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03:絡みボコられ彷徨い助けられる

夜、横浜N町のいつもの居酒屋のカウンターで飲んでいた。

金も無いのに酒浸り。これも粘性の痰みたいな自信と現状との整合性をつける為の実践だったと思う。この日は、俺の悲惨話が面白いからって、なぜか奢ってくれる身なりの綺麗な場違いなおっちゃんが居て、アホみたいに飲み過ぎてしまった。もう、途中から記憶が無い。

そして、こういう時、必ずといってトラブルを起こす。今回もそうだった。俺の記憶には無いのだが、後日店主に聞いたら、4人掛けの席で飲んでいた無作法な若者にキレて絡んだらしい。若者が店主に対して生意気な口を利いたのをキッカケに、なぜか俺が激高してカウンターの上の蓋付きの陶器に入った、店主特製の漬物をぶっ掛けたらしい。

その後、外に連れ出され、数十発もの蹴りを食らわされ、最後は地べたに這いつくばってたそうだ。

店主と、たまたま通りかかった店主の友人(強面)が場を収めてくれたので打撲程度で済んだのだが、そのままぶつぶつ文句を言いながら、お代も済ませずにどこかへ行ってしまったらしい。で、どうやら、そのままどこぞの細い路地に入っていってしまい、その路地の突き当たりの場所で寝てしまった。

時期は11月下旬。これ、下手すりゃ死んでたかもしれない。

気付くとソファーの上で横になっていた。目を開けて一番最初に飛び込んできたのが、棚に並ぶ日本酒の漢字と、瓶の首からぶら下がる札の財前という手書きの漢字だった。天井の茶色とシャンデリア風の照明を経由して、煤けた色のベルがぶら下がった扉が目に入ると、茶褐色の扉の小さなガラス部から光が差し込んでいる。

体が縮むような感覚と、全身が痺れているような感覚が交互に襲ってきては、腹の底から震えが全身へと伝わってゆく。何となくだが震えの原因は寒さだけでは無い気がした。

ブルブルと震えながら上半身を起こすと、「あ~、起きたの? あんた大丈夫?」という酒焼けと言うよりシャンソン歌手のような声が、耳というより胸に響いた。

「あ~、どうも」

この人は、お店のオーナーの江夏さんで通称はハイエナコさん。青色の髪型が印象的な派手な化粧の兄ちゃん……、いや姉さんだ。

ハイエナコの姉さんが、ブルブル震える俺に、熱いお茶、熱いお茶漬け、熱い味噌汁を食べさせてくれた。これがマジ旨かった。熱い味噌汁で舌がヒリヒリし出す頃にやっと震えが収まった。

「あんた名前は?」 
「あ~自分、田島淳平って言います」
「田島淳平か…、ええと、じゃあ、あんた『田島っち』ね」
「はい」
「あのね田島っち、あんた昨日ね――」

どうやら、若人にボコられ後にあちこち彷徨い歩き、細い路地の突き当たりで寝ている所をハイエナコさんのお店のスタッフさんが見つけてくれたみたいだ。

すぐに救急車を呼んでくれたのだが、酔った俺が機嫌悪そうに「大丈夫だ!大丈夫だ!」と言って強引にその場を去り、今度は近くの川沿いにあるベンチで寝てしまった。

ハイエナコさんは駆けつけてくれた救急隊に謝罪し、「私が最後まで見届けますので」と伝えた上で、彷徨う俺の後ろからお店のスタッフと共に付いてきてくれた。

俺はというと、彷徨った挙げ句に川沿いのベンチで再び寝だす。そんなしょうもない俺をスタッフさんと2人で抱え、お店まで連れてく事にしたそうだ。

俺を抱え上げようとしている途中、恐らく救急隊からの連絡を受けたであろう警察官が駆けつけ、一緒にお店まで担いでくれたそう。去り際に警察官から「変な事しちゃダメだぞ」と言われたそうで、「失礼しちゃうわよね」と怒っていた。

<続く>


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