休日。シーチキンロードでブチと遭遇した。「お~ブチ」と声をかけると、いつも通り、俺の方に寄ってきてくれた。

「なあブチ、俺、今さ、起業しようかどうか迷ってるんだけど、どう思う?」
「ンにゃー」
「そう、あ~、ホント、そっか、そっか」

ブチは俺が起業に挑戦する事に賛成してくれている。現状維持は衰退というのがブチの信条みたいで、ブチはブチで猫の集会の復活と、縄張りが異なる猫同士の連携などを進めているそうだ。

何しろ、猫は猫の習性をなんて言ってたら、人間社会で加速する潔癖の前に生活が脅かされてしまう。だから、ブチとしては、猫も適応しなければならないと考えているみたいだ。

立派な奴だ。俺はブチに、虎を保護猫団体につないでやって欲しいとお願いした。ブチも俺と同じ事を考えていたみたいで、川の向こうの大きな公園の周囲が団体の活動領域に含まれるので、縄張りのドンに交渉して虎が向こうで動き回れるようにすると約束してくれた。――もう友達だな。

セミナーから2週間。起業への意欲は衰えるどころか高まっていた。既に以前購入した3冊を、もう3周も読み返している。本屋に寄るのが楽しくなってさえいる。

スパルタな母から離れて以後、本を見るのも嫌になっていた俺だったが、いざ読み出すと、案外スラスラと意味を取れる自分に驚いた。まあ、あれだけ塾だ何だと受験勉強を強制されれば、そりゃ活字を読むのは得意になるのかもしれないが、三十代半ばになるまで、本に触れるのすら嫌だったのだから、親の強制ってのは本当に良くない。

でも、そんな本嫌いに陥ってた俺が、もう何周も読み返しているのだから、これは本気なんだと思う。

高山に会った時に思い切って相談してみた。高山からは、

「いいと思うぞ! 何か目標があると、そこに向かって自分をチューニング出来るタイプだったろ」
「サッカー部の時なんて、俺からみたら、ストイックそのものだったからな」

と言われた。

確かにそうだったかもしれない。練習で疲労困憊の中でもしっかり生活が出来ていた。俺は好きで没頭していただけだったが、そうだそうだった、周りからは「ストイック」だの、「真面目」だのと評価されていた。酒乱時代の俺からは想像もつかないよね。

高山から、「やってみろよ! ただ下手なコケ方すると、また負のスパイラルに陥っちゃう危険性があるから、プロの支援を受けてながら挑戦してみたら」と言われた。

俺もそれが良いと思う。とにかく色々な人の助けが俺には必要。弱い人間だからな。高山にお願いすると、高山の会社の先輩で、現在は独立しビジネスコーチをしている本多さんを紹介してもらう事になった。


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